#206(5週目水曜日・午後・セイン2)

「一言に刀系と言っても、大きく分けて3つの系統に分かれる」

「はい!」


 なぜだろう? スバルと話をしていると、どうしても先生と生徒のようなノリになってしまう。


 それはさて置き、昼過ぎ、スバルを連れてサーラムの森(コボルト出現エリア)に来ていた。ここに来たのはもちろんレベル上げのためなのだが…、あわよくば魔法金属である[コバルト鋼]も入手出来たらと言う下心もあったりする。


「まずは、スタンダードな形の刀や、実在の名刀だな。俗にリアル系と呼ばれている」

「はい! …。」


 返事の後に、なにやらうつむくスバル。真面目なのは良い事だが、戦場いくさばでそれをやるのはどうかと思う。


「メモなら必要ない。これは直接役に立たない雑学程度の話だ」

「あ、はっ、はい!」

「(やはりメモをとっていたか)取りあえず戦いながら説明する。会話に意識を集中しすぎないよう注意しながら…、敵(コボルト)の攻撃をしのげ。取りあえず倒すのは重視しなくてもいい」

「え? あ、はい!」


 さっそく襲い掛かってきたコボルトを、スルリと流れるような動きで躱しながら、適当にダメージを刻んでいく。それにあわせてスバルも(慣れない相手に対して)手探りで回避や攻撃を少しずつ仕掛けていく。


 俺の指示は明らかに説明不足だ。この特訓にどんな意味があるのか、そもそもコボルトを積極的に倒していいのか、ダメなのか、曖昧過ぎて判断に困る。しかし、それはあえて明言しない。


「次は、暗器系。実在するかもしれないが、形状や付属品がフォーマルではないパターンだ。逆刃だったり、鎖がついていたりするタイプだな」

「あぁ、それも刀カテゴリーなんですね」


 もっと早く倒すこともできるが、あえて湧き速度に合わせるペースでコボルトを狩る。常に1体かかえて、じわじわとなぶり殺しにしながら、次が湧くタイミングで力尽きるよう…、ゲーム感覚で調整する。


「ゲーム内では、"日本制の剣"は殆どが刀カテゴリーになっている。薙刀とか、小刀とか、納得しづらいヤツもあるが…、まぁ便宜上ってことで細かい部分はスルーしろ」

「は、はぃ…」


 剣の分類なんて、実はどれも結構曖昧だ。製法を基準にするなら、型に流し込んで作った鋳物の刀は刀でないことになるし、逆にレイピアのような形状でも製法が同じなら刀になってしまう。L&Cの定義は、日本エリア(該当エリアに関係がある)の金属製(木刀などは除外)の刃物(十手などは除外)全般をさす。


 刀と言うカテゴリーは、あくまで便宜上のものであり、スキルの発動条件は個々に設定されているので普段意識する事はあまりないが…、まぁ縛りプレイやNPCの会話を理解するのに必要になる程度の知識だ。


「最後が伝説系。[草薙剣]とか神話に出てくる伝説の剣や、ゲーム内の希少金属を使って作ったオリジナルの刀だな」

「はい! って、うわわっ!!?」


 コボルトの<咆哮>を見事にくらって体勢を崩すスバル。


 俺からすると余裕のある相手だが…、スバルのレベルでは、まだまだツラい相手であり、周囲攻撃は剣の腕だけではどうにもならない。何より、俺の要領を得ない指示のせいで、軽くパニックになっている事だろう。


「あとは、分類に悩むところだが、製作スキルで作ったオリジナルの刀も入ってくるな。この場合、いくら大きさや形状を変更しても、もとにした武器の属性が引き継がれる」

「えっと…、オーダーメイド装備は、ちょっと興味があるんですよ…、ね!」


 それでもなんとか食らいつけているのは、やはり才能と日頃の積み重ねのなせる業だろう。同じレベル帯のPCに同じことをさせて、生きていられる奴が何人いるか…。


 そう、この特訓は"順応性"を鍛える特訓だ。判断力とも少し違う。ノラリクラリとした指示を、同じくノラリクラリと返す。世の中、白でも黒でもハッキリさせればいいと言うものでは無い。複数の勢力(プレイヤー間だけでなく魔人戦力も含めて)や個人の思惑が交差するL&Cの世界では、上へ行けば行くほど、グレーな部分の使い方が重要になってくる。


「スバルは、刀に拘りとかあるのか? 相変わらず[カタナ]を使い続けているようだが」

「その、くっ! これでも、刃渡りやエンチャント! はっ! 替わっているんですよ!!」

「あぁ、そう言う作戦か…」


 リアルの刀は高価であり、なにより銃刀法もあるので刀匠でも無ければ何本も振り試すことは難しい。一応、身長や体躯から最適な長さなどは予測できるだろうが…、日本刀に縁のある環境で育ったとしても、何本も用意して試し振りをしながら最適な1本を選ぶ、なんて事は流石に難しいだろう。


 その点、ゲーム内なら気軽に試し振りが出来る。振るどころか試し切りまで出来てしまう。もちろん、生き物を斬る感覚までリアルに作り込まれてはいないが、重量感などは結構リアルであり…、低ランクの装備を複数揃えて、自分にあう重心や刃渡りを探るのは定番であり、攻略サイトでもよく特集が組まれている。


「はい。なんと言うか、流石はゲームですね。リアルでは絶対に持て余す大太刀でも、コッチでは軽々ですから」

「刀も拘りだすと、直刀とか柄の長さとか、考える部分が多いからな」

「そうなんですよ! って、うわわ!!」


 油断して軽く死にかけるスバル。


 流石と言うべきか、ギリギリのところで踏みとどまっているが…、もし死ぬとしても助けるつもりはない。


「そろそろギブアップするか?」

「いえ、まだいけます!!」

「そうか。じゃあ、もっと湧きのいいところへ移動しよう」

「うっす! お願いします!!」


 今日一番のいい返事をかえすスバル。


 体育会系と言うか、スポコン?みたいなノリに全力でくらいついてくる。俺も中学の頃は陸上部だったが…、流石にここまで理不尽な特訓は、するのもされるのも経験は無い。近年では、効率とかリスクの説明はキッチリやるのが当たり前になり、何より安全面は勝ち負けよりも重視される。


 何の説明も無しに、ここまでついてこられるスバルは…、やはり特別だ。学校の部活などを通して武道をおさめた者には、こういう嫌がらせみたいな特訓は1番ストレスになる。スバルは、根っからのスポコン…、と言うか戦闘狂であり、見た目や柔らかい言動に反して、心のうちにひた向きな"武"への思いを抱いているのだろう。


 まぁ、楽しんでいると言うよりは、(しごかれて)喜んでいるようにも見えるが…、それは多分、気のせいだろう。




 そんな調子で、俺の理不尽な特訓は、夕方まで休むことなく続けられた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る