#174(4週目木曜日・夜・ミーファ)

「え~、それでは次の議題です。かねてより問題になっていたPK行為に対する対策について…。…。」


 夜。私はギルドの定例会議に参加していた。ぶっちゃけ、いつもなら何かと理由をつけてサボるところだが…、今回は私に関係した重要な話があるので仕方なく参加する。


 とは言え…、やっぱりバックレたい。ホント、どこまで面倒にすれば気がすむんだろ? そもそも、お遊びゲームで定例会議ってなに? 頭だいじょうぶ? コイツラはゲームですら楽しんでプレイできない真正の堅物だ。動画の事さえなければ、ぜ~ったいに! 関わらなかっただろう。しかし、だからこそ組織力があって利用価値もあった。もちろん、他にも大きな組織はあったのだが…、どこも前作からの引き継ぎで新参の私が入り込む余地は無かった。


 予定では、このまま自警団をトップギルドにしたら、バカな男を使って動画を作らせ、不労所得で遊んで暮らすつもりだった。しかし、自警団の運営はなかなか思うようにいかず…、極めつけはスパイ容疑をかけられてクビになりかける始末だ。散々悩んだあげく…、マジでムカつく話だが、絶対にスパイではないであろうセインを頼るはめにまでなった。


 しかし、意外なことにセインは協力してくれた。意外といえば意外だったが…、考えてみれば元々はクソ面倒な自警団とソリが合わなくて(自分の事は棚上げ)出て行った実力者。自警団の事さえなければ…、この私が拒絶されるはずがなかったのだ! とくにゲームの中では歳はわからない。年齢のせいでモデル業界からはハブられたけど…、歳さえ誤魔化せれるなら私がモテないはずはない。まぁ、性格は最悪だけど…、なんだっけ? ツンデレ? セインも実は私に頼られて内心では浮かれているはず。動画の事にも詳しいみたいだし、何より…、面倒なことを全部考えてくれる。これはもう、このままアイツに全部丸投げしていればOKでしょ!?


「 …つきましては、新たにPK対策部門を設立して、その対処にあたってもらいます」


 ざわつく周囲。しかし、何の予告もなく新しいことが決まるのは、自警団ではよくある事。結局、この組織は団長の清十郎?のワンマン組織なのだ。


「PK対策部門にはミーファさんが名乗りを上げてくれました。今後は、機密保持の観点からPK部門を独立させて、我々本部とは別行動で対応してもらいます。それでは、ミーファさん、挨拶を」

「 ………。」


 つまり、スパイ容疑のかかっている私はサセンされたわけだ。本当ならスパイの汚名付きでクビになるところだったが…、(セインのアドバイスで)私は悪者にならずにすんだ。まぁ、味方によってはハブられてミジメに見えるかもしれないけど…、面倒な自警団本部と縁が切れるので、むしろ乗り気だったりする。


「ミーファさん?」

「え? あ、はい! え~っと…『なんだっけ?』」

『忘れたのかよ。まぁいいや、今から言うとおりに続けてくれ』


 裏で私をサポートするのはセイン。ほんと、こいつマジ便利。クチでは嫌そうなこと言ってるくせに、面倒なことは大体全部やってくれる。今も中継ソフトで、私の視界から会議にこっそり参加して私をサポートしてくれている。いや、セインってツンデレすぎだろ~。


「『OK~』今、自警団は新たな節目を迎えようとしています!(なんの話だろ?)これまでは、悪い言い方をすれば、旧体制を引きづり馴れ合いの活動を続けてきました。それでも形になっていたのは、ヒトエに団長のご指導ごベンタツのタマモノであり、感謝してもしたりません。(なるほど、最初に団長をおだてておくわけね!)しかし、いかに団長と言えども、人一人で出来る事には限界があります。それは労力的な問題もありますが…、今、問題になっているのは、やはり情報管理でしょう。(そうなの?)それは、皆さんも先の事件で充分理解したことだと思います。(??)多くのプレイヤーに作業を分担した結果、どうしても情報の機密性を維持できなくなってしまいました。このたびの執行部隊の成功は、あえて連携をとらなかった事にあり、組織全体での情報共有が必ずしも良い結果をもたらすとは限らない事がお分かりいただけたと思います。(えっと、つまりワンマンにはワンマンの利点があるって事?)つきましては、私も"表向きは"広報部門として組織を独立させ、裏ではPK行為の対策にあたりたいと思っています!(セリフ長すぎ、覚えきれるわけないじゃん!)」


 突然の発表にざわつく周囲。私は、もともと伝達役として重要なポストにいたので、その重要人物がいきなり組織から離れるのだから無理もない。と言うか、私がいなくなったら自警団の結束とかモチベがダダ下がりでしょ!?


 団長の側近までポカン顔でちょっと笑える。


「えぇ…、ミーファさんからお話があった通り、現在、自警団はイベント妨害への対策が中心で、PKへの対策が遅れているのが現状です。今後、ミーファさんには、機密保持の観点からも指揮系統を独立させた部隊を組織してもらいます。つきましては…、ミーファさんと共に、新たな部隊に編入を希望する方がいましたら立候補をお願いします」

「「「 ………。」」」


『あれ? なんか静かじゃね?? 予想では私についてきたがるバカが殺到するはずだったのに…』

『ぷっ!』

『今、笑った?』

『わるい、メシ食ってた。それよりも、いきなりこんな話をされたら理解が追いつかないのは当然のことだ。みんな不安なんだよ、察してやれ』

『そういうもんなの?』

『そういうもんなのだ』


「立候補者はいないようですが、ミーファさん、推薦などありますか?」

「いえ、本部にご迷惑はかけられないので自前で用意する予定です。すでにCルートプレイヤーの動向やPKについて詳しい人材に声をかけているので、お気遣いなく」


 すこし釈然としないが…、はじめから誰かを引き抜くつもりはなかった。スパイがもし複数いるとすれば必ず1人は私のところにもメンバーを送り込んでくるはず。つまり、立候補したヤツがいれば、そいつが高確率でスパイとなる!(らしい)


「そういうことだ。皆も寂しくなると思うが…、今後は執行部隊と同様、自警団の独立部隊として別行動が多くなる。もちろん要所要所では緻密に連絡を取り合うが、基本的には…。…。」


 最後に団長が話を纏める。相変わらずクソつまんない話だが、これっきりだと思うと…、ちょっとだけ楽しく思えてくる。




 すべてはセインが用意してくれた筋書き通りだ。


 はじめは広報部門を立ち上げて、私が宣伝動画を投稿して、その広告収入をせしめる作戦だったが…、流石にそれはあからさますぎると、セインがもっともらしい理由をつけてくれた。


 動画は、あくまでカモフラージュのために私が個人的にやっている事であり、その収入は当然私のものとなる。私がやるのは…


①、動画を投稿するアカウントを作って、報酬が私の口座に振り込まれるようにする。(面倒な作業は全部セインがやってくれた)


②、PKKが出来る人を集める。(あとでセインがやってくれるらしい)


③、毎日10分の動画と、不定期で生放送も配信する。動画は未編集の生放送"風"の1発撮り動画で撮り溜めOK。生放送は、適当にファンのバカ共とダベっていればいい。(ってセインが言っていた)


④、集めたバカに定期的にイベントを開かせて、私は主催者と言うことで観戦(非参加)しながら生放送を垂れながす。(かったるいので参加しなくていいのは凄く助かる。セインってばマジで有能)


 あとは私が顔役になって適当に口裏を合わせておけばOK。そのうち自警団との連絡も誰かに丸投げしたいのだが…、流石にそっちはセインには頼めない。セインはあくまで自警団とは敵対する方針らしい。ぶっちゃけ私も、そうしたい。


 一応私は、自警団の姉妹組織として、表向きには執行部隊と同じく団長監修の独立部隊として扱われるが…、団長は私をスパイだと思っており、そのため私をこのまま島流しにして関わりを断つはず。まず、呼び出しだの命令だのが下りてくることは無い。(らしい)しかし、団長がどう思っているにせよ、私が自警団の別動隊として権限を持っているのは事実。私も自警団本部の連中とは関わりたくないので、今後は下っ端や新規をコキ使って上手いことやればOKだ。


 まぁ、細かいことは全部セインがやってくれるので、私はそれを監督していればいい。今までもパシリは何人かコキ使ってきたけど…、セインほど使える…、って言うか、フィーリングが合うヤツははじめてだ。セインは、私がちゃんと得するように、表舞台に立ってチヤホヤされるように、裏で全て段取りを整えてくれる。意味の分からない難しい話をイチイチ持ち出したりもしない。考えなくてもいいって、ほんと~に、ラクでいいわ~。




 動画が軌道にのるまで、まだそこそこかかるみたいだけど…、これでやっと、誰にも頭を下げずに生活できる。そう思えるところまでたどり着けた。

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