#210(5週目木曜日・午後・スバル)

「はぁ~、やっぱり、ちょっと違うんだよな…」

「どうしたの、スバル君。ため息なんてついちゃって」

「あ、ユンユンさん。こんにち、じゃなかった、おはようございます」


 昼、いつものようにホームに顔を出すと、いつものようにユンユンさんがやってきた。ここまでは「いつも通り」なのだが…、この後が、最近色々と変則的になってきて、それが悩みの種だったりする。


「おはよ。別に、ギルドでの挨拶は、どっちでもいいけどね。それで、なにか悩み事?」

「いえ、悩みって程では無いんですけど…、昨日、師匠と狩りをして…、う~ん、なんて言ったらいいか…」

「もしかして、セインお兄ちゃんと手合わせしている方が楽しいとか?」

「え? いや、まぁ…、そんな感じです」


 言えない。「魔物相手で扱かれる」より「もっと直接的にボクを扱いてほしい」なんて…。


 先輩と一緒に狩りに出かけるのは、たしかに楽しいし、先輩もボクを(初心者だからと)甘やかさずに厳しく指導してくれる。そう言うところのストイックさは、さすが先輩だ。なにもボクは、煽てられたいわけじゃない。先輩の厳しさには、ちゃんと相手を思いやる心があるのは充分に分かっている。だから…、もっと厳しく、ビシバシ扱かれたい。できれば…、物理的にビシバシされても…。


「 …君、スバルく~ん」

「はっ! すみません。ちょっと考え事をしてました」

「ははは、あいかわらず、スバル君は戦いに関してはマジメだよね~。でも、セインお兄ちゃんに対しては、それ以上のものを、感じたりして~」

「うっ、それは…」


 そういってニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべるユンユンさん。


 もしかして、ボクが女性で、しかも先輩の事が好きなのがバレてしまっているのかも!?


 こんなやり取りは以前にも何度かあったが…、結局ユンユンさんは笑みを浮かべて見守るだけで、特にこれと言ったアクションは起こさない。気づいていないのか…、はたまた、気づいているけど知らないフリをしてくれているのか、イマイチ判断がつかない。


「いいのよ。スバル君はスバル君のままで。時には師弟を超えた感情が生まれる事もあるけど…、大丈夫、それはとても自然なこと。むしろ、昔はよくあった事らしいよ?(はぁ、尊い…)」

「ぐっ、そんな、ボクは別に…」


 ダメだ、やっぱり、ボクが女だって気づかれている。別に、バレちゃってもいいのだけど…、それには順番が大事だ。ボクの筋書きでは、あくまで偶然! ゲーム内で一緒になっただけで「好意をもって近づいた」とか「あわよくばリアルでも…」なんて下心があることは絶対に伏せなければいけない。


 この場合、ユンユンさんが変に気を使って、ボクと先輩を近づけようとするのが1番不味いパターンだ。それでは下心ありきで先輩に近づき、ユンユンさんに協力を仰いだように見えてしまう。理想は、もっと先輩に信頼され、先輩の方からボクに近づき…、そしてそこで、出身や中学が同じだと"偶然"気づいてもらうことだ。




「にゃ~ん」

「あ、ニャンコロさん。おはようございます」

「お邪魔しています」

「ういうい」


 そうこうしていると、ニャンコロさんがやってきた。出会った当初は、避けられている印象も受けたけど、最近はわりと良くしてくれている。先輩いわく、「人見知りは激しけど、根は面倒見のいいお姉さんタイプ」らしい。


「そうだニャンコロさん! フェアリーアイ(FE)は、もう試しましたか!?」

「あ~、アプデきてた見たいにゃ。アチシはログインしたてだから…」


 話がそれてくれて一安心。話題は、先週から予告されていた3人称視点支援システム・通称FEについてのようだ。


「ユンユンさんは、もう使ってみたんですか?」

「もちろん、午前中に一通り録画テストは済ませたわよ!」


 そういってピースサインを向けるユンユンさん。動画投稿をしている人には有り難い機能なのだが…、FEは通常プレイをしているボクやニャンコロさんにはあまり関係のないシステム。正直なところ、あまり関心は無い。


「視界が結構狭いって、掲示板に書かれていたにゃ」

「そうなんですよ。はじめは、目がもう一つ増えるみたいなイメージだったんですけど…。…。」


 FEの仕様は以下の3点。

①、視界横にサブウインドが表示され、録画ソフトなどでソレをキャプチャーできる。サブウインドは平面映像で、視点切り替えはできないが、ある程度はウインドサイズを調整できる。


②、当初は上下の画面の揺れを軽減するものと思われていたが、FEの視界はアバターの視界よりもかなり狭く(6割ていど)視界端のぼやけている(立体視できない)部分が丸々無くなるかわりに、前後左右の揺れをほぼ完璧に軽減してくれる。


③、FEを使用すると頭の上に淡く光る"点"が出現する。設定で、頭の上か肩の上を選択でき、非戦闘状態限定で1メートルほど視点を移動して、向きや視野角を調整できる。光の向きである見ている方向や視野角が推測できる。


「掲示板では、悪用方法が議論されていたけど…、キッチリ対応してきたにゃ」

「むしろ、掲示板の反応を見て修正していた感じですよね」

「そうかもにゃ~」


 今のところのFEの評価は「公式ツールらしく手堅い仕上がり」と言った感じのようだ。文句を言っているユーザーもそれなりにいるようだが…、FEは実質、動画配信者向けツールであり、活用よりも悪用されることを恐れていたユーザーの方が多く、制約の多い部分が逆に高評価につながっている。


「やっぱり、運営の人も、掲示板とかチェックしているんですね?」

「ん~、運営も人の子だし、まったく見ないってことは無いし、見たら気になっちゃんじゃない?」

「L&Cの運営は、結構ヘビーゲーマー気質なところあるけど、基本的には儲けよりもゲームとしての完成度を重視しているにゃ。まぁ、ゲームバランスは賛否両論あるけど、少なくとも運営の理念は一貫していて安心できるにゃ」

「そうですね。追加要素自体、稀ですし。ソシャゲとは完全に別物ですよね。 っと! それで、ニャンコロさん。今日はどうする予定ですか? その…、よければ皆でロケハンに出かけたいな~、なんちゃって」


 お道化てみせるユンユンさん。どうやら、ちゃっかり(ランカーである)ニャンコロさんと行動を共にしている映像を撮るのが目的のようだ。


「あぁ、それで兄ちゃんから伝言と言うか、用事を頼まれていたにゃ」

「そういえば、師匠は、今日はお仕事なんですよね?」

「そそ。アチシら今、水辺のエリアを攻略しているけど…、装備一式貸すから、よかったら代わりに攻略してくれないかにゃ? …。…。」


 話を纏めると、魚介系食材を集めるために水辺のエリアを攻略しているけど…、同じ食材は海底神殿などでも入手可能らしく、装備一式貸し出すので、よかったら代わりに攻略してくれないかと言うもの。利点は、なんと言っても装備の貸し出し(無料)だろう。初期投資なしで、特化装備必須のエリアを攻略できる。


「悪い話ではないですね…。食材は買い取ってもらえるなら金策にもなるし、装備の貸し出しはタダで…、なにより、水系ダンジョンは景色が幻想的で動画映えする。その、スバル君はどうするの? 私は、ちょっと悩んでいるから、スバル君が"やりたい"って言うなら譲るけど…」

「あぁ、その、ボクは…。その、師匠は、行かないんですよね? その水系ダンジョンって…」

「ぐしし、それはスバルにゃんが引き受けたら、兄ちゃんは行く必要がなくなっちゃうにゃ~」

「ぐふふ、スバル君の心配しているのはソコだったのね~」


 2人して嫌らしい笑みを浮かべる。


 この反応は予測していたが…、やはり、出来るだけ先輩と同行できる可能性と言うか、選択肢は残しておきたい。


「とりあえず、今日は付き合うから、実際に現地に言って見て考えるにゃ」

「えっ、ついてきてくれるんですか?」

「うぃうぃ。スバルにゃんも、断るなら全然OKだけど、とりあえず行ってみるにゃ。なかなかいけるところじゃないし…、なんなら、今度兄ちゃんを誘って2人で行くのもいいにゃ」

「そうですね。とりあえず、お供します」


 ニャンコロさんも、なんとなくボクをサポートしてくれる。流石にニャンコロさんには、ボクの正体はバレてはいないはずだが…、気を付けるか(下手に取り繕って墓穴を掘る可能性もあるので)素直に好意に甘えるか、悩ましいところだ。




 そんなこんなで、ボクたちは3人で、海底神殿Dへ向かう事となった。

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