#212(5週目木曜日・夜・セイン)

「 …。それでですね、同盟はセインさんを高く評価しています。その点は理解してほしいんですよ」


 夜、狩りに出かける前に、またしても俺は草餅に会っていた。


 コイツは別に、勇者同盟のメインメンバー?と言う訳ではないはずなのだが…、組織の構造が特殊なのか、メインの勇者たちは基本的に大まかな指針などを伝えるだけで…、同盟としての活動を決めているのは中間メンバーが中心のようだ。一見、歪に見える組織構造だが、リアルの会社も大きくなれば多かれ少なかれそんな感じだ。いわば勇者たちは会長とか王様的なポジションであって、役員や議員のように実際に事をなす立場では無いのだろう。


「リストが出せない理由は理解した。参加報酬の[アベンチャー]も破格なのは充分に理解している。現状で[アベンチャー]がサーバー内に何本存在しているか…」

「はい、加えて…、同盟は"失敗報酬"も用意しました」

「なんだそりゃ」

「同盟は…、正直に言って自警団の活動をよく思っていません。それは、セインさんも理解しているでしょう?」

「まぁな」

「ですから、結果に限らず、勇者同盟は魔人側についたセインさんを擁護します。具体的には、正式な勇者同盟のメンバーとして専用掲示板のアクセスIDを発行します」


 なるほど、勇者同盟の考えが読めてきた。連中は単純に「魔人陣営の勝利」を狙っているだけではないようだ。実際、俺や勇者がいくら王国の負けを望んでも初回侵攻の難易度を考えると勝つ可能性の方が高いだろう。その場合、調子づくのは自警団だ。自警団は、進行度よりも多くの者(L√限定)が安全安心マイペースに攻略できることを望んでいる。


 加えて、今の自警団は調子にのっている。BLによる犯罪者の特定に、EDメンバーさえ退ける謎の執行部隊Hの存在。今の自警団には"天敵"と呼べる存在が無く、このままいくと世論が完全に自警団を支持して…、ゆくゆくは勇者たちのように他人を踏み台にしてまで攻略を優先するスタイルに批判が集中する危険がある。


 そこで重要になるのが、俺のように「自警団の正義に居場所を奪われた者たち」だ。正義もまた1つのエゴであり、いくら信念や正当性があったとしても他者をないがしろにしている事実は変わらない。「自警団は確かに正義の組織だけど、規律に合わないものは徹底的に排除する"非情"な組織でもある」そうやって、反対意見を作ることで世論にブレーキをかけたいのだろう。


「いいのか? C√PCを正式に取り込んで。スパイにするって言っても、先陣きって魔人陣営に行ったヤツを潜入捜査と言うのも無理があるだろう??」

「勇者同盟は、もともと悪徳ギルドでも無ければ、C√プレイを否定はしていません」

「そうだったな」


 つまり、「LでもCでも仲良く喧嘩しましょう」ってことだ。よきライバルとして、応援もすれば敵対もする。勇者同盟は元々そう言うスタンスであり、それを改めてクチにするだけだ。どこからが勇者同盟にとってのアンフェアなのかは知らないが…。


「これはセインさんにとって良い話だと思います。もちろん、魔人側につけば完全にC√が確定してしまう。ですが、Lから追い出した自警団を見返せるだけでなく…。…。」


 なんだか、草餅の話が徐々に胡散臭くなってきた。コイツ、商売の腕は確かだが、組織としての図り事はマダマダだな。なんと言うか…、インチキ宗教の集会に参加(したことはないが)させられている気分だ。こうやって、相手に利点を押し付けていくやり方が通じるのはビッチのようなバカで視野の狭い人間だけ。"感情"ではなく"大局"で物事を捉えると、熱い熱弁も途端に薄っぺらな三文芝居に見えてくる。


「なるほどな。コチラとしても"妹"も含めて、本格的にCで(魔人陣営)やっていく案は考えていた。まぁ…、もともとN√よりのプレイだったし、そこまでLに拘りは無い」

「そう言ってもらえると助かります」


 そして、つくづく布石を打っておく大切さを痛感する。勇者同盟も、俺が偽装でLに行く"フリ"をしていたことに気づいていない。もちろんニャン子にも感謝しているが「前提が根本的に違う」というアドバンテージ。俺をおとしいれたり利用しようとする輩に、常にマウントをとれる。


 俺だって最初はここまで偽装ルートが上手くいくとは思っていなかった。あくまで"保険"程度。無防備な未転生時の隠れ蓑として、それとまぁ気分転換、興味本位、遊び心、そんな軽い気持ちでいたが…、


①、正体不明のPCの身元を保証してくれるニャン子(妹)の存在。


②、正義感が強く排他的な自警団の存在。


③、そして自警団を刺激して騒動チャンスを作ってくれるEDや勇者同盟の存在。


 この全てが俺に先手先手の対応を可能にしてくれる。やはり、ここはこのままアドバンテージを生かして「更なる先手」を打っていくべきだろう。それには…。


「そう言えば聞き忘れていたが、成功報酬は何だったんだ?」

「あぁ、すみません。つい話が盛り上がっちゃって」

「(盛り上がっていたのはオマエだけだけどな)勝ち負けに関わらず√落ちした俺を擁護してくれるのは分かった」

「これは他言無用なのですが…、セインさんさえよければ、同盟はセインさんに"魔王の席"を用意してもイイと考えています」

「なるほど。EDは、もう用済みってわけか」

「さぁ、ボクには意味が分かりませんが…、同盟は、常に柔軟で純粋に"高み"を目指しています」


 草餅のすっとぼけはどうでもいいとして…、何処までいっても、やはり勇者同盟は勇者同盟のようだ。理念はあっても美学が無い。いや、理念と言うよりは…、単なる目標? ただ1番になりたいだけ。集団として目的が統一されているだけで、そこに個人の意思や個性が存在しない。やっている事は大がかりで徹底しているが、刹那的で「子供が考えた完璧な作戦」って感じが残る。いや、実際、メンバーの多くはそうなのだろう…。




 そんな事を考えつつも、俺は勇者同盟の提案を飲むことにした。もちろん、俺なりのやり方で、だが…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る