#185(4週目土曜日・午後・ユンユン)

「はぁ~い、それでは時間になったので、えぇ~っと、第11072回、自由連合主催、レクリエーション大会(仮)を開始しま~す」


 運営スタッフが開催の合図をおくると、歓声とともに拍手が巻き起こる。


「それじゃあ、いってきますね」

「リハーサルと言っても勝負は勝負だから、気をぬかないようにね!」

「がんばってね~」

「えっと、ビー、じゃなかった"HG"さんにもよろしくね」

「はい、おまかせを!」


 開始早々、小麦の背中を見送る。


 今日はいつもの撮影とは少し違う。普段なら4人でレベリングや装備集めに奮闘しているところだが…、今日は自由連合主催のレクリエーションイベントの予行演習に参加していた。しかも今回、3人1組の競技に参加するために、小麦は別行動となった。4人なので1人あぶれるのは当然なのだが…、私たちは今回、リハーサルと言う事もあって段取りの確認のみ。実際に競技に参加するのは小麦だけだったりする。


「は~ぃ、試合中はこのエリアから出ないようにしてくださぁ~い。試合形式は"殲滅戦"を予定していますが…。…。」


 運営スタッフが試合のルールや注意事項を説明していく。まだ企画段階なので正式なものではないが、ここで決まった内容が来週の本大会で採用される。


「殲滅戦ってことはチームメンバーが1人でも生き残ればいいってことですよね? 普通は陣地を決めて攻撃と防衛にチームを分けたりするみたいだけど…」

「まぁ~、それだと参加できるチームが限られちゃうからね~。とりあえず、大勢集まっても1回で終わらせられる形式にしたんじゃな~ぃ」

「あぁ、なるほど…」


 観客席に集まったPCは約30人。多いのか少ないのかイマイチ分からないが…、説明を真剣に聞きこむ者もいれば、仲間内で対策を考える者、退屈そうに聞き流す者と、受け取り方は千差万別だ。


「ちなみに、試合はもう始まっています」

「「(騒めく会場)」」


 ルールの説明を聞いていたと思ったら、試合がはじまっていた。なにを言って…(以下略)。


「サバゲーは位置情報が重要なので、動画を配信するのは構いませんが、リアルタイムで映像をタレ流すのは禁止とします。観客席を決めているのも、外野の目を使って位置情報を…。…。」


 つまり、公平をきすために観戦不可となったのだ。当然、観客からはブーイングが飛びかうが…、冷静に考えてみれば妥当な判断であり、当然の配慮と言えよう。それに「時間をおいて映像を配信するのはOK」と言うのは、私のように編集系の動画配信者にはありがたい制約だ。


 余談だが、凝った編集動画を作る配信者は年々減少傾向にある。理由は簡単。時間効率が悪すぎるのだ。趣味で動画を作るならいざ知らず、生活費を稼ぐ"仕事"として動画を投稿する場合、編集時間や作業量は何よりも重要になってくる。アルバイトで言えば時給に相当する概念で…、つまり、「編集に時間をかける=時給ダウン」となる。私は"カット&倍速"を多用する長期のゲーム配信や、完成度を重視する完コピ動画を投稿しているので…、生放送で稼いでいる人と時間効率を比べたら目も当てられないことになる。


 もちろん、時間効率だけが全てでは無いので一概には言えないが…、生放送不可というのは私にとって追い風であり、(本格的に動画の企画にするかは別として)このタイプの競技には出来るだけ力を入れたい。


「ん~、理由は理解できましたけど…、やっぱり状況が分からないのはモドカシイですね」

「生放送の人には申し訳ないけど、私的には興味深いわね」

「でもこれ…、普通のフィールドでやっているから、入って行こうと思えば入れるよね~」

「そうですね。最悪、トラブルになる可能性も…」


 もっともな疑問だ。自警団も検問で進路妨害をして違反をとられている中で、一部とはいえフィールドを丸ごと封鎖しておこなうのは流石に問題がある気がする。


「えぇ~、無関係なPCがエリアに侵入してきたときの配慮ですが…。…。」


 すかさず運営が対処方法を解説する。


①、基本的には巡回しているスタッフが侵入を制止して退避や迂回を促す。場合によっては前もって集めておいたドロップアイテムを販売することも検討しているが、基本的には重要度の低いマップでおこなわれるので「どうしてもココでなければ」と言った事態は起こらない。


②、それでも侵入してくるPCは、そのまま通して(通行妨害はNG)、参加者に注意を促す。試合の中断などは無く、イレギュラー要素は参加者が個々に対応する。


③、侵入者が試合に介入する、あるいは特定のPCが有利になるような行動をとった場合、"乱入"と見なして参加者や運営が自己判断で対処(場合によってはキルも可)する。


「これって…、つまりキルされる覚悟があるなら乱入ありってことですよね?」

「あぁ~、反則金払うなら速度オーバーしてもOKみたいな?」

「そうなるわね。審判もいるから、挑戦するバカはいないと思うけど…、賞品や因縁とかが絡むと、もしかしたら起こるかもね」

「因縁ですか…。殺伐とするのは回避したいですね」

「そうね…」


 L&Cは基本的に、マナーをユーザーの判断にゆだねているゲームなので、乱入や反撃して相手をキルしてもペナルティーをうける心配はない。しかし、どこにでもイカレたヤツは湧いて出る。負かされた腹いせとか、引退記念にとか…、そういった輩に大事な動画が汚されるのは我慢できない。


 この手のユーザーイベントは、調べてみると事例は結構でてくる。しかし、身内や動画投稿者のグループ単位であることが多く、それに比べると自由連合の企画は大規模な部類と言えるだろう。普通は乱入などは発生しないのだが…、大規模で、しかも定期的にとなると…、何が起こるかわからない。


「みなさん、思うところはあるでしょうが…、よかったら改善案などをお寄せいただけると助かります。こちらも最初から完璧にいくとは思っていないので」


 運営が最終的な補則を入れる。何事も最初から上手くいく保証はないが…、今のところチーム対抗サバイバルゲームは「可もあり不可もあり」と言った印象だ。


「えぇ~、試合もちょうど終わったみたいですね。後ほど参加者の映像は配布しますので…、できればダイマ(ダイレクトマーケティング)してもらえると助かります。一応、運営の方でも宣伝動画を作る予定ですが…、編集担当が失踪する可能性もありますから」


 会場が笑いに包まれる。


 まぁ思うところはあるが…、文句を言い合っていても前へは進めない。楽観的でも、前へ進む努力を止めてはいけない。そんな事を考える私を構うことなく、イベントはどんどん進行していく。




 この後は、同じ要領で「鬼ごっこ」もおこなわれ…、第3競技「個人トーナメント」の会場へ向かうために、移動となった。

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