#211(5週目木曜日・午後・スバル2)
「おぉ、凄い、ぜんぜん体力減らない! なんか笑えてきますね!」
「あまり調子にのっていると、物理攻撃で死ぬのにゃ」
「魔法ダメージしか軽減できない感じですか? ダメージ計算って難しいですよね」
昼過ぎ、ニャンコロさんとユンユンさんの3人で海底神殿Dに来ていた。
このダンジョンは、洞窟エリアや神殿エリア、地下の水没エリアに海賊の秘密基地エリアとバラエティーに富んでいるダンジョンだ。しかし、水棲の魔物は対策が必須で、しかもその装備は他では使えないので…、挑戦するハードルが高いわりに、すぐに飽きると言う、不人気な狩場となっている。
「ん~、ちょっと違うにゃ。いや、違うと言うか複雑? 物理と魔法、無属性と属性、あとは物理防御に魔法防御。それとダメージ増加倍率とか、取っつきにくいけど、1回理解しておくだけで後々役に立つのにゃ」
「折角なので、是非! ご教授を!!」
あぁこれは、ちゃっかり録画する流れだ。
ニャンコロさんや先輩は、こんな感じで何度か動画に出演している。動画内では特に説明などは無く、何の前触れもなく出現するサブレギュラーの扱いになっている。もちろん、何度もコメントなどで2人について説明を求められているが…、親衛隊の人たちも含めてスルーを決めこんでいる。
「えっと…、まず、一番大きな括りとして"物理"と"魔法"の判定があるにゃ。ただし、スキルによっては両方の判定を持っているスキルもあるので注意にゃ」
「魔法で攻撃力をブーストするスキルとかですね」
L&Cでは「物理」は基本的に物理演算が適用され、慣性や硬度など複雑な計算が入る。例えば格闘ゲームなどでは「ガードに成功したらダメージは無し」などの単純化された処理がおこなわれ、どんなに体格差があっても、刃物やビーム相手でもガードできればダメージは消滅してしまう。しかし、物理演算が適用されるL&Cでは「厳密に言えばガードの概念が存在していない」。あくまで盾や腕に攻撃を当てて、衝撃を受け流しているだけにすぎないのだ。
「そそ。あとは土属性の魔法なんかにも物理判定があるヤツもあるにゃ」
「地面からトゲが生えるやつとかですね」
そして「魔法」は物理法則とは違う現象として「限定的に
「うぃうぃ。次は属性…、と思いきや防御の判定があるにゃ」
「ゲームのダメージ計算は、そう言う"順番"が大切なんですよね」
「例えばゴーレムみたいな防御力の高い相手に特攻付きの軽い攻撃をした場合…、先に防御力でダメージが軽減されて、そのあと残ったダメージに倍率が乗るにゃ」
「つまり、防御力の高い相手には、基本攻撃力が高い武器を使わないと、特攻をつけても意味がないって事ですね」
「もちろん、防具に属性が設定されていたり、特攻には防御を無効化する効果もあるから全く無意味ってことも無いけど…、基本的にはそうにゃ」
例えば、無属性と聖属性の剣(攻撃力は同じ)で防具を着込んだゾンビを攻撃した場合、攻撃力が足りていない場合はダメージに差は出ない。しかし、防具の隙間をぬったり、防具の性能を超えるダメージを与えれば、貫通分のダメージに弱点属性の補正が適用される。これは基本的に防具が本体の属性に関わらず無属性であるためだが…、
水属性の魔物などは防具判定のあるウロコにも属性が設定されており、最初から属性の倍率が乗るので、有利な属性には非常に強固だが不利な属性にはとことん弱い。無機物特攻などは、特攻対象が無属性の無機物なので、無属性と無機物で2重にダメージが増加する。他にも特攻には例外的に複雑な処理がなされるものが多い。
「それで、攻撃が防御を貫通して、はじめて属性や特攻のダメージ増加が発生するんですよね」
「そうにゃけど、ここで注意。たまに格好つけて魔法を剣とか、魔法防御力のない装備で受けているPCがいるけど、あれは意味が無いからやめるにゃ」
当たり前の話だが、当たらなければダメージはゼロだ。回避できるなら回避した方がいい。とくにL&Cは、ガードでのダメージ無効化が無いので、タンク役でも極力、回避できる攻撃は回避する事が求められる。
そして、魔法の防御は物理防御とは別計算であり、魔法防御力がゼロの剣や盾ではダメージを軽減できない。物理防御と魔法防御を両立できる装備はレアであり…、(魔法防御力に特化しやすい後衛職でもなければ)基本的に魔法の対処は「回避」するか「防御魔法」で軽減するしかない。
「あぁ、たまに居ますよね。一生懸命、魔法攻撃も軽減しようとして盾や剣で受けている人」
「ういうい。遠距離物理攻撃は剣でも防御判定になるけど、魔法攻撃は、普通の剣じゃ軽減されずにそのままダメージが通るにゃ。むしろ、自分から当たりに行っている分、無駄な動きにゃ」
「ははは、でも、反射的に防御しちゃうし、なんだか剣で叩き落とすのって、独特の高揚感があるんですよね」
「それはまぁ、否定しないし、防御するクセは大事にゃ」
同じ遠距離攻撃でも矢などの物理攻撃は、重量が軽いので剣などでも防御すれば、ダメージをほぼゼロにできてしまう。(剣の耐久値は減少する)対して魔法は(見た目が矢の形をしていても)実際にはエネルギーの塊であり、間接的にでも触れる事でダメージが発生する。魔法によっては発動地点からの距離でダメージが増減するタイプもあるので全く無意味でもないのだが…、単体魔法に関しては「防御してもアタリはアタリ」だ。
「それで、最後に属性とか特攻のダメージ増加が入るんですよね?」
「あとは強襲攻撃とか武器の特殊効果なんかも入るにゃ。そう言った追加効果が多いのは、短剣やアチシが使っているナックルに多いけど…、実際には基本攻撃力や重量が軽いせいで最終的なダメージはあまり伸びないにゃ」
「むしろ、攻撃力の低い武器の救済措置みたいな感じですよね」
「そそ。だから追加効果で武器を選ぶのは間違い。迷ったら基本攻撃力の高い武器を選ぶのにゃ」
結局のところ、日本刀などの技量がモノを言う装備は使いこなす時点でハードルが高すぎるのだ。もちろん、ゲームなのでステータス次第で補正はかかるが…、やはりリアルでも熟練者と同等までその武器を使いこなす自信が無いのなら、両手剣や戦斧などのシンプルに強い装備を使うのが1番だったりする。
「あと、属性でも、相性によっても倍率が変化しますよね?」
「あぁ、ぜんぜん違うにゃ。ゲームによっては一律で弱点属性は2倍とかって決まってるけど…、L&Cはリアル重視だから結構細かく決まっているにゃ。その辺は…、非公開データだから、アチシも感覚的にしか答えられないにゃ」
L&Cにも攻略サイトは存在しており、魔物のステータスや属性を検索できる。しかし、物理演算によるダメージ計算は複雑すぎて、単純な攻撃力などの数値はあまり意味をなさない。それは、同じ攻撃力でも体重や力のかけ方でダメージが大きく変化するからだ。
そう言ったリアル志向の設定は属性にもあり「防具(表面)は属性が違う」とか「耐熱温度を上回る炎ならダメージが通る」などの例外的な部分が非常に多い。
「正直に言って、頭で考えると…、本当にわけわかんなくなりますよね」
「実際にやってみると、感覚的で、むしろシックリくるけどにゃ~」
「そうですね。耐水装備なら、ザックリ、防御力が2倍になるとか、それくらいの認識で。あとは実戦あるのみですよね」
「そうにゃそうにゃ。そうにゃから…、いい加減、先に進むにゃ」
「あ、そうですね」
苦笑いを浮かべながら、止まった足を前に送る。
このあとは…、どろどろの粘液をふきかけられたり、触手で拘束されたりしたが…、取りあえず、特化装備の恩恵は十二分に体感できた。
こうして、ボクは絶えずFEの視界から逃れながらも…、3人で海底神殿Dをブラブラして過ごした。
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