#168(4週目木曜日・午後・セイン2)

「ここへ来るのも久しぶりだな…」


 "ビワスールの森1"


 ひと際高い屋根上の森を進んでいく。森というと歩きにくいイメージがあるが…、ここまで濃い森となれば事情もかわってくる。地上には殆ど日差し届かず、苔や…、腐葉土でいいのだろうか? 土なのか木屑なのか分からない柔らかな土でおおわれており、木の間隔にも余裕があるため視界も良好。同じ森でも、雑木林に近いゴブリン村とは雲泥の差だ。


 とは言うものの…、土をすくい上げて状態を観察することは出来ない。そこはあくまで仮想世界であり、よく見れば苔や大樹も全く同じ見た目のものが幾つもある。VR酔いの対策もかねて非常にリアルに作ってはあるが、あくまでそれは酔わないための配慮であり、目を凝らしてみれば粗が結構目立つ。例えるなら解像度の低いモニターを見るようなものだろうか…。


「こんにちは。もしかして魔法使いの方ですか?」

「いや、違うが…、魔法系の経験値を稼ぎに来たから、似たようなものか」


 見知らぬPCに声をかけられた。俺の外見を見て魔法使いだと思うってことは初心者なのだろう。


 ここに来た理由は、ぶっちゃけて言えば"気分転換"だ。日課の試合をキャンセルした上に、ビッチの相手で精神力を使いすぎた。そのため、なんだか単調な狩りに専念する気になれなかった。そんなこんなで、気分転換に魔法関係のスキルを上げにきたわけだ。


「よかった。俺、[緑の欠片]を探しているんです。もしあれば分けてほしい…」

「おっと、それ以上近づくな!」


 何気ない仕草で近づいてきた初心者"風"のPCの言葉を遮り、武器を構える。


「チッ、見抜かれたか」

「観光ならまだしも、初心者がわざわざこんな僻地にクエストアイテムを集めに来るか?」

「ごもっとも」


 「やれやれ」といったポーズをとるPK。気づいた理由は他にもいくつかあるが、それを教えてやるほど俺はお節介でもなければイキってもいない。あくまで"場所"が悪かったことにする。


「それで、強襲は失敗したわけだが…、まだやるのか?」

「ヒュ~、余裕だね~。流石はL√ランカーだ」

「俺が誰だか気づいて仕掛けたわけか…」


 "L"√ランカーと言われて、内心で安堵する。交流があったとはいえ、ビーストにはアッサリ見破られた手前、ランカークラス相手に偽装が通用するか、実は半信半疑だったりする。


「出会ったのは偶然だけどな。いやぁ悪い、本気でやり合うつもりはない。話題のランカーの実力が知りたかっただけだ。一応、ギルドでは人事のマネ事なんかもしているもんでね」

「そうか。大人しく引いてくれるならコチラも仕掛けるつもりはないが…、こんなところで油を売っていていいのか? まんまと返り討ちにあったそうじゃないか」


 相手が、まだEDのメンバーだとは分かっていないが、うまく主語をボカしながらも情報を引き出す。正直なところ、Hの正体は俺も気になる。流石に、Hの正体を把握しているって事はないだろうが…、できれば「Hをどうするつもりなのか」くらいは知っておきたい。


 あと、行き先が同じっぽいので、気まずかったのも、あったりなかったり。


「情報が早いことで。まだ、自警団とは交流があるようだな」

「なに、掲示板をチェックしていれば誰でもわかる情報さ」


 お互い初対面であり、お互いの正体を確信していない状態なのだが…、あえて知人のようにふるまう。この落ち着きよう、間違いなく上位のランカーだ。


「それもそうか…。それで、そっちはもう掴んでいるのか?」

「予測は立てているが、確証はないってところだ」

「驚いた。てっきりハグラかされるものだと」


 気さくな会話を交えつつも、深い森を進んでいく。妙に間隔をあけているものの、他人からすれば見知った関係に見えるだろう。


「なに、へんに勘繰られても目障りだからな」

「そうかぃ。まぁ~、ヒントはコロッケだろうな」

「だろうな。しかし、コロッケの知り合いとは考えにくい」


 コロッケの元PTメンバーと言う線はあるが、それでは役者不足。ランキング下位のコロッケが推測中位以上のメンバーを、それも何人も引き抜くのは無理がある。そもそも、そんな知り合いがいるなら「なぜ今の今まで隠していたのか?」って問題がでてしまう。


「そうなると、"ヘアーズ"が怪しいと思わないか?」

「妥当な線だな。(他にも候補はあるが)しかし、(勇者からの)情報は下りてこないのか?」


 ヘアーズとは、L√最大規模のギルドであり、コロッケが6時代に所属していたギルドだ。


 ヘアーズと言うギルドは少し特殊で、"ギルド"と言うには語弊がある。ヘアーズを一言で表すなら"マッチングサービス"だ。専用サイトに、ログイン時間やプレイスタイルを登録すると、自動的に条件のあうプレイヤーが紹介される。もちろん、ガチな攻略チームも存在するが…、そこに所属するには、紹介されたチームで実績を積み上げていく必要がある。


 それぞれのチームは、髪型にちなんだ名前になっており、表向きはPTメンバーの斡旋。真の目的は、見込みのあるプレイヤーを囲い込み、実力主義の攻略メンバーをそろえるとともに、優秀な人材が他のギルドに流れないようにキープする事だ。


 コロッケはランカーではあるものの、実力は下位止まり。今のコロッケはランキングを意識しているようには見えない。そこから推測するに…、実力主義で合理的、性格的な相性よりも数字の上での相性を重視するヘアーズのやり方が合わなかったか。あるいは、リアルの進路の関係(ログイン時間が確保できない)でヘアーズでは同じ地位を維持できなくなったかだろう。そう考えると、自警団は隠居先として都合がいい。


「残念ながらお手上げさ。まぁ、実はそこまで焦ってはいないんだが…、人員の補強は必要だと思っている。それで、本当に入る気は無いのか? 大手といっても、年季が入ったせいで平日の昼間にログインできる実力者が、なかなか確保できなくってな」


 よく聞く話だ。自警団の元団長もそうだが…、話題の実力者が突然の引退。理由は進学だったり就職だったり。結局、いくらゲームで強くなっても生活は出来ないのだ。


「ないな。PKは敵を作りやすい。行動だって大きく制限される。PK行為それ自体が好きでなきゃ、やっていられないだろう?」

「ごもっともすぎて返す言葉がないな。だが…、PK自体は否定しないって事でいいのか?」

「やるなら賞金額を上げてから来てほしいがな」

「ヒュ~、PKなんてボーナスエネミーってか!?」


 そう言って、おどけた表情を見せる。実際のところ、転生して勢力をわけて争う構図が出来ると、指名手配システムは空気になる。NPCの兵士など、経験値稼ぎのザコにすぎないし、そもそも敵対勢力なら始めから指名手配されているようなもの。それに、賞金がかかっていれば倒すメリットも大きい。イメージとしては、カモがネギと凶器を背負ってやってくる感じだ。


 つまり、指名手配は「未転生時は自重しろよ」と言う運営の圧力であり、転生後は「NPCなんて相手にしていないで対人戦で研鑽を磨け」と言った感じになる。


「それで、何処までついてくるつもりだ? まさか本当に行き先(魔法職向けの狩場)が同じなんてことはないよな?」

「いや、本当に。ちょっとこの先にソロフリーの実力者がいるらしく、それをスカウトに来たわけだよ」


 この辺りは魔法使い向けの初級狩場なのだが…、こんなところにPKギルド、それもトップギルドが欲しがるようなPCが来るものだろうか? まぁ、中にはスライムと戯れる変なビーストまおうもいるけれど…。


「そうか。まぁ止めはしない…、が!?」

「どうかしたか?」

「いや、まさか…、スカウトしに来たのってアイツのことか?」

「もしかして、知り合いだったか?」

「知り合いも何も…」


「あ!? ししょ~」




 駆け寄ってきたのは、ウチで飼っているワンコ…、もとい、スバルだった。

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