#224(5週目土曜日・夜・????)

「チッ! こっちは行き止まりだ。そっちはどうだ!?」

『行けそうだが、モブの処理に手間取っている。早く応援に来てくれ!』

「あっちが正解だったか」

「時間が惜しい、急ごう」

「 ………。」


 イベント中でも、少数パーティーを組んで行動する基本は変わらない。時間経過とともにマップ情報は共有されるものの、そこにはタイムラグが存在しており、それを待っていれば全ては後手後手に回りライバルを出し抜くのは難しくなる。結局、最前線では仲間同士の連携が必要不可欠なのだ。


「あれ? お~ぃ。え? 先に行った??」


 2人1組で行動していたはずなのに…、突然消える相方に戸惑うPC。反射的にシステムメニューを開き、PTの状況を確認しようとするが…。


「よそ見はダメにゃ?」

「え?」


 突然かけられた声に反応すると、ほぼ同時に視界は暗転。今頃、スポーン位置で再会したPTメンバーと、PKされた驚きと憤りの感情を共有しているころだろう。


「臨時PTは狩りやすくて助かります」

「外部チャットとか、まず間違いなく使ってないからにゃ~」


 現れたのは仮面姿の女性PC2人。


 2人は通路の死角に潜み、孤立したPCを次々と死角から襲っていた。通常ではNPCの魔物が死角に潜みチャンスまで襲わずに待機する動作は行わない。加えて、時間制限もあるので通路の死角に対するクリアリングはどうしても不十分になる。しかし、通路が行き止まりだった場合は反射的に手分けして周囲を確認する動作をする。するのだが…、やはりそこにも"隙"は生じてしまう。


 2人の作戦はこうだ。

①、通路の死角に潜み、少数PTが袋小路に向かうのを待つ。


②、スニーク状態で通過したPTの背後を追い、行き止まりで仲間との連絡などに気をとられている隙をついて奇襲攻撃で仕留める。


③、場合によっては声をかけて注意を片方に集めたり、仮面をはずしてすれ違った無害なPTを装う。


 2人は侵入側なので、通常通りNPCに襲われるが、それと同時にマップ共有の恩恵を受ける。つまり、共有されていないエリアに陣取り、その場所が共有されるまでソコでPKを続ける作戦だ。


「不自然ですね…」

「なにか、おかしいにゃ?」

「先ほどからEDや悪徳ギルドと思えるPCにあたりません」


 2人の作戦は「初心者狩り」であり、PKになれたベテランやPK自身には通用しない。にもかかわらず、上手くいきすぎているのだ。一部の上位陣は進行度を上げる目的でイベントの参加を辞退しているものの…、それでも、あまりのトントン拍子に経験的勘が警鐘を鳴らす。


「ん~、連中は所詮、(勇者)同盟のパシリにゃ。義理で参加しているだけで、実はやる気ないんじゃないのかにゃ?」

「それはあるでしょうが…、しかしそれだと」

「キルできなくてストレスにゃ?」

「はい」

「にしし、アイにゃんは素直だにゃ~」





「あっ! コイツらもC√PCだ!!」

「女性PCの癖にホモか、まぁいい、どっちでもやることは変わらない」


 別の通路では、C√の女性PC3人のPTが、L√の4人PTに絡まれていた。本来なら、一般プレイヤーには未転生アバターのルートを外見で判別するすべは存在しないはずだが…、自警団が配布しているBLと呼ばれるアバター判別ソフトを使えば(何らかの理由で登録しているPC限定で)相手のルートを特定できてしまう。


「ちょ、いきなり何ですか! 私たち、Cルートですけど普通にイベントに参加しているだけでPKとか妨害はやっていません!」

「見え透いた言い訳を! イベントに参加しても得られるのはL値だけ!!」

「それこそ、PKでも、しない限りはなっ!」

「いいじゃないですか別に、Cルートと言っても、N寄り何です」

「そんなの知るか! 構わない、キルしちまえっ!!」

「「おぉ!!」」


 本来C√PCは妨害目的での参加と見て間違いない状況なのだが…、好戦的なL√PCに対してC√の3人は、乗り気には見えない。見方によっては「物見遊山」だったり「ドロップや経験値目的」での参加に見えなくもない。少なくとも、態度だけ見ればそうだ。


 対してL√PCは、相手がC√PCであっても一方的にキルすれば何らかのリスクやペナルティーを背負うことになる。しかし、イベントエリアでは王国の法律は適用されない。つまり、L√PCであっても一方的に相手をキルできるわけだ。そんなわけで、(時間制限もあり)L√PCは「取りあえず疑わしきはキルしておけ」という考えの者が多い。


「ちょ! 止めてください、そっちがその気なら…」

「最初に仕掛けたのは、そっちなんですからね!!」


 聞く耳持たないL√PCの攻撃を受けて、3人も渋々反撃にうつる。しかし…。


「よし! それじゃあ行くよ!!」

「ちょ、待ってよ!?」

「あはは、フォローは任せて」


 水を得た魚のように赤毛の女性PCが突っ込み、それを盾持ちのPCがカバーにあたる。レイピア装備のPCは軽量装備を活かしてつかず離れずで相手PTを分断する。


「チッ! こいつら強いぞ!?」

「くそ! 見た目に騙された!!」

「ダメだ。こいつらベテランの"ネカマ"PKだ!!」


「ねぇコノハ、ネカマってなに?」

「男の人が女性の格好をしてプレイすること」

「ふ~ん、じゃあ、この人たちの目には、アタシたちが男に見えてるんだ。ふぅ~ん」


 言葉には出さなくとも、態度に不快の念を全力で出していく赤毛のPC。本来なら感情制御スキルなども交えて表情を悟らせないように心がけるものだが…、彼女に関しては感情を隠さない。常に前のめりで、感情も含めて全てを攻撃にあてる。型として存在しないわけではないが、やはり少数派であり、その中でも女性PCでこのスタイルは、稀も稀と言えよう。


「これも女性差別よね? セクハラで運営に通報できるかしら??」

「どうだろ? とりあえず、キルしてから調べておく」

「「りょうか~ぃ」」


 3人は、ベテランでも無ければ、レベルや装備も中途半端だ。しかし、戦いのセンスはあるし、なにより戦闘スタイルが噛み合っている。それまでは防御と回避で消極的なPTではあったが…、そこにフルアタッカーが加わったことにより、足りなかった部分が補われ、加えて背後に的確なアドバイスをする者がいた。


「ぐはっ!?」

「ダメだ! こいつら強すぎる!!」

「ちょ、タンマタンマ! 喧嘩売ったのは謝るから、キルは見逃してくれ。ほら、降参するから」


 1人がキルされたところで、やっと頭が冷えて降参を訴えるL√PC。彼らはイベントで血が上っていただけで、所詮は中堅止まりの半端者にすぎない。「女性PC3人相手なら勝てるだろう?」と言う憶測で挑んでみたが…、実際のところは人数差をもってしても勝てない格上だった。


「いや、剣を向けながら降参とか言われてもねぇ…」


「おい!」

「くっ。降参だ」

「わかった、待機状態にする。だから見逃してくれ」


 そう言ってL√PCは武器を納めて、気怠く両手を上げて降参のポーズをとる。


「いや、許さないけどね?」


「「「 …え?」」」


 次の瞬間、残った3人もあっさりと光になって消える。


 常識的に考えれば、武器を向けながら降伏を訴えるのは妙ではあるが…、それが通用するのは殺意を持たない相手にだけだ。始めから殺意を持っている相手には「どうぞ殺してください」と言うようなもの。結果として、自ら断頭台に上った3人は粛々と処刑キルされた。


「やっぱり、お兄さんの作戦は目からウロコですね」

「アタシ的には、最後まで戦いたかったな…」

「すぐにスタート位置に復活するから、相手がその気なら、いくらでも続きはできるよ」

「じゃあ、彼らのガッツに期待しながら…」

「次に行きますか!」

「そうそう。目的はソッチなんだからね」


 新たな獲物を求めて、彼女たちは歩みを進める。


 PKにも色々な種類があり、戦略がある。無名なPCが使って効果的な作戦もあれば、あえて最初に不利を背負う事で得られる"得"もある。もちろん、本当に強い相手にぶつかれば勝てる見込みは無いのだが…、その点は、実はそれほど気にしていない。




 彼女たちにとって、この戦いは「ゲーム」であり「練習」だ。目指すべき"高み"が存在しており、そこにトライアンドエラーを重ねながら一歩ずつ登っていく。そこには確かな「楽しさ」が存在していた。

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