#222(5週目土曜日・夜・セイン)

 ぷおぉ~~~~~ん


「毎回思うけど、なんでホラ貝なんだろう…」


 相変わらず効果音が安っぽいのはスルーするとして、ホラ貝っぽい音がイベントの開始を告げる。


 余談だが、L&Cはイベントであっても無暗に全体アナウンスを使わない。製作陣の個人的な拘りなんてどうでもいいが…、手探り要素というか、MMORPG特有の不親切な設計が、未知へのワクワク感と共に攻略情報非公開ゲームの理不尽さを教えてくれる。たぶん、新規の中には魔人侵攻イベントの存在自体を知らない者もいるのだろう。もちろん、攻略サイトをチェックすれば直ぐに気が付くはずだが、MMORPGの楽しみ方は人それぞれ。ランキングやイベントをガン無視して自己満足でプレイする者も、気づかないだけで大勢いる。まぁ、上を目指すのも自己満足と言えば自己満足なんだけど…。


「大変だ! 王国の連中が攻め込んできた! 戦えるヤツは"配置"につけ! 戦えないヤツは避難所に集まれ!!」


 NPCの警告と共に通常のNPCサービスが一時中断して、村がイベント戦闘仕様に調整される。それまで通れた通路が次々にバリケードで遮断されていき、兵士の部隊が所々に出現する。


 侵攻イベントは、そのまま村やその周辺フィールドが戦場として使われるのだが…、そこはゲームなのでちゃんとルートが存在する。分かりやすく言えばタワーディフェンスゲームのようなものだ。侵入側は、兵士と戦いながら迷路化した村を進み、ボス役の指揮官をめぐって時間まで攻防を続ける。




 魔人側でも王国軍側でも基本的に内容は同じだが…、グループは4つにわかれる。

①、NPC兵士同士の大規模戦闘。未転生の現状では背景だと思っていい。(最初から魔人陣営だったり兵士関係のジョブを取得していると参加できるが)未転生の現状では奇襲部隊や志願防衛部隊の立場でしかイベントに参加できない。


②、事前に志願しておけば①とは別で、奇襲部隊として攻め込む側でイベントに参加できる。


③、(あくまで設定ではあるが)戦闘に巻き込まれた一般人?として補助の防衛部隊として村を自由に動き回って侵入した敵兵を遊撃する。


④、本陣。指揮官として配置されたボスがいるエリアで、ボスが倒されれば攻撃側勝利。時間まで守りきれば防衛側勝利。③で参加したPCは初期状態では侵入できないが、②が侵入すると侵入可能となる。


 基本の流れは…、兵士たちの戦闘が(都合よく)膠着状態になるので、均衡を破るために冒険者たちが奇襲部隊として投入されたところからイベントは始まる。すでに村の外では奇襲部隊に登録していたPCとNPCの兵士が戦っているころだが…、村の外での戦闘は基本的に後衛職やNPC兵士の仕事なので、俺は(近接戦専門なので)侵入されて乱戦になるまで周辺を散策しながら待機する。


 一応、外での流れも説明しておくと、基本的に弓や魔法が飛びかう遠距離主体だ。ゴリ押しで防衛網を突破することも出来るが、一定ダメージを与えるごとに段階的に侵入経路が解放されていく。イキッて突っ込むもよし。高みの見物で安全な経路が解放されるのを待つのもよしだ。


 次に迷路のようになった村での攻防。侵入不可や破壊不可は多いものの、遮蔽物(遠距離攻撃は遮蔽物の影響を受ける)や身を隠すオブジェクトが多く、近接戦主体となる。対PC戦は、この段階の攻防がメインであり、通路は毎回ランダムで変化するので、ここでも序盤は防衛側が有利で、最短ルートが判明すると侵入側が有利となる。


 そして最後に指揮官がいる本陣エリアでのボス戦となる。本陣に侵入側のPCが侵入すると防衛側のPCも入れるようになるので、裏切るつもりがあるなら村での攻防も含めてわざと通すの有り。(まぁ、可能なだけでワンアバターのL&Cで実際にそれをやったら他のPCからの風当たりが強くなりすぎて引退待ったなしとなるが…)そんなわけで本陣に相手を引き込んでボスと共闘するのは最終手段。なにせ本陣内だと、ボスを狙った攻撃を庇う必要が出てくる。ボス自体もそれなりに戦える最低限の戦闘力はもっているが、ボスの強さは進行度依存。あくまで保険程度の存在だ。




「そう言えば…、1人で行動するのって、久しぶりだな」


 言うほどそうでもないのだが、気分的にはそんな印象だ。6世代までは単独行動が多かったが…、7世代に入ってからは一気に賑やかしくなった。ニャン子やスバルあたりは、完全に馴染んでいるが…、まだ出会って1ヶ月と少々しかたっていないのだ。


 そんな事を呟きながら、のんびりと村の配置を確認する。


 村の変化はランダムなので、友軍であるはずの防衛側PCも最短ルートは分からない。もちろん、そこまで複雑ではないのだが…、高台や隠れ場所なんかはいくつかあるので、前もって調べておくのが重要だ。最短の侵入経路もそうだが、防衛側だと「リポップ位置から本陣への最短ルート」が1番大事だったりする。


 因みに、イベントは途中で死んでもスタート位置からリポップ可能(ただし軽減版のデスペナに加えて出撃待ち時間が存在する)で、経路やショートカット解放情報は(時間差はあるが)徐々に全体共有されていく。明確化されていないがTPSゲームのようなチケット制の概念があるらしく、追加でショートカットが解放されたり強いNPCが出現したりする。




 そんなこんなで…、魔人陣営側唯一のプレイヤーとして、侵攻イベントはゆっくりとした立ち上がりで始まった。

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