#192(4週目日曜日・夜・セイン)

「なるほど、これでPvP(対人戦)歓迎かどうか、判断できるわけか」

「これは便利ですね」

「つか、昨日の今日でプラグインが出来てるって、どんだけにゃ?」

「自由連合は人材が豊富ですからね。メンバーに詳しい人が何人かいて、面白がって一晩でやってくれました。ある意味、プロの犯行ですよ」


 夜、俺たちは狩りに出かける前に…、レイに呼び出され、BL(ブラックリストプレイヤー判別ソフト)の拡張プラグインについて説明を受けていた。BLのメイン機能は、あくまでVRの立体画像を解析してアバターを判別すると言うもの。そこに追加機能として、登録しておいた注意人物に該当しているかを判別しているわけなのだが…、ソフトが無駄に完成度が高く、プラグイン機能まで付いていた。ようは、判別機能を別の事にも使えるわけで…、それを利用して野良対戦(PvP)を歓迎するPCを登録する機能を追加したようだ。


 もちろん、これに登録したからと言って粘着まがいに一方的にキルをとりに行ってもイイとはならないだろうが…、少なくとも登録PCは野良バトルを歓迎していると言うアピールになる。そのうち、更に機能が拡張されて細かい設定が出来るようになるかもしれないが、取りあえず「挑戦者(PK)歓迎の人として気軽に勝負を挑める」程度のアピールとなる。


「まぁいい。とりあえず登録するから、レイ、ちょっと俺に挑んでみろ」

「え! なんで俺が、勝ち目ないじゃないですか!?」

「重要なのは勝ち負けじゃない!」

「うっ…」

「とりあえず、どんな感じか知りたいだけだ」

「えぇ~」

「兄ちゃん、そう言うとこ、わりと毎回理不尽にゃ」


 レイを弄って遊ぶのはいいとして…、BLはあくまで判別ソフト。PKを歓迎しているからと言って一方的にキルすれば犯罪判定や違反行為に該当する可能性が生まれるのは変わらない。それこそ…、自警団あたりが無犯罪の囮を用意して、わざとL√PCに辻斬りされ、それを通報する手も使えてしまう。結局、BLを利用したからと言って従来のシステムから解放されるわけではないのだ。


「気にするな。それで、Pv歓迎PCを検索する機能とか無いのか?」

「そう言うの、あった方がいいですか? 独自のランキングとか」

「ん~、できれば"無し"か、非公開にできるようにしてほしいかな? 挑戦されるのは全然かまわないが…、下手にランキングにのると苦労しそうだ」

「あぁ、そうですよね…」


 PvP希望者をマッチングする機能は魅力を感じるが、実際にやるとすれば本来のランキングが問題になる。特にC√PCは、L√PCに比べてキルするリスクが少ないので、ランキングの蹴落とし目的でのPKが頻発する可能性が考えられる。


「でも、いくら設定で切り替えられるようにしても、上手く使えばIDデータから判別できちゃいそうにゃ」

「それもそうだな…」


 ランキングで表示される名前は少し特殊で、初期状態では非公開になっている。本人は自分が何位なのか分かるが、それ以外のPCには分からない。しかし、L√なら冒険者ギルドの評価がC以上などの条件で公開状態となり、C√だと指名手配などの条件で公開状態になる。つまるところ、ランキングを勝ち上がっていくと必然的に名前が公開されてしまうのだ。


 ヘイトを集めるのを避けながら安全に√値を稼ごうと思えば、極力名前を非公開にしておきたいのだが、上を目指すなら、そうも言っていられない。しかし、名前が公開状態になったからと言って、すぐにプレイに支障が出たりはしない。L&Cのアバター名はフレンドのみしか確認できないので、フレンド以外は名前とアバターを関連付けられないのだ。しかし…、BLがあると、そうもいかなくなる。BLは外見データからアバター名を割り出すソフトであり、(ブラックリスト入りやPvP歓迎ユーザーとして)名前がのれば、ランカーであることもわかってしまう。


「そうなると、ゲームバランスに影響がありそうですね。運営に禁止される可能性も…」

「ソフト自体には違法性は無いが、ゲームの進行(ランキングシステム)には影響が大きい。開発が頭を抱えそうだな」


 ユーザーが任意で機能を拡張(MOD)できるゲームでは、よくある問題だが…、MODを導入しているユーザーと初期状態(バニラ)でプレイしているユーザー間で格差が生じてしまう。本来ならこの問題は「大会中は全てのMODを禁止」したり「個別に変更や禁止の指示が出せる」ように作られているのだが…、第7世代VRは、共通規格としてハード面からソフトの併用をバックアップしている。いくら個別のソフトが禁止を訴えても、VRマシン自体の基本機能で連携している以上、規制するには限界がある。それこそ、VRの基本仕様に手を加えるレベルの重大な問題だ。


「まぁ、アチシらがいくら考えても仕方ない問題にゃ。こう言うのは、運営に質問メールを送って回答を貰うしかないにゃ~」

「それもそうだな。レイ」

「はい!」

「自由連合名義で開発に質問を送れ。問題が問題だけに即答は無いだろうが…、プラグインを配布しまくった後で問題、それこそ罰則なんて話になったら大変だ。プラグインの注意事項にも、しっかり記載しておけ!」

「うっす!」


 まぁ、取り越し苦労だとは思うが、一応、注意はしておく。この手の問題は、どこのゲームでもよく聞く…、どころか、第7世代に移行するにあたって初期のころから言われていた問題だ。今までは互換性の無い独自仕様のソフト同士だったから、この手のソフトは完成度が低かったし、規制もしやすかった。しかし第7世代からはソフトの同時起動による連携が売りとなり…、例えば「同じギルドメンバーであっても分断イベントでは連絡は取り合えない」みたいな制限は不可能(別のチャットソフトを起動すれば解決してしまう)となり、そのせいで多くのソフトが基本仕様の見直しを余儀なくされてしまった。


 L&Cは、そのあたりのゲームバランスはあまり重要視していない。実際、特定の武器や職業が強すぎると言う意見は昔から山ほどあった。しかし、修正が入った事例は殆ど存在しない。結局のところ、L&Cは"リアル"を最優先にしており、そこを曲げる事はありえない。今回の場合なら、C√攻略の難易度と、ランキング争いが激化する事が予想されるが…、運営なら「環境変化に対しての当然の摂理…、つまりこれもリアル」と割り切ってしまうだろう。そんな調子だから「新規に優しくない鬼畜ゲー」とか言われるのだ。もちろん、俺を始めとするベテラン勢は「だからこそ続けている」とクチをそろえて答えるのだが…。


「さて、用事もすんだし、取りあえず兵舎にでも行くか」

「はい、兄さん」

「ん~、気のりはしないけど、取りあえずは金属系を集めないとだにゃ~」

「いや、俺も気のりはしないけどさ…」


 昼間もそれなりにリビングアーマーを狩ったが…、それでもまだ幾らか狩る必要がある。1体ずつ戦っているので効率が悪いのもあるが、それとは別にレベル帯が上がったことにより、素材の必要数やドロップ率のハードルが上がっている。それでも他のゲームに比べたら遥かにラクな部類なのだが…、それでもやはり、専門外の魔物の対処は大変と言うか…、効率が悪くてダルい。


「猫、貴女は必要ないので、どうぞ留守番をしていてください。私と兄さんだけでも充分ですから、これからも…、永遠に…」

「いっそ露店で(素材を)買えれば早いんだが…」

「兵曹に行けるPCがアチシ達だけってことはありえにゃいけど…、流石に市場には流さないにゃ」

「だよな…」


 今週は戦士セットを使い、大いに儲けると同時に市場を混乱させて爽快だったが…、来週はどうするかと言う問題がある。流れから行けば、次は金属系の装備を商品にしたいのだが…、[モールエッジ]の特攻は防御を無視するだけでダメージ自体は増加しない。確実に相手を倒すのには向いているが、効率よく数をさばくのには相応しくない。


 次は商人達も何か対策を講じてくるかもしれないし…、こう、意表をつく何かが欲しい。あと、それがモチベーションの上がる相手だと文句はない。




 結局夜は、予定通り兵舎でリビングアーマーを、だらだらと狩って狩って狩りまくった。

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