#187(4週目土曜日・午後・ナツキ)
「はぁ~ぃ、それでは遅ればせながら、特別ゲストを紹介します! 賞品や…、このギルドスペースを提供してくださった~、ミーファさんで!」
拍手と歓声に包まれる
盛り上がる会場のテンションについていけない気持ちもあるが…、それとは別に苦々しい感情が胸の中で確かに
『まぁ、大体気づいていると思うけど、今回のイベント、主催は
脳裏に響く妹の声。
『い、一応言っておくけど、私、もうあの人のことは吹っ切ったんだから、何とも思ってないんだからね!』
『そう? 丁度良かった、私、あの人苦手だから、今後もよろしく~』
『ぐっ』
『冗談だって。とりあえず今回は姿を隠してるんだし、そのアバターも面識ないんだから、気にしない方向でお願い』
『はぁ、まぁそうさせてもらうけど…』
このイベントを裏で仕切っているのはセインさんのはずなのに…、会えるどころか1番会いたくない人が出てくる始末。コノハはある程度知っているようだが、いくら聞いてもハグラかされてしまうし、一体、このイベントは何なんだろう…。
「ミーファさんは自警団に所属しているそうですが、今回はどうして我々に援助を?」
「え? あ、えぇ~っと。 …OK。それはですね! …。…。」
試合準備の時間を使って、運営の対談がはじまる。
最初は、何も考えていないような雰囲気だったが、突然、真面目になってそれらしい理由を語りだす。
『ぷっ!』
『どうしたの?』
『いや、なんでもないから、気にしないで、プ、ぷぷぷ…』
何やら妹の声が笑いをこらえているようにも聞こえるが…、それはさて置き、このイベントは、利用者の少ないマップに利用価値を見出すことで「PKの牽制をおこなう事が目的のようだ。
「もちろん、PKは運営が許可しているゲームの基本システムの1つで、それに反対するつもりは毛頭ありません。しかし、初心者狩りのように、ベテランプレイヤーが何も知らない初心者を一方的に襲う状況は、良いものとは呼べないでしょう。私は、PK行為にもフェアプレイ精神が必要だと常々思っていました。…。…。」
どう考えても、あの人の言葉とは思えない、真面目なセリフが止めどなく流れ出してくる。正直に言って、悪い夢でも見ている気分だ。
『そうだ、トーナメントは4回戦だけど、飛び入り参加OKだよ。お姉ちゃん、挑戦する?』
『え? いや、勝てるわけないでしょ、そんなの』
『こう言うのは勝ち負けじゃないよ。まぁいいけど…』
コノハも雰囲気に耐え切れなくなったのか、話しかけてきた。
『結局、PKがどうのって、何がしたいわけ? 知ってるんでしょ??』
『何って、話の通り、"ルールを守って楽しくPK"しましょうって話だよ』
『いや、でも…、PKってつまり辻斬りみたいなものでしょ? 良いも悪いもあるの??』
『PK自体がどうのって話は抜きにして、PKにも色々あるからね。例えばキルよりも妨害や暴言で相手を怒らせることを楽しみにする人もいれば…、挨拶をして正式に決闘を申し込む人もいる。場所を決めてソコに来た人に挑戦したりされたりするタイプもいれば、ステルスミッションのように気づかれずに暗殺しようとしてくる人もいる』
『まぁ、なんとなく分かるけど…』
たしかに、ゲームによってはPKを生中継して、自分の放送を炎上させる形で再生数を稼いで生活している人もいる。しかし、L&Cには指名手配や賞金システムがあるので、そう言った悪質なプレイヤーには半永久的なペナルティーを課せられる。ハッキリ言って、L&Cでは実際にPKの被害にあう機会は滅多にない。もちろん、転生前と言うのも大きいが、どうにも転生後でもアルバ支配エリアでのPKがハイリスクなのはかわりなく、そのあたりのゲームバランスはとれている、らしい。
私自身、自警団に入った時も…、PKが気になって"動画を"見て腹をたてたことが切っ掛けであり、私が被害にあったことは無い。そう、全てはイメージだけで勝手に怒って、勝手に敵視していただけなのだ。
「そうなんですよね。我々、自由連合はPKのマナー作りの一環として、すでに危険エリアの情報を公開していますが…、そこであえてPKを推奨するエリアなどを設定しようと考えています。もちろん、例えば"ここなら初狩りOKですよ"みたいなものでは無く、"ここで挑戦者を待っています"と言った感じです」
「なるほど、それなら不特定多数の人に合意の決闘を持ちかけているだけですからね。それに、そうやって過疎エリアに人の目が向くこと自体、意義があると思います。悪質なPKをしているユーザーは、そう言った目の集まる場所を敬遠しますからね」
あれは本当に、あのミーファなのだろうか? 同じアバターを使っている別人に見えて仕方ない。
『因みに…、このやり取りは予定通りで、対戦の準備はとっくに終わってるんだよ』
『え? やらせってこと??』
『人聞きの悪い言い方で言えばそうなるけど…、それでも集まった人に聞いてほしい話なんだよ。掲示板とか、トーナメントが終わった後だと、聞かずに退席しちゃう人も出てきちゃうでしょ?』
『あぁ、そうかも…。あ! そう言うことか!!』
『気づいたみたいだね。そう、今回お兄さんは裏方なんだよ~。つか、本当は私、サクラとして雰囲気づくりを頼まれていたんだよね』
回りくどいけど合理的、善悪は抜きにして確実で効果的なやり方を選ぶ。いかにもセインさんのイメージだ。
自警団やあの女と敵対していたはずが、なぜここまでするのか理解はできないが…、何か"意味"のある行動なのだろう。
「今回は有意義な話が出来て、個人的にも嬉しい限りです」
「いえ、こちらこそ。ミーファさんにはギルドホームや有力者の交渉など、お世話になりっぱなしでしたからね。それでは、そろそろ選手の準備も…」
「その前に、ちょっといいですか?」
「はい? まだ、なにかありましたか??」
待ちわびたトーナメントにストップをかけられ、ざわつく会場。これが演技なのか、それとも司会者の知らないイレギュラーなのかは分からない。
「実はこれ、自警団内部でも極秘なんですけど…、皆さんご存知の検問のアバター判別アプリ、それを配布用に調整したバージョンが、つい最近、完成したんですよ」
「え? それって…」
「危険ユーザー判別ソフト、私は単純に"
会場の騒めき声の色が、徐々に変化していく。検問の判別ソフトの性能は自由連合内でも話題になっており…、指名手配の有無や仮面による判別妨害の影響を受けずに、妨害行為をおこなっているユーザーを簡単に特定してしまう。多少内容は違うようだが、それでも危機回避を目指して集まった自由連合には喉から手が出るほど欲しいもの…、なのではないだろうか?
「え!? いいんですか??」
「安心してください。あとで私が、皆さんの分まで団長に怒られておきますから」
「ちょ、それ、ダメなやつじゃないですか!?」
笑いに包まれる会場。盛り上がる会場とは裏腹に、私の背筋には、さっきから変な汗が流れっぱなしだ。
「気にしない気にしない。その代わり…、動画投稿をしているひとは、宣伝してくださいね。このソフト、危険ユーザーのデータを共有する機能があるので、情報量が制度に直結するんですよ。一応、一部の"元魔王"や悪徳ギルドとして有名なエターナルディザスター(ED)の構成員のデータも入っているんですけどね」
「おぉ…」
周囲の目の色があきらかに変化する。実際、EDクラスのプレイヤーキラーに絡まれたら、ほとんどのプレイヤーがなすすべなくキルされてしまう。それが、BL?があれば接近されるまえに相手を判別して、逃げることができる。
「それでは、このURLにアクセスして、ダウンロードしたツールを起動して、トーナメントをご覧ください。そうすればBLの性能は一目瞭然でしょう」
『ちなみに、ソフトはすでにダウンロードしてあるから』
『なんで、もう持っているのよ…』
『さ~、なんでだろ~』
ワザとらしくとぼける妹。それはさて置き、司会者たちが慌ただしく舞台袖に退避して、私でも見覚えのある巨漢の男性?プレイヤーが壇上に上がる。
「は~ぁ~い。みんな、お・ま・た・せ! ビー、じゃなくって、HG仮面、参上よ~」
仮面を装備しても、彼のインパクトは隠し切れない。L&Cでもっとも有名なプレイヤーであり、C√ベスト7の実力者、(元)色欲の魔王・ビーストだ。
「おぉ! すげぇ!? 本当に出たぞ!!」
「マジか、名前だけじゃなくて、経歴とか出現頻度の高いエリア、戦闘スタイルまで出てきたぞ!!」
早速、ツールを起動した人たちから歓声が上げる。本来なら仮面を装備しているので[手配書]などの既存の判別手段は機能しない状況だが…、BLは正確に相手を判別して、相手のプロフィールなどと合わせて表示してくれる。
ここまで来るとトーナメントも余興でしかない。そう、セインさんの狙いは始めからコレだったんだ。動画投稿者を集め、魔王を呼び、そして危険ユーザー判別ソフトのお披露目をする。団長に怒られるうんぬんの話も、完全に方便だろう。
こうして、魔王すら巻き込んだPK潰しソフトのお披露目は…、これ以上ないってほどに盛り上がることとなった。
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