#217(5週目金曜日・夜・ナツキ)

 何の変哲もない草原に、獣人の兵士たちが円を描くような配置でソレを取り囲む。彼らは中央で戦う2人を静かに見守る。兵士として統率がとれているのは望ましい事だが、それにしても動きが無さすぎる。繰り広げられる熱い戦いを食い入るように見守ると言うよりは…、リングサイドに立っているポールか何かのようだ。


 さらにその周囲を統一感のない装備に身を包んだ冒険者たちが人間味あふれるヤジを飛ばす。白銀の獅子を応援する者もいれば、女性PCを応援する者、あるいはひたすらに悪い部分を指摘する者…、それぞれが自分の立場で思い思いの言葉を投げ捨てる。


「行け行け! 足を止めるな!!」

「NPCに目くらましは通用しないぞ!!」

「おいおい、必要ステータス足りているのか? HPが減っているように見えないぞ?」


 1人は、身長2mはありそうなライオン風の幻獣人(通常の獣人よりも獣に近く、二足歩行をしている事と、前足が手のようになっている事以外はほぼ獣)。荒々しくタナビく白銀のたてがみが印象的で、よく見れば、体毛で覆われた体からでもハッキリわかるほどの筋肉量を誇っている。人のように防具や武器で武装はしていないものの、見れば直ぐに歴戦の戦士だと分かるほどの風格を持っている。


 対するのは1m50cmほどの赤毛の女性PC。見た目は重量のある防具を身につけずに戦う、回避と攻撃を重視した闘士グラディエイタースタイルだが…、右手に[ショートソード]を装備しているにもかかわらず、左手に装備しているのは杖系装備の[ショートロッド]。単純に防御用と言う訳ではなく、剣と魔法を両立するロマンを重視したスタイルだ。


「そこだ!!」

「ぐっ!? すこしはやるようだな。しかし…、試練はここからが本番だ。我の舞に…、ついてこれるかな!!」


 捨て身の突進で、女性PCの突きがギリギリのところで獅子の脇をかすめる。浅いとは言え、確実なダメージが通ったのが見てとれる。しかし…、それは意表をつけただけ。白銀の獅子は実力の半分も出しておらず、むしろ闘志に火をつけただけだった。


「ちょ!? はy!!!??」


 輝く白銀の残像が、無慈悲に女性PCを場外へと吹き飛ばす。赤い髪が軌跡を描いて飛んでいく姿は、まるで火の玉のようだ。


 そして…、リングには「クエスト失敗」の文字が浮き上がり、ギャラリーが思い思いの言葉を残しながら散っていく。




「あぁ…、惜しかったね。結構いい感じで追い詰めていたのに」

『どこが? 前半で体力を使い切って、ゴリ押しでなんとか後半戦ほんきにさせるところまで行けただけ。あれじゃあクリアは不可能だよ』


 夜、私は「魔人の試験」などと呼ばれる魔人軍の入団試験会場に来ていた。


 相変わらず妹は音声のみ。私の目には赤髪のPCの熱い戦いが印象的だったが…、コノハの評価は辛口。ゲームに詳しいコノハが言うのだから、実際にはダメダメだったのだろう。イマイチ意味は分からないが、取りあえず妹に言いくるめられてばかりもシャクなので…、とりあえず適当に言い返しておく。


「そ、そうかもしれないけど…、それでも健闘はしていたと思うよ? だってあれ、クリア不可能って言われているんでしょ?」

『まぁね…、でも、お兄さんはそれに挑戦するんだよ?』

「ぐっ。それはそうだけど…、こう、アプローチ?は人それぞれだし…」


 ダメだ。やはりゲームの知識では妹には勝てない。そして、浅い知識で反論しても訳が分からなくなるだけ。もはや、姉の威厳が残っていることを祈るのみだ。


『はいはい。そういえば忘れていたけど…、お兄さんから伝言って言うか、提案? 装備を貸し出すから素材を集めてほしいって』

「いや、忘れないでよそう言うの。つか、なんでいつもコノハに話が!?」

『話しやすいからでしょ?』

「ぐっ!?」


 話を聞けば…、どうやら一時的にステータスなどを強化する回復アイテムの素材を集めてほしいとのことだった。もちろん、これらのアイテムはセインさん達なら余裕で集められる。コノハが伝言を忘れていたのも緊急性がないためだ。すでに必要な分は集め終わっており…、その後の供給の話。つまりは「いつまでもこんなところで足踏みしていられないのでココは任せる」ってことだ。


『お兄さん、どんどん先に行っちゃうね…』

「わかってはいたけど…、やはりもっとハングリーに、上を目指していかないと、ダメなのかな? さっきの人(赤毛の女性PC)みたいに」


 当たり前だが、最速ペースで攻略を進めている人に追いつくのは物理的に不可能だ。もちろん、装備を貸してもらうなどの助力を貰えば…、多少?差は縮まるかもしれないが、それでも余った装備などを融通してもらっていては頑張っても2軍止まり。ベストを尽くしても、2軍止まりなのだ。


『あるいは、生産系や商人系に転向するかだね。まぁ無理だろうけど…』

「そうなの? 商人はともかく、生産系ならスキルでアイテムを作るだけなんでしょ?」


 不本意なのでやりたくない手だが…、なにも戦うだけが能ではない。MMORPGの醍醐味は様々で、戦わなくとも市場に流れてくるアイテムを販売したり加工するスタイルも存在する。商人に関しては幅広いアイテムの相場情報や独特のセンスが必要なので難しそうだが…、生産系は基本的に、アイテムを買い付けて、加工して、販売するだけ。それなら私にも出来そうだ。


『生産系は、コネが全てだよ。安定して素材を供給してくれる仕入れ先。あとは消費してくれる出荷先。あと、生産に適したステータスにする関係で戦闘では苦労するし、当然お金や時間も必要になる』

「くっ…。やはり、私は戦う方が性に合っているかな!」




 そう言って、ブンブン剣を振りまわしていると…。


「こんにちは~。アナタも試験に挑戦するの?」

「え? あぁ、それはその…」


 赤毛の女性PCに声をかけられてしまった。


 軽く真っ白になった頭で周囲を見渡せば…、他のギャラリーは、次の挑戦者が現れるまで同一マップ内をウロウロしている。見た目こそ同じ場所だが、リングやその周囲は薄い膜のようなもので仕切られており、イベントエリアとして「非戦闘エリア」に設定されている。ちょうどギルドホームの窓のような状態だ。


「私の名前は"SKエスケー"。よかったら女性同士、情報交換しない?」

『お姉ちゃん気を付けて。もしかしたらナンパかも』


 俗に言う「ネカマ」というやつだろうか? 男性でありながら女性型アバターを使うプレイヤー。単純にロールプレイの一環の場合もあるが、ナンパ目的や男性PCをたばかる目的の場合もあるようだ。


「アイツ、強すぎだよね~。未転生だとギリギリ倒せないくらいの強さに設定されているんだって。だからさ、こぅ~、燃えてこない?」


 試験には、クリアの見込みがないにもかかわらず挑戦する者も多い。記念だったり、動画の話題作りだったり。SKさんは腕試し…、いや、変なスイッチが入ってヤケになっているパターンだろうか? とてもナンパ目的には見えない。しいて言えば…、「数少ない攻略組の女性PCを見つけたから声をかけちゃった」と言ったところだろうか?


「いや、私は…。知り合いの強い人が挑戦するから、下見に来ただけで…」


 まぁ、試験会場から離れずに剣を素振りしていれば、挑戦者と思われるのは当然だろう。本来ならば相手にする気も起きないが…、私としても強い女性プレイヤーには興味がある。


 元来、女性は保守的で、男性に比べて守りや無難な選択肢を選びやすく、ひた向きに強さなどを極めるような行動も起こしにくい。ゲーム内のステータス的には男女のへだたりは無いものの(体格からの物理的な影響はある)ランキング上位は見事に男性(いちぶ性別が曖昧な人もいるが)しかいない。


「そうなんだ? その人って、ランカーって言うやつ? …。…。」


 珍しく赤の他人とお喋りをしてしまった。大したことは話していないが…、どうやらSKさんも初心者(私よりは知識があるようだが)らしく、少しだけ興味が湧いてしまった。




 そのあとは、特に話すことは無かったが…、ほかの人の試合を数戦見て解散した。レベル上げや装備の調整をしつつも何度も挑戦しに来ているそうなので、また会う事もあるかもしれない。


 そんな調子で、すこし心の中に言い表しようのないモヤモヤしたものを残しながらも…、とりあえずその後はレベル上げをして過ごした。

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