#215(5週目金曜日・午後・セイン)
「時間が惜しい! とにかく片っ端からぶっ殺せ!!」
「はい!」
「ういうい」
午後、場所はいつものギルドホーム…、ではなく、少し懐かしい気もするミルミロ砦。
「一応、Hは来ていないはずだが、居ても絶対に手は出すな!」
「はい!」
「スバル、重装甲の相手は控えろ! 耐久値の無駄遣いだ!!」
「はい!」
相変わらずの忠犬スバル。愚直すぎるのもどうかと思うが…、今回は時間が勝負なので有り難くコキ使う。
なぜ今更ミルミロなのかと言えば…、C値稼ぎもかねて(塵も積もればナントヤラの精神で)進行度と兵力のそぎ落としに来ていた。自警団の一件もあって派手な襲撃は避けていたが…、イベントが近い事もあって監視が手薄になっている今がチャンスだと判断した。
「ニャン子! ソッチは任せた!!」
「にゃにゃん!!」
飛び出してきた重装甲の下級兵のタゲをニャン子に丸投げする。俺やスバルでも倒せないことは無いが、武器の耐久値などを考えると効率が悪い。本来ならアイに任せたいところだが…、3人の中ではナックル系が一番、武器の耐久値が高い。
「スバル! 余裕があったら通路の死角に待機して、出てきた兵士を後ろから攻撃しろ。それだけで奇襲攻撃判定はつく」
「え? あぁ…、はい」
珍しくキレのない返事をかえすスバル。不意打ちを狙うのは、ダメージ増加よりも称号のためだ。本人の戦闘思考に限らず、C√でやっていくなら最低限の称号はコンプしておく必要がある。そのことは本人もわかっているようだが…、やはり持ち前の戦闘スタイルとは合わないようだ。
「称号がとれるまでは我慢しろ! むしろココで全部そろえて
「はい!!」
「団体が来た、俺が正面で引きつけるから、2人はソッチの通路に隠れてろ!!」
「はい!」
「にゃんにゃん」
兵士が5体。内一体は中級なので、ここが山場と言ったところだろう。
あえて狭い通路に陣取り、引き込みながら兵士の攻撃をイナしていく。称号やC値ならすでに俺は充分に基準を満たしている。キルは2人に譲って、指揮やヘイトコントロールに専念する。
兵士の装備は基本的にミドルサイズ以上の刃物系で、ナイフや鈍器を装備している個体は存在しない。NPCや壁にもアタリ判定のあるL&Cでは、通路に誘い込むだけで、簡単に1対1の状況を作れてしまう。
「よし! かかれ!!」
「はっ!!」
「うにゃん!!」
クリアリング済みの小部屋に兵士を誘い込み、2人を加えて挟み撃ちの構図を作る。
NPCの兵士は背後の注意力が極端に低いので、挟み撃ちが有効であり、それは奇襲判定が消えた後でも効果が残る。特に、重装甲のNPCは横の判定(兜の死角)もザルいので…、AIの作り込みに感謝しつつも、常に有利な立ち位置を意識して、効率よく捌いていく。
そして…、流石にこの3人だと戦力は充分だったらしく、ほどなくして兵士PTは光となって消えた。
「取りあえず山は乗り切ったかな? あとは最奥のお宝部屋だけ確認して、次いくぞ」
「はい!」
「スバルにゃんはいい返事だにゃ~」
「やはり、3人だと難易度が格段に下がりますね」
「兵士は背後に対しての警戒が極端に低いからにゃ~」
ミルミロ砦は、いちおう軍事施設だが、ゲーム的な扱いは小規模ダンジョンになっている。つまり、ボスはいないが、ちょっとした報酬部屋がある。急いでいるので無視してもいいのだが…、初心者もいる事だし、略奪の醍醐味として確り報酬は貰っていく。
「いくつか称号はとれましたけど…、まだいくつか抜けていますね」
「称号は普段からコツコツあつめるものだしにゃ。でも、C値は結構稼げたはずにゃ」
「C値もそうですけど、これでイベントの時の戦力に影響が出るんですよね?」
「ハッキリしたことは言えないけど、そうらしいにゃ」
L&Cのリアル志向は様々な場所に及んでいる。商人狩りのように兵士を乱獲すると一時的に王国の兵士も減る。残念ながら兵士の総量を確認する手段が無いので証明はできないが…、一説には「乱獲した後のリポップ率が悪くなる」などの意見もアリ、やるだけの価値はある。それに…。
「しかし、運が良かったですね。Hさんでしたっけ? 自警団の人たちも結局合わずにすみましたから」
「え? あぁ、スバルにゃんは知らないのにゃ」
「はい?」
「そろそろお宝部屋だぞ。まだ兵士がいるかもしれないし、ムダ話は後にしろ」
「はい!」
「にしししし~」
自警団の連中に会わなかったのは、もちろん裏で情報を掴んでいたからだ。ビッチが自警団本体から切り離されたとは言え、ある程度は情報が入るし…、なにより、自警団は現在、検問の数を大きく絞っている。なぜかと言えば、イベントエリアや魔人の試験に挑戦する者を監視しているからだ。そのため、平日の昼間は主要な街道の検問まで疎かになりがちだったりする。
特に今日は"アレ"があるので、まず間違いなく監視は無いと踏んでいた。
Hの存在は確かに気がかりだが…、それでも何のあてもなく過疎っているイベントエリアでバカ正直にエモノが通りがかるのを待っているほど暇ではないだろう。
これが物語なら、神がかった勘でHが俺の前に立ちはだかったりするのかもしれないが…、やはり一度でも高みに登ったPCなら、そんな無駄な賭けはやらない。少なくとも俺なら、もっと有意義に時間を使う。俺は物語の悪役みたく、無駄に遠回りな計画を立てたり、日がな一日
こうして俺たち3人は、サブクエスト関係の過疎っているイベントエリアを軒並み閉鎖状態に追い込んだ。
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