#180(4週目金曜日・午後・セイン3)

「あら~、セインちゃん。待ってたわよ~」

「すみませんビースト。急に呼び出してしまって」

「相変わらず他人行儀ねぇ~。今日は1人なの?」


 夕方、俺はL&Cでもっともインパクトの強いPCと酒場で密会していた。


「機密って程でも無いですが…、お互い、適当なことは言えない立場ですからね」

「セインちゃん、最近、変わったわよねぇ」

「そうですか?」

「そうねぇ~、なんだか、L&Cを楽しんでいる感じがするわぁ~」

「そうかもしれませんね。でも、ビーストも少し、かわりましたよ」

「そぉお?」

「はい。完全に、オカマって感じです」

「オカマじゃないから! ってこのクダリをするのも、久しぶりねぇ~」


 ゲイキャラを武器にテレビで実際に活躍した芸能人と対等の立場で語り合う不思議。因みに、これでもビーストはメールなどの文章は普通だったりする。


「それで、少し本題からそれますけど…、ビーストは勇者同盟や(EDなどの)悪徳ギルドについては、どう考えていますか?」

「どうって、漠然とした質問ねぇ」

「自分としては、直接かかわりたくない相手ではあるんですけど…、最近は全くの放置もよくないと考えています。ビーストのところにも、コンタクトくらいはあったんじゃないですか?」

「ん~、私のところは色々と目立つから、それほどではないけどねぇ~」


 ビーストの立場だと、EDよりも勇者同盟が直接コンタクトをとっていそうだが…、少なくとも何かしらの協定は持ちかけられているだろう。


 勇者同盟は、6時代もガチすぎる活動を続けてきたが、7時代げんざいはその活動に拍車がかかっている。今はまだ進行度の調整に留まっているようだが…、転生後には本格的に勇者や魔王の選別をおこなうだろう。つまり、協力しないPCを妨害して自分たちの都合のいいPCで勇者も魔王も固めてしまう。まぁ、何処まで出来るかは未知数だが、実際のところ6時代からすでに勇者の入れ替わりは殆ど起きていない。悪い言い方をすれば八百長状態だ。今、それが魔王サイドにまで侵食しようとしている。


 もちろんこれは、確証のない憶測にすぎないのだが…、俺は勇者たちならやりかねないと思っているし、ビーストも薄々は察しているだろう。


「自分は勇者同盟あいつらとは違うので、健全に攻略していくつもりですけど…、相手が大きな組織である以上、受け身では、いつか包囲されて詰みになってしまう」

「相変わらずよねぇ~、お・た・が・いぃ」


 そう言えば、6時代も同じようなことを話した気がする。あの時は…、アイも一緒だったかな?


「そうかもしれませんね。人の本質は変わらない。自分も、ビーストあなたも…、そして勇者たちも」

「つまり、私は根っからのオカマってことねぇ~」


 そう言ってお道化てみせるビースト。こういう所はつくづくピエロであり、エンターテイナーだ。


「まぁそう言うわけで、間接的にですけど…、新規や中堅を後押しして変動のない上位陣のカーストを崩せたらって思っています」

「そうねぇ~、入れ替わりは大事よねぇ~」

「つきましては、ちょっとしたユーザーイベントを企画しています。ビーストにはソレに参加してもらいたいんです」

「私に、客寄せパンダになれって言うの? ビーストだけに」

「もちろん、そう言う意味もありますが…、どちらかと言えば派閥を明確にしておきたいってのが大きいですね」


 現在の派閥は…、

①、ゲームとして効率プレイを最優先に考える、勇者同盟と、その情報屋、そして裏で勇者に協力するEDなどの工作部隊。

②、治安や秩序を守ることを重視する自警団と、それを支持するライトユーザー。

③、上記の2つには属さないで自由にゲームを楽しみたい無所属や雑多な少数派閥。これらの多くは自由連合の掲示板で情報を共有して"我関せず"のスタンスを貫いている。


「若い…、かどうかは知らないけど、そんな難しい事ばかり考えているとハゲちゃうわよぉ~」

「ぐっ」


 ビーストは、根はいい人なのだが…、苦労人と言う事もあり、年上の貫禄かんろくと言うか、いい意味で敵わない部分がある。彼がこのゲームで1番の人気者であるのも、そう言った魅力が少なからず影響しているのだろう。


「冗談よぉ。私とセインちゃんの仲じゃない。話くらいは聞いてあげるわよぉ~」

「えっと、イベントと言うのは…。…。」


 企画の概要をビーストに説明する。


 企画というのは、もちろんバトルロイヤルイベントの事だ。ビーストには、メインターゲットとして試合と企画、両方で注目を集めてもらう。もちろん、この役目はユンユンに任せる案も考えたが…、やはり、身内贔屓で中途半端なことをして失敗したくない。俺も社会人なので、後ろ盾や最初のとっかかりの重要性は充分承知している。


「なるほどね。大体理解したわ」

「それで、明日の午後に人を集めて予行演習を。さらに1週間後に本当の第1回を大々的に開催する予定です。出来ればビーストには、予行演習だけでも参加してもらいたい。特に報酬は用意していませんが…、参加する旨味はあるかと」

「そうねぇ~、少し考えさせてもらえる?」

「えぇ、もちろん。不参加でも構いませんが、挨拶だけでも参加してもらえると、非常に助かります」




 こうして魔王も巻きこんだ大きなイベントの準備が着々と進んでいく。こんなことに何の意味があるのか、実はやっている本人も半信半疑だったりするのだが…、それはそれとして、そこには何かを形作る行為を"楽しい"と感じている自分がいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る