#198(5週目月曜日・夜・ミーファ)

「さっそく配布版の判別ツールが対策されているようだが、そのあたりはどう考えているのだね? ミーファ君」

「はい、予想の範囲におさまっているかと(え? うそ、分かってたの!?)」


 夜、せっかく配布したBLが早くも対策されたことが団長にバレて…、自警団本部(ギルドホーム)に呼び出しをくらってしまった。せっかく辞めたのに、頻繁に呼び出されて嫌になるが…、運よくセインがつかまったので、いつものカンニング作戦で切り抜ける事にした。


「なるほど。それでは、対策される事を予測していながら、我々の切り札とも呼べる判別ツールを公開したというわけかね?」

「問題ありません。(どこが!?)対策と言っても、本来必要のないマントを装備すると言う"見た目に分かりやすい"対策です。これによって確かにBLでの判別は回避できますが、かわりに自分たちがもっと分かりやすくCルートプレイヤーだと申告している状態になります。(あぁ、たしかに)これならBLを使用していないユーザーにも恩恵があります」

「なるほど。しかし、それでは肝心の要注意プレイヤーの判別ができない。その点はどう考えているのかね?」

「お言葉ですが、判別ツールの配布と、対策法の確立は直接的な因果関係はありません。これは推測ですが…、EDはBLが配布されるよりも前、かなり早い段階で対策法を考案していたと思われます」

「その根拠は?」

「EDがスパイを自警団に侵入させていたなら、判別ツールが判別できる最低条件は知っていたでしょう。(そういえばそうか)そしてその条件を確実に満たせるのが仮面とマントを装備することです。BL配布にあわせて回避方法が周知されたのは…、C√プレイヤー全体の不利益をよく思わない勢力によるものだと考えます(いきなり第三者勢力!?)」


 ダメだ、団長とセインの会話がイミフすぎる。とりあえず、それっぽく「分かってますよ」風の口調で喋っているが…、それすらあっているのか分からなくなってきた。


 こんな事なら事前に打ち合わせをしておくべきだったと思わなくもないが…、セインが「必要ない」と言ったのでしなかった。これは私の演技力が信頼されているってことなんだろう。間違っても…、「どうせ説明しても理解できないだろう」とか、そんな風には思われていないはずだ!




 その後も、よくわからない話が続いたが…、セインは難なく団長の質問攻めをねじ伏せてしまった。第三者勢力が何だったのかとか、気になる点はいくつかあったが…、色々あった(話が終わる事には忘れてしまった)ので聞きそびれてしまった。





「ねぇ、自警団はいいとして、動画の収入が思ったよりも少ないんだけど…」

「ん? 因みにどれくらいなんだ??」

「いや、色々書いてあってよくわからないけど…、なんか書いてある額が一桁少ないなと…。つか、ログインID教えたんだから、そっちで見てよね」


 団長から解放されたあと…、気のりはしなかったがセインを誘ってチャットルームに移動した。正直、疲れたのでこのまま寝ちゃいたい気分なのだが…、どうにも、このままのペースで動画を投稿して生活できるのか不安になってきたからだ。


「あまり場所をかえて頻繁にログインすると警告されたり、最悪、本人認証を求められるんだよ。セキュリティーってやつだ。悪いが投稿作業やインセンティブの管理はソッチでやってくれ」

「面倒よね~。私がいいって言ってんだから、それでいいじゃん」

「こればっかりは投稿サイトをかえても共通だからな。それよりもインセンティブの額についてだったな」

「そうそう! よくわからないけど、安すぎない!? …。…。」


 見込みとか確定とか、いろいろ数字があってよくわからないが…、思っていたよりも金額が少なすぎる。これでは普通のアルバイトをしているのと変わりないくらい。最低でもコレの2倍…、人気になれば10倍だって余裕、くらいに思っていた。


「そうとう稼げているじゃないか。新規でその額は、かなり凄い方だぞ?」

「いや、でも、これならコンビニでバイトするのと変わらないじゃん」

「考えてみろ、この動画やサイトを作るのに、どれだけの時間と労力をさいている? コンビニバイトなら、毎日8時間と、その前後や食事も合わせて10時間は拘束される。加えて様々な仕事を1から覚えて、おまけに好き勝手なことを言ってくる我がままな客に精神をすり減らされる。それでも同じだと思うか?」

「それは分かるけど、今の額じゃ全然遊べないじゃん? 必要なら、もう少しくらいなら頑張ってもいいかなって…」


 言っている事は理解できる。もちろん私だって、今さらコンビニやファミレスでバイトするつもりはないし、それに比べたら時給がよくて、なによりストレスフリーだってのは分かっている。分かっているが…、こんな額では生活するのがやっと。ショッピングや旅行などの娯楽に使う分が残らない。


 もし、今の投稿スタイルで稼げる限界がココと言うのなら…、もう少しくらいなら頑張ってもいい。ぶっちゃけ、今はセインが殆どやってくれているので、かなりラクできている。だから今の2倍くらいまでなら、頑張っても…。


「言っておくが、今の動画に2倍の労力をかけても、収入は2倍にはならないぞ?」

「え? 違うの!?」

「そもそも、中途半端に作り込んだ動画を今更だしても埋もれるだけだ。むしろクオリティーは上げない方がいい。お前の動画の売りは、毎日更新とF&Cの関連性、あとは女性投稿者ってところだ」

「いや、まぁ、私の魅力が大きいってのは分かるけどさ」

「お、おぅ…」

「でも、これっぽっちじゃ遊べないのよ!」

「いいじゃないか。お前ならコンビニや牛丼屋でバイトしなくても、モデルとか、それこそキャバクラとか男をチヤホヤする仕事でもすれば、もっと稼げるだろ?」

「いや! まぁ、そうなんだけどさ…」


 それはこのゲームを始めるまえに考えた。しかし、いくら顔やスタイルに自信があるとは言え…、サービス業はダメだ。その場その場で男を煽てて貢がせるのはいいが、それを毎日やるのは我慢できない。そう、私はチヤホヤするがわではなく、される側の、選ばれた人間なのだから!


「試しに色々やってみればいいじゃないか。どうせお前の事だ。考えるだけで実際には何もやってないんだろ?」

「ぐっ…」

「適当に試して、合わなければバックレればいい」

「それじゃあ生活が…」

「それでも、投稿の仕事は片手間で続けられるラクなもの。生活費は保証されているんだから、いくらでも辞められるだろ?」


 言われてみれば確かに、普段は動画投稿で生活費を稼いで、遊ぶ金が欲しくなったらAVとか援交で一気に稼ぐのもありだ。実際、玉のこしに乗れなかった三十路モデルの行き場所なんてお水かAV嬢くらい。


「ん~、ちょっと考えてみる。それこそ、結婚する手だってあるわけだし…」

「え!? そんな相手、いたのか??」


 珍しく声を荒らげるセイン。


 しまった、セインは"私のことが好き"で協力してくれているんだ。結婚とかAVなんて話を出したら、愛想つかされるかもしれない!?


「わぁー! うそうそ、そんな相手いないから!?」

「なにを慌てているんだ?」

「とにかく! 今は付き合ってる人とかいないから! 流石にニートはダメだけど、頑張ればチャンスくらいはあるかもだよ!?」

「いや、話が見えないんだが…」

「セインも、ゲームばっかりしてないで、就職したらって話」

「いや、これでも俺、医療機器メーカーに勤める正社員だぞ?」

「   …え?」

「あ…」


 思わず声をもらすセイン。うっかり秘密を喋ってしまったって感じだ。


 え!? もしかしてセインってニートじゃないの? むしろお金持ち!??




 結局、そのあとは何を聞いてもはぐらかされるばかりで、逃げるように解散になった。

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