#184(4週目土曜日・午前・セイン)
「しかし、よくこんなイベントを自警団が許可しましたよね?」
「ん? まぁそうだな。自警団も人数が増えてきて分業化がすすんでいるって事だ」
「はぁ…」
生返事を返すのは仮面にマント(体装備を隠せる装備)で正体を隠したレイ。
午前。俺はシズムンドの何の変哲もないフィールドに来ていた。
「それで、人は集められたのか? 出来れば面白い連中が集まってくれるといいんだけど…」
「とりあえず声はかけましたけど…、どこまで集まってくれるかは、まだ未知数ですね。あ! でも、セインさんが言っていた例のBOプレイヤーは見つかりましたよ!」
「おぉ、それはよかった。最近はあそこまで愛着を持ってやり込むゲーマーは減ったからな」
「一応、声はかけましたけど、参加してくれるかは…」
「まぁボッコボコに叩きのめしたからな。でも、ああいったゲーマーは貴重だ。できるだけ大事にしていきたい」
普段は人気のない通り過ぎるだけのフィールドが、侵攻イベントの影響もあり一段と閑散としている。その一角を使用してやろうとしているのはユーザーイベントと呼ばれる個人企画のレクリエーション。ビーストなどは普段から挑戦者を募集して対人戦をやっているが…、ようはルールを決めて競い合ったり、報酬をかけてリーグ戦をやるわけだ。
「ふふふ、すでに
「運命の時は刻一刻と迫っている。
「イベントってここで良かったですよね? 下見に来ました」
「あ、いらっしゃい。ここでOKで~す」
中二病感丸出しのPTが早速やってきて、レイがその対応にあたる。開始は午後2時からなので、かなり早い到着だが…、初のイベントと言う事もあり、場所を確認したり、内容の説明ついでに雑談でもしに来たのだろう。
レイは、このイベントの運営役として白帯の[ウエスタンハット]を装備している。運営役はレイをはじめとした自由連合。俺はあくまで、企画を考えて、それに必要な最低限の人物に声をかけて…、あとは賞品を用意したくらい。細かい部分はレイに丸投げだったりする。
「 …。…。」
「 ……。 …。」
レイが中二病PTの対応をしているが…、あそこまで濃い連中とも普通に会話できるあたり、流石レイだ。戦闘能力は壊滅的なせいで中堅以上のPCには軽視されているが、新人や(無理のない範囲でカジュアルに楽しむ)ライトユーザーの支持は厚い。女性PCにガッつく欠点はあるものの、とりあえず俺の人選は正解だったようだ。
「兄ちゃん、おはよぅ~」
「ん? あぁニャン子か。ずいぶん早く来たな」
「兄ちゃんこそ。まぁ雰囲気を見て、なんかヤバそうだったらバックレようと思ってにゃ」
「ふっ、好きにしろ」
「うぃ~」
現れたのは、ネコミミが妙に浮いている覆面のPC。つまりニャン子だ。イベントは基本的に仮面マントを推奨している。別に装備していなくてもいいのだが、ようはお祭り感を出すための演出だ。あと、最近この手の装備は自警団のせいでマイナスイメージが強く、愛好家が肩身の狭い思いをしているので、そちらへの配慮も兼ねている。
因みに、俺たちはあくまでスポンサーであり、運営ではない。場合によっては参加する事も考えたが…、掲示板の反応を見るかぎり、サクラとして参加する必要は感じられない。
「あ、にゃんころ仮面さん、来てくれたんですね!!」
「人違いにゃ」
「いや、流石に分かりますから。ややこしいから、そのネタやめません?」
「お構いなくにゃ」
中二病PTの対応から解放されたレイが戻ってくる。ニャン子はレイを苦手としているが、仮面装備という事もあり、今日は若干強気に見える。
「はぁ…、まぁいいですけど…」
「 ………。」
「 ………。」
「「 ………。」」
口ごもる2人。ニャン子はともかく、レイもアレで異性の扱いは苦手なようだ。なんと言うか、初心者とかに質問されると答えられるけど、格上の女性PCには途端に受け身になってしまう。
「それで、企画はどうなっている?」
「あぁ! そうでした。とりあえずメインの"チーム対抗サバイバルゲーム"はエントリーが殺到して抽選状態です。あと、"鬼ごっこ"はイマイチ反応が悪かったですね。"個人対抗トーナメント"は注目度は高いんですけど…、みんな様子見しているって感じです」
企画したイベントは、とりあえず3つ。
①、チーム対抗サバイバルゲーム:3人1組で仮面を割りあうサバイバルゲーム。装備はマジックシューターと近接武器全般となっており、疑似的なFPSゲームをイメージしている。一応、移動スキルなどを覚えている方が有利だが、1発ヒットで即アウトなので戦略とチームワークが重視される。
②、鬼ごっこ:なんの変哲もない鬼ごっこだ。シンプルで子供っぽい気もするが、そこをあえて狙った競技。誰でも簡単に楽しめる。
③、個人トーナメント:1対1の勝ち抜きバトル。俺的にはメインの企画だったが、装備やPSの優劣がハッキリ出てしまうので反応は消極的なようだ。知名度が上がって優勝したこと自体が自慢になるところまで持っていければ安泰なのだが…、とりあえず様子を見て、ダメそうなら何か借り物競争みたいなランダム要素を追加するなどのテコ入れを考えよう。
その他、企画は随時募集している。細かい調整はレイをはじめとした自由連合の有志に任せてあるので、基本的に俺の出番は無い。今後、注目があつまれば…、例えばBO風の対戦イベントや、クイズなどのバラエティーっぽいイベントを追加してもいい。さらにその状況を、参加者に動画配信してもらえば、イベントも盛り上がるし、企画している自由連合やビッチの支持力アップにもつながる。
「個人戦はイマイチか…。ロールプレイヤーが多いと言っても、基本的には個人戦は敬遠する感じか?」
「PSが高かったら、ランキングを目指してガチプレイしたり、それこそユニークを狩りに行っていますからね」
L&Cをプレイする上で、メインの目的に上がるのは"ランキング"と"ボス討伐"となる。しかし、自分の好きなキャラに成りきるなどのロールプレイや、コミュニケーションツールとして上を目指さないPC、あるいは商売に専念して冒険は殆どしないPCも一定量存在する。自由連合は、そう言ったライトに楽しむユーザーの割合が多い。
「そもそも、侵攻イベントと日取りが丸被りしてるのがイケナイにゃ。これじゃあ参加を見送るPCが多いのもうらずけるにゃ」
「そこをあえて被せるところに意味があるんだよ」
メインイベントである魔人侵攻イベントだが…、L&Cの全ユーザーが参加する強制イベントと言うわけではない。あくまで自由参加であり、レベルや装備が揃っていないライトユーザーは蚊帳の外だ。
「理由は色々ですけど…、実際、侵攻イベントをスルーするPCは多いですからね」
「加えて、そういうPCが楽しめるイベントを用意するのは、自由連合の活動を盛り上げる事に繋がる。自由連合の加入者が増えれば、集まる情報も増えるし、信ぴょう性も増す。そしてライトユーザーが、より楽しめる環境が出来るわけだ」
「だから今回、自警団も協力してくれることになったんですよね?」
因みに、自警団本部はこの件はノータッチだったりする。そう、俺が
今回のイベントは、自警団も支持しており、賞品の提供などをおこなった事になっている。まぁ実際には、賞品を用意したのは俺で、出資者として感謝されるのがビッチの仕事となる。これにより、L√のライトユーザーに支持されている自警団から支持者を引き込みやすくなるし、√を限定していないイベントでも健全さをアピールできる。
まぁぶっちゃけて言えば、自警団の派閥を穏便に横取りしているわけだ。しかし、それはあくまで表向きの理由であり、そのためだけに多額の賞金を出資しようとは思わない。その目的とは…。
「まぁ、こうやって利用価値のないマップに人の目を向けるのはPKの牽制にもなるからな。結局、PK対策で1番効果的なのは、不特定多数のPCに目撃される状況を作る事なんだよ」
「ですよね。ただ、何の目的もなくPK多発エリアの見回りをしようって言っても限界がありますけど…、イベントや、その予行練習で頻繁にPKエリアにPCを送り込めば、物理的にPKが出来なくなります」
「ぐしし~」
「なんだよ、ニャン子」
「いや~、別に~」
意味ありげな笑みを浮かべるニャン子。どうやらニャン子は、他の意図があることを見抜いているようだ。まぁ、イベントに託けてキル数を稼ごうとしているとでも思っているのだろうが…、そこにプラスして、EDを牽制したり、その先にいる勇者同盟を牽制する意図もあったりする。
「おはようございま~す。みなさん、もう集まってるんですね」
「あ、ちょっと応対してきます」
「あぁ、頼んだ」
「いってら~」
こうして、公式イベントの裏で、ユーザーイベントも密かな盛り上がりを見せていくのだった。
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