#195(5週目月曜日・午後・ニャンコロ)

「はっ!!」

「おぉ~、スバル君、やっぱり強いよね~」

「そうですか? ボクなんかよりもニャンコロさんの方が凄いと思いますけど」

「いやもう、2人とも凄すぎて、私には違いが理解できないから」


 華麗に魔物を両断していくスバルにゃんに声援が送られる。彼女の実力は間違いなくランカー級。女性(アバターは男性だが)でここまで日本刀の扱いに長けていること自体が異常なのだが…、本人はまったく自慢する素振りは無い。


「実際、スバルにゃんは凄いにゃ。アチシが知っているポン刀使いのなかでもイチニを争うほどにゃ」

「え? 他にも強い人がいるんですか??」

「あれ~、スバル君、気になるんだ~」


 ニヤニヤと笑みを浮かべるユンユンさん。スバルにゃんは剣の腕前を自慢することは無いが…、自信は持っているらしく、強い人には張り合おうとする武人らしさも持っている。謙虚なのは美徳だが、それだけでは競い合いの世界ではやっていけない。その点、彼女はそういう所で上手くバランスをとっているのだろう。


「にしし、残念ながら簡単に挑める相手じゃないにゃ。戦いたかったら、頂点を目指すにゃ~」

「うわっ、それって勇者か魔王のどちらかって事じゃないですか…」

「えっと…、誰でしょう? 攻略サイトには特にそれらしいことは書いていないですね」

「うわっ、スバル君、普通に挑戦する気でいる…」

「刀を使う勇者魔王は2人だけにゃ。ここから先は有料にゃ~」

「え~。でも、流石はニャンコロさん、攻略サイトに載っていない情報まで知っているんですね」

「まぁ、へんに期待されてもアレだからバラしちゃうけど…、魔王の装備は特殊で、見た目では正確なカテゴリーは分からないし、意味もないにゃ。それこそ、魔王転生する前に戦うか、<眷属操作>状態での交流がない限り」

「えっと、なんでしたっけ? たしかボスに転生すると、武器を変換できるようになるんですよね??」

「そうらしいにゃ。アチシはボスに転生したことは無いから知らにゃいけど」


 ボスや魔物(非人型種など)に転生すると(一部の例外を除いて)通常の装備は、装備できなくなる。その場合、体の一部(爪や皮)が装備扱いになり、通常の武器エンチャントの感覚でカスタムできる状態になる。その状態で倒されると、もとになった素材にエンチャントがついた状態でドロップする。


 このシステムには上位版が存在しており、既存の装備を触媒にしてユニーク装備を作成するスキルだ。これにより本来は無い機能を追加したり、純粋に性能を向上させたりできる。これによって、もともと神器級に強い装備をさらに強くしたり、反則みたいな能力の組み合わせ(ダメージ反射+HP吸収など)を実現してしまう。


「それだと、例えばわざと負けて、自分の装備ドロップを売ろうとする人も出てきませんか?」

「デスペナがキツそうだけど、ガチな人は金銭感覚もおかしいし、見合う報酬を払ってくれそうよね」

「特殊効果は本人限定にゃ~。それより、そろそろ気をぬいていると死んじゃうエリアにゃ~」

「はい!」

「は~ぃ」




 訪れたのはハルバ要塞Dのスウィートベアが出現するエリア。


 スウィートベアは高火力高耐久の厄介な魔物だが[はちみつ]を中確率で落とす。これはHPとMPを同時に回復できる便利な回復アイテムであり、クエスト素材や配合素材としても幅広く使われる。集めておいて損はないし、スバルにゃんなら難なく倒せるとふんで連れてきた。


「ちょ!? ニャンコロさん! この熊、強すぎるんですけど!!」

「あぁ、うん。頑張って逃げるにゃ」

「ユンユンさん、クマの攻撃は大ぶりなので、確り見ていれば避けやすいですよ!」

「見てから避けるってのが、無理なんですけどー!!」


 実際、その通りだ。人には努力や精神論でカバーできない壁がある。例えば、突然の事態に体が痙攣して動けなくなる人は、どんなに努力しても上にはいけない。もちろん、幼少期から訓練を積み重ねたりすることで凡人が凡人の域を超える事は可能だろう。ユンユンさんは、まさにそのタイプだと思う。ゲーム慣れしているおかげで、それなりの形になっているが…、やはりイレギュラーへの対応能力は劣る部分が多い。


 対してスバルにゃんは、才能に恵まれている天才タイプだ。何をするべきか考えるよりも先に"体"が反応する。しかも、才能におごらず努力も積み重ね、なにより好奇心を持っている。上を目指すうえで、何よりも強いのは「純粋な好奇心」だと思う。誰かに勝ちたいとか、最強装備を揃えたいと言う目標でもいいが、それだと目標を達成したり、出来ないと悟った時が弱い。対してセイン兄ちゃんやスバルにゃんのように純粋に「強くなること」を目指している人は際限なく強くなれる。そう言う部分も含めて"天才"であり、たぶんすぐに私よりも強くなる。それこそ…、セイン兄ちゃんの立っているところまで届くかもしれない。そう、思えるほどにだ。


「はっ!!  …ふ~。倒せましたよ」

「ありがとね、スバル君」

「とりあえずレベル的にもクマはむりだから、かわりにザコのブラックマウスのタゲをとることを考えるにゃ。スバルにゃんも流石に、クマを相手にしている時にネズミに襲われたら、ヤバいのにゃ」

「はい! がんばります!!」

「ユンユンさん、さっそくお願いします!」

「まかせて…、て! このネズミ、つよ!? 死ぬ死ぬ!!」


 せっかく回復した体力が1発で9割ほど削られ、泣きながら逃げ帰ってくるユンユンさん。彼女が挑んだブラックマウスは上位種のレッドパンツ。ブラックマウスに赤色のズボンを穿かせただけのシンプルなデザインであり、焦っている時は見逃したりもするが…、ポジション的にはゴブリンの上位種のレッドキャップと同じ。単純にステータスや戦闘AIが強化されたパターンで、なめてかかると、あっと言う間に壊滅させられる強敵だ。


「あぁ…、赤いズボンのブラックマウスは上位種のレッドパンツにゃ。クマよりも強いから、注意するにゃ」

「そう言うことは、先に言えーー!!」


 そう言いながらも楽しそうなユンユンさん。何だかんだ言っても、彼女も根っからのゲーム好きのようだ。はじめは動画の事もあって苦手意識があったけど…、どうにも最近、良さが分かるようになってきた。




 そんな事を考えながら、午後はスウィートベア(など)を狩って狩って、狩りまくった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る