#216(5週目金曜日・午後・????)
「お前たち! この馬車は…「黙って斬られてろハゲ!!」ぐはっ!?」
「クリア! そっちはどうだ!?」
「クリア! すぐにアイテムを回収する!!」
「オカワリが近づいている! 装備品は全部捨てていけ!!」
「ヤー!!」
全身黒ずくめの一団が、流れるような動作で商人の馬車を襲う。
「初心者らしきPCが近づいている!」
「予定通り、接近してきたらキルしろ! それ以外は無視だ!!」
一団の動きは洗練されており、戦争モノの洋画でも見ているような気分になる。それらと違いがあるとすれば、装備が近代兵器ではなく、剣や弓などの原始的な武器である点だろう。
「他の部隊(PT)の状況はどうなっている!? 自警団やHと思しきPCの出現はどうだ!!?」
『あいかわらず堅苦しい喋り方だな~。下っ端(自警団団員)との戦闘はあったらしいが、Hは確認していない。情報通り、今日はインしていないようだ』
とは言え、音声チャットの相手の口調は驚くほど緩く、指揮をとっている者もソレを咎める事はしない。これはあくまでゲームであり、衣装や戦闘スタイルは、単純に彼らが趣味でやっているだけにすぎないのだ。
「油断はするなよ。下っ端でも、自警団と交戦があったなら、Hには状況が伝わっているはずだ!」
『だろ~ね~。まぁ、その時はその時さ。どの道、正体を知るヒントも欲しいし…、それはそれで歓迎かな~』
その日の午後、7世代では2回目となる大規模な商人NPCの襲撃が決行された。今回は平日の昼間と言う事もあり参加者総数こそ少ないものの、ゲームに青春を捧げる実力のあるPCが揃った。
彼らは
それが最近、めっきり行われなくなったのは…、なんと言っても自警団の存在が大きい。自警団の個々の戦力は脅威ではないものの、集団としての統率力は素人のソレを遥かに超えており、多くのPCに「転生までは自重するか」と言う意識を植え付けた。
「報告する! NPCの護衛が乗った馬車がきた! 今から交戦に入る!!」
「了解! まだ難易度は高くないだろうが注意は怠るなよ!!」
「ヤー!!」
『へけけ、忙しそうだな。こっちはわりと暇かな~。すこしエモノをわけてくれよ』
「NPCの出現はムラがあるからな。まぁ有り難く稼がせてもらうさ」
そう、彼らはもちろん金銭目的で商人を襲っているのだが、C値もそれと同等に欲している。極端に強い相手(PC)に出くわしても困るが、全く抵抗が無くても困る。複数PTで同時に襲撃する利点はココにもある。人が動かすキャラでは、どうしても対応できるエリアが1ヶ所ずつに限定される。しかし、NPCの護衛冒険者は(出現にバラつきはあるものの)無尽蔵に出現する。とくに人の少ない平日の昼間を狙えば、倒しやすいNPCが出現する確率はさらに高まるわけだ。
『ははっ、今日は呼びかけに応じてくれて助かったぜ。最近、自警団が鬱陶しくて、誰も襲撃に参加してくれないからな~』
「こっちも、それなりに本気でやっているからな。稼げるチャンスなら、多少のリスクも目を瞑るさ」
『だな! つか、どいつもこいつもホモ(BL)にビビり過ぎなんだよ。雑魚(初心者)が怖じ気づくのは構わないが、こういう集まりが減るのは、マジでいたいから止めてほしいんだよな~』
「BLは基本的に、派手に暴れるPKを対策するツールで、それ自体に指名手配などの機能は無い。あくまで注意を促すだけ、それだけだ」
『そういうこった。基本は6時代と変わらない。むしろビビッて消極的になっている今こそ、ライバルを出し抜くチャンスなんだよな~』
BLは、あくまでアバターの判別ソフトであり、ブラックリスト入りしているPCであるかが分かるだけ。そこから先は既存の対応手段で行動するしかない。これがPKなら、狩る相手(PC)に逃げられてしまう不都合があるが、NPCを相手にする一般C√PCには直接の関係性はない。せいぜい、目撃者に通報される可能性が高まる程度だ。そこさえ気を付けていれば、指名手配されることは無く、これまで通りNPCサービスは利用できる。
「なに、疑心暗鬼になっているPCが殆どだ。すぐにまたNPC狩りをするヤツは増えるさ」
『それはそれで困るんだよな~。何事も、ほどほどが1番! 自警団も、PKもな』
「それには同意するが…、そろそろ場所を移動する。そっちも話に夢中になってないで、しっかり稼げよ!」
『ご忠告、かんしゃかんしゃ~』
PCの中には、PKK(プレイヤーキラーを専門で狙うPC)やNPCKK(NPC狩りをしているPCを専門で狙うPC)も存在する。彼らはNPC狩り専門であり…、大胆に行動してはいるが、不用心でも無ければ、実力を過信していない。興味が無いと言えば嘘になるだろうが、基本的にPCとの戦闘は避ける。それが彼らのプレイスタイルだ。
しかし、彼らは知らない。今回の商人NPCの集団襲撃の音頭をとっているのがPKであり、話していた相手は、そもそも襲撃に参加していなかったことを…。
そう、音頭をとっていたのはEDのメンバーであり、自警団の警備が手薄なのは把握していたが…、Hの情報は持っておらず、場合によってはHに襲われたり、コロッケなどの実働部隊に襲われたり、通報されるリスクがあった。あったからこその不参加であり、NPC狩りPCはリスクの高い作戦を代わりに遂行するためのコマであり…、本当の目的はC値稼ぎではなく、進行度稼ぎだったのだ。
こうして、7世代では2度目となる商人NPCの集団襲撃が…、イベントなどの注目もあり、見事成功に終わった。
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