#196(5週目月曜日・夜・セイン)

「うう~、熱いにゃ~、水も底をついたし、このままでは死んじゃうにゃ…」

「え、あぁ、そうか…」

「猫、何度も言っていますが、死にたいときはいつでも死んでいいんですよ?」

「すこしはボケに付き合ってもいいと思うのにゃ。せっかく、"キアネア"まで来たんだから…」


 訪れているのはキアネア地方。地図的には海底神殿よりも先に進んだところになる高温多湿の熱帯雨林気候を模したエリアで…、一言で言うとジャングルと南国ビーチで構成されたエリアだ。見た目は観光に持ってこいの場所なのだが…、アルバ王国の領地外、つまり敵対エリアであり、油断すれば俺でも死にかねないほどの難易度となっている。


「あと、その小芝居、やるなら砂漠じゃないのか? シズムンドとか」

「あっちは、砂漠じゃなくて荒野にゃ」

「そもそも、荒れているとは言え道を歩いていますからね。遭難の設定は無理があるかと」

「そんなのわかっているにゃ! 兄妹そろってダメだししてきて、仲良しか!?」

「はい。仲良しです」

「世間一般の兄妹がどうなのかは知らないが…、仲が悪いってことは無いな」

「いや、絶対お前ら、ドをこしている部類にゃ! 特にアイにゃん!!」

「いえ、それほどでも」

「なんで誇らしげにゃ…」


 まだ入り口とは言え、相変わらず緊張感に欠けるノリで進んでいく。正直なところ、キアネアに来たのは殆ど思い付きだ。何せ決まったのが10分ほど前なのだから。そう、事の始まりは30分ほど前にさかのぼる…。





「 …、兄さん、兄さ…「聞こえている。別に居眠りとかじゃないから」そ、そうですか…」


 夜、名前を呼びながら唇が触れそうな距離まで迫ってくる妹を淡々と制止する。


「何してたにゃ?」

「いや、ちょっとBLの動画を見ていた」

「なるほど、兄ちゃんも目覚めてしまったかにゃ~」

「ん? よくわからんが、取りあえず判別ソフトの動画は荒れてはいないようだった」


 もちろん、BLが他に何を意味しているのかくらいは知っているが…、そこは面倒なのでスルーしておく。


 それはさて置き、動画が荒れていなくて一安心だ。もちろん、否定的な意見はかなりある。しかしそれは無責任にコメントを残せる動画や掲示板なら当然の流れ。問題はそこから飛び火して燃え広がるかなのだが…、今回はビーストの話題もあって大丈夫なようだ。最悪の場合、EDなどの悪徳ギルドが組織的に荒らしてくることも考えていた。


「そう言えば兄さん、最近、マント系の装備の需要が高まっているそうですよ? まず、間違いないでしょうね」

「だろうな」


 BLの判別機能は外見依存。特別なデータの解析行為がない以上、対策として簡単確実なのは「顔と体を覆ってしまう事」。つまり仮面に加えて、マントやローブ系のゆとりのある外装を装備してしまえばいいのだ。ハッキリ言ってしまえば"欠点"なのだが、そこは仮面同様、過剰に追い込んで「窮鼠猫を噛む」状態にならないようにしているともいえる。


 L&Cにおいては、マントなどの外装装備は必須扱いにはなっていない。装備がアバターのグラフィックに反映されるゲームでソレをやると、全員マントで体を隠すのが当たり前になってしまう。別に、レア装備を見せびらかして自己顕示欲を満たす趣味は無いのだが…、装備の外見も立派な攻略要素の1つであり、開発はそれを"良し"としなかった。


 具体的には、マントにもアタリ判定や装備重量が設定されており、特に前衛職にはデメリットが多い仕様になっている。もちろん、金属防具に比べれば遥かに軽い重量なのだが、ただの布きれであるマントに高い防御力は設定されておらず、アタリ判定が大きくなるデメリットの方が遥かに勝る。かわりに各種魔法に関する付属効果が多く、魔法防御用として固定砲台型(動き回らず詠唱に集中するタイプ)の後衛職が愛用するポジションにおさまっている。


「てことは…、良いマントを集めておけば、高く売れるかもにゃ~」

「ん~、まぁ売れるか売れないかで言えば、売れるだろうな…」


 今何をしているのかと聞かれれば「何もしていない」と答えるだろう。本来ならば時間を惜しんで狩りに出かけるところなのだが…、ちまたの動向が気になって、ハッキリとした方針を打ち出せない自分がいる。と言うか! 考える事が多すぎる。偽装ルートの事を抜きにしても、(第7世代移行に関して)混迷しすぎている。L&Cはもっとこう…、実力がモノを言う、変動の少ないゲームのはずなのだ!


「あまり乗り気でない感じにゃ。まぁ、体を隠すだけなら安物でいいし、L√PCには関係ないから、戦士セットのようにはいかないかにゃ」

「そうでしょうね。BLは便利な外部ツールですが、そこまで絶対的なものではありません。過剰反応している今は、急激に対策装備に需要が高まっていますが…、ツールの特性が認知されてくれば、間違いなく熱は冷めるでしょう」


 とは言え、対魔法装備を集めておくのも悪くない。本来ならば、まだ必要のない段階なのだが…、魔人襲撃イベントもあるので全く不要とも言い切れない。出てくる上位の魔物が何なのかは分からないが…、回避困難な周囲ブレスなどはマントなどで軽減するしかない。少なくとも、自分用にある程度揃えておいてもいいころだろう。


「いや、やはりマント系は後回しだ。今週は"キアネア"を攻略する!」

「なるほど、すぐに装備を整えます」

「にしし、そうきたかにゃ~」




 こうして、俺たちはキアネア攻略がはじまった。

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