#213(5週目木曜日・夜・セイン2)
「それで結局、試練に挑戦する事にしたにゃ?」
「そうですね。思うところもありますが…、兄さんなら上手く切り抜けるでしょう」
「たしかに兄ちゃんなら安心だけど…、兄ちゃんも人の子にゃ。丸投げなのもどうかと思わなくないにゃ」
「それでも、私が仲介役をやるよりは、遥かにマシなはずです」
「それ、胸を張って言う事じゃないのにゃ…」
「人のこと、言えるんですか?」
「 …さすが兄ちゃんにゃ!」
「そういうことです」
2人の会話を背中で聞き流しながら…、俺はキアネアのビーチでとある魔物と1対1の勝負を挑まんとしていた。
まぁ、ぶっちゃけるとタダのユニークだ。一応、種族としてはオールドFフィッシャーになるのかな? ユニークは多くが既存種族のランダム強化なので名前がつかないものも多い。その場合は「Fフィッシャー(U)」とか「キアネアビーチU」などと表記される。
そんな事を考えていると…、一瞬、ユニークの掲げられた腕が輝きを放つ。
「………!!」
「おっと! いきなりか!?」
先ほどまで心臓があった場所を、青白く輝く光が駆け抜けていく。
「さすが兄さんです。<ストライクピアース>は受けていいスキルではありません」
「複合ダメージスキルだから、防御してもダメージくらうもんにゃ」
水棲系の魔物は、挨拶感覚で遠距離攻撃をぶっ放してくる。もちろん、それ自体は当然予測できる。問題なのは"対処"の方だ。避けるべきか、いなすべきか、あるいは距離をつめるべきか、離すべきか…。
もちろん、前衛職、しかも短剣使いの俺に、距離をとる選択肢はありえない話だ…、が!!?
「今度は水属性攻撃でしたね」
「微妙にモーションが違うけど、あの距離でとっさに受け方を変えるのは難しいにゃ」
ユニークの持つ三叉の鉾の先端から、今度は青い泡のようなものが散らばりながら飛散する。数は5~8つくらいだっただろうか? とっさに[マント]で防いだので、しっかり見る余裕がなかった。
もちろん、物理だろうが魔法だろうが、避けてしまえばダメージはゼロだ。しかし、モノには限度がある。<咆哮>のような透明の拡散範囲攻撃などはまさにそうだ。水属性攻撃は拡散具合は少ないが、それでも散弾のように小範囲に散らばるので…、いちいち弾道を見て避けようとするのは愚策中の愚策だ。
HPは4割ほど削られたが、5割にとどかないなら問題なし。このランク帯のユニークの属性攻撃は本来なら即死級のダメージになる。属性防御を固めた外装、様様だ。
「完全に張り付きましたね。ここからは兄さんの独壇場です」
「まぁ、あのフィッシャーは槍装備だからにゃ。ワンインチなら短剣の方が強いにゃ」
L&Cはオープンアクションであり、スーパーアーマーなどの強制行動などはあるものの、基本的にゲーム的で理不尽な瞬間移動やノーモーションでの攻撃は原則存在しない。
つまるところ、近接戦での回避の基本は"リズム"と"足運び"となる。相手の動きをマジマジと見ないでも、動きには決まったテンポがある。それに反するタイミングでの行動はNPCならほぼ無いし、PCでもどこかしらに無理が生まれる。そして、それらを予測するのが足運びや重心移動だ。物理攻撃を仕掛ける場合は、予備動作としてその行動に対して最適な姿勢に自然と体が動く。もちろん、なかには転倒しながらでも強引に攻撃をしかけてくるPCもいるが…、そう言うのは稀だし、雰囲気や状況である程度予測できる。対し…、て!!
「 っ! <衝撃波>を使いましたね」
「防御出来た見たいにゃ。これはもう、決まりだにゃ」
ボスはよく持っているスキルだが…、ランクの高い魔物は、大抵が(張り付いているPCに振りほどくために)ノックバック付きの周囲攻撃を持っている。魔法などもそうだが、これらのスキルはモーションが独特なので、張り付いていても違和感ですぐに察しがつく。相手によって対処は異なるが、それでも対応できればダメージやノックバックは大いに軽減できる。
そして、このタイプのスキルは残り体力が30%を切った合図でもある。最初の遠距離スキルで5割持っていかれなければ、ここで5割もらっても倒しきれる。このランク帯でのタイマンは、これが基本となる。
「 …フッ!」
軽く息を吐きながら、ユニークの首を跳ね飛ばす。視界端で淡い光を確認し…、周囲を確認しながら回復アイテムを使用する。今回はアイたちが周囲を警戒してくれているが、戦闘終了時が一番PKに襲われやすいタイミングだ。
「お疲れさまです、兄さん」
「アイにゃんじゃないけど、実際すげーにゃ」
まぁ実際、回避不能の周囲攻撃を防御できることが前提であり、通常攻撃でさえ1発も受けられない、ギリギリの攻防だった。
「特訓にはなるが…、やはりリスキーすぎて精神的にキツイな」
「魔人の試験は、さらにワンランク上ですからね」
「さぁ、次いくにゃ。今晩中に、この辺のユニークを全制覇するにゃ!」
いつもなら無視しているユニークを、今回は効率を無視してタイマン勝負を挑んでいく。魔人戦に向けての特訓と言う訳だ。もちろん…。
「お、属性防具が出たぞ。属性素材も」
「にしし、ぼろ儲けにゃ」
微妙な装備しか落とさないユニークでも、このランク帯なら下手なレアより高価で取引される。経験値的には期待できないが…、この調子なら金銭的にも期待がもてそうだ。
こうして、その日は久しぶりにユニークに狙いを絞った狩りに費やした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます