#186(4週目土曜日・午後・コムギ)

「負けちゃったわねぇ~」

「真っ先にアタリに行ったやつが言うセリフか?」

「いいじゃない、そう言う(戦闘)スタイルなんだからぁ~」

「えっと、その…、お、おしかったですね!」

「もう、相変わらずいい子ねぇ~。無理にフォローしなくても、大丈夫よ。コムギぃちゃん」


 仮面を破壊されて、控えスペースに戻る私たち。


 今日はいつもの皆とは別行動で、自由連合のレクリエーションにゲスト参加している。しかし…、結果は開始早々アッサリ敗北。悔しいものの…、それ以上にビーストオネエ様の立場の大変さを痛感した。


 ビーストオネエ様は本来、相手の攻撃をあえて受けて反転ダメージとドレインによる回復で戦う戦法を得意としている。しかし、この試合では飛び道具ありな上に、1回のヒット(仮面が割れる)で即敗北となってしまう。本来の持ち味を生かしようがない状況でも、要注意人物と言う事で真っ先に集中攻撃を受けてしまった。勝負事とは言え…、なんと言ったらいいか…、とにかく、すごくモヤモヤした気分だ。


「いいから、さっさと退避するぞ。終わりよければナントヤラ。この借りは個人戦でノシつけて返してやる!」

「そ、そうですね、頑張りましょう!」

「ト~ナメントは1対1だけどねぇ~」


 不思議なもので、今、私は男性に囲まれている。本来なら男性は怖くて仕方ないのだが…、この人たちは何故か平気。むしろ、すごくシックリ来ると言うか…、恋人でも友達でもない、何か別の概念で安心できる。うん、やっぱり上手く言葉にはできないけど…、ミコやヤエとは違う、別の何かを感じる。


 因みに、ガッシリとした巨漢の男性がビーストオネエ様で、上下がつながった青い服の男性が"ハンサム高和"さん。なぜか皆さんは彼の事を"アベ"と呼ぶが…、その理由はよくわからない。


「えっと、次は"鬼ごっこ"だっけ? これ、勝ち負けって、どうやって決めるんだ??」

「そう言えば…」

「「??」」

「鬼ごっことは、どう言った競技なのでしょう?」

「「そこから!?」」

「すみません、その、名前は聞いたことがあるんですけど…、実際にやった経験がなくて…」

「マジかよ、いるんだな、知らないヤツ」

「まぁ~、でも~、わたしぃも、うろ覚えかも~。最後にやったのなんて30年いじょ…、ぐっ! 何でもないわ、今のは忘れて」

「「 ………。」」


 気まずい雰囲気につつまれる。オネエ様は、大らかで、暴言を受けても折れない強い心を持っているけど…、時々、自分の言葉で傷ついたりする一面を持っている。


「えっと…、ルールですけど…」

「あ、あぁ、そうだったな。ん~、あぁ、ソッチか」

「ソッチ?」

「いや、ノーマルの鬼ごっこではなく、"ゾンビ鬼"みたいだ」

「??」

「なるほどねぇ~、それなら勝者を決めやすいわねぇ~」

「「(あ、復活した…)」」

「えっと、まぁ簡単に説明すると、タッチすると鬼が入れ替わって最後に鬼だったヤツが"負け"なのが普通の鬼ごっこで…、タッチするとドンドン鬼が増えて最後まで逃げ切るか全員タッチすれば"勝ち"なのがゾンビ鬼」

「まぁ、わたしぃのトコだと"増え鬼"って呼んでいたけどねぇ~」


 何となくルールが理解できて来たけど…、これってどうなんだろう? 結局、また集中攻撃を受けて終わってしまう気がする。


「あら、不公平じゃないの?って顔、してるわね~」

「え、いや、そうですね」

「コムギちゃん。こんな事を言うのもなんだけど…、勝つことばかりに拘ってはダメよ。もちろん、場合によっては全力で勝ちに行くときもあるけど…、それは今回、私たちの仕事じゃないわ…」

「まぁ、そう言うことだな。ゲストと言っても、主役はあくまで自由連合の若いヤツラだ。コムギには悪いが、今回は初心者わかいヤツらを楽しませるのが仕事。ルールに改善点があるのは別として、今回は連中に花を持たせてやるのが1番だろう」

「あ、はい! 流石はオネエ様たちです!!」

「ふふん、もっと褒めていいわよ~」

「いや、俺は、まだオカマそっちの扉は開いてないんだが…」


 やはり、大人は違う。勝つことばかりを考えていた私の浅はかなこと…。お笑いタレントのように笑われる仕事は、私には無理かもだけど…、私も、こういう大きな度量の大人に、なれたらと思う。


 ユンユンさんや同年代の友達と一緒にいるのも楽しいけど…、こうやって年上の異性と共に行動しているのも新たな発見が多くて楽しい。流石に殿方に恋愛感情は持ち合わせていないけど…、こう言う、違ったタイプの仲間がいるのも、今では尊く感じてしまう。


「えっと、鬼ごっこは個人戦ですけど、協力は大丈夫みたいですね。折角なので作戦をたてましょう!」

「そうねぇ~、ゾンビ鬼なら、むしろ捕まってからが面白いからねぇ~」

「そうなんですか?」

「サバイバルは即アウトで蚊帳の外になったけど、ゾンビなら掴まってからも競技を続けられる。それなら俺の得意分野だ。俺はノンケだってかまわず食っちまう人間なんだぜ!」

「それは頼もしいですね!」

「いや、そう言う意味じゃ…」

「はい?」

「ぷっ、若い子には伝わらなかったみたいねぇ」


 よくわからないが…、鬼ごっこの作戦や、改良点などを話し合う。


「そう言えば、サバイバルはシューティングゲームって言うより、リアルのサバゲーみたいな感じだったな」

「そうなんですか?」

「その手のゲームは耐久力的なものがあるけどぉ、サバイバルゲームは1発アウトなのよ。まぁ、L&Cは基本的に近接メインだから、仕方ないんだけどぉね~」

「武器の選択肢が狭いのもマイナスだよな? 仕方ないっちゃ仕方ないけど、本当に好きなやつには怒られそうな部分が多い」

「でも、だからこそ若いPCにも勝ち目があるとぉ、いえるわよね~」

「いっそ、ルートモブ(ドロップアイテムを拾い集める習性を持つ魔物)に装備を食わせて、手に入れたアイテムを駆使して戦うってのはどうだ? 遠距離武器はアタリ枠ってことで!」


 盛り上がる2人に、ついていけない私。私の知識不足がいけないのは分かるけど…、なんだかとてもモヤモヤしてしまう。


「もぅ、コムギちゃんたら、そんな顔しないの! 入って行けないと思ったら、それも大事な意見の1つよ。コムギちゃんみたいなPCが楽しめるルールにしたって、いいんだから~」

「あ、はい!」


 やはりオネエ様には敵わない。気配りが出来て、とても包容力があって、強い。女性相手では力が発揮できないところもオチャメでいいと思う。むしろ私は殿方を相手にするのが苦手なので…、なんとか支え合える関係になれたらと思う。


「それじゃあ鬼ごっこは速攻で鬼になって、そのままマウントに持ち込む方向でいいな」

「そうねぇ、手当たり次第に"唇"を奪っていきましょぉ」


 まぁ、男性同士で絡み合うのは…、ちょっと理解できないけど。




 そんなこんなで鬼ごっこは…、参加者の悲鳴がコダマする、阿鼻叫喚の地獄絵図となった。

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