#167(4週目木曜日・午後・セイン)
「その…、動画で、動画を投稿して、生活費を稼ごうと、思って…」
「あ? あぁ、そうか…」
「ふん! 笑いたければ笑えばいいでしょ! モデルの私が、まさかゲームの動画で生活しようとしているなんて!!」
本当に、下らない理由だった。
別にゲーム実況で生活費を稼ぐ事が下らないとは言わない。下らないのは、この女が「動画投稿なんてクソニートのやる惨めな仕事だ」と蔑すみながらも、その道を選び、それを言い出せずにグダグダと自警団の活動を続けていた事に対してだ。
「別に、今どき動画投稿で生活費を稼ぐぐらい、普通だろ? 個人的な偏見をもつのは勝手だが、他人の価値観も理解しないと、投稿をしてもコケるだけだぞ」
「ふん! 知ったクチ聞かないでよね!!」
コイツ、根本的に我がままで自分本位、そのくせ他力本願だから救いがない。
それはさて置き、近年では自動翻訳機能の性能向上と世界的なネットの普及にともない、動画投稿で生活する人の割合が年々増加している。生活保障のない不安定な職業であることは変わりないが…、軌道にのればアルバイト並みに稼げるので「人に使われるのが耐えられない」と言う人がこの職業を選ぶ。
動画投稿と聞くと、ゲーム好きがやっている"遊び人"的な職業を想像しがちだが、実情は"好み"を押し殺して万人受けする記事を書き、情報収集と更新に絶えず追われる"お仕事"としての側面が強く…、お遊び感覚ではやっていけないのが実情だ。
「まぁいいや。気が変わったから、ちょっと協力してやる」
「え? うそ!?」
「嘘です。帰ります」
「死ね、クソ童貞!!」
「冗談だ。協力してやるから…、絶対に俺が助力したことは他言するな」
「え? あぁマジなの? それはまぁ、いいけど…」
疑り深く俺の顔を覗き込むクソビッチ。
本来なら協力する気にはなれない話だが…、
「(そうなると、ビッチがクビになるのは、筋書き通りだったわけか…)」
「え? 何か言った??」
「気にするな。知らなくてもいい話だ」
「??」
ビッチ本人は、情報を流している自覚は無いようだが…、情報漏えいに一役かっていたことは間違いないだろう。おおかた、大事な仕事を押し付けていたアッシー君がスパイの犯人と言ったところか。
ここで問題になるのはHやスパイをどうするかだろう。時系列から見てHの存在はビッチを失脚させる計画には組み込まれていなかった可能性が高い。それを踏まえて考えると…。
①、EDのスパイをこのまま泳がせるメリットとデメリット。現在、優位なのは自警団であり、EDにはもう少し頑張ってほしいので…、スパイは生かしておく方がいいだろう。
②、ビッチの処遇について。このままクビになるのを傍観しているのも魅力的だが、それだとHの手がかりが無くなってしまう。レイの情報もそれなりに使えるが、できれば他にも情報源は確保しておきたい。
③、Hの正体と対処について。俺は既に転生条件を満たしているので問題ないが、Hを放置すればC√全体の進行度に影響が出かねない。それは勇者同盟も黙っていないだろう。EDが再度、俺を勧誘してくる可能性もあるし、勇者同盟が本格的に動く可能性もある。
しかし…、自警団はC√にとって足枷となる存在だが、だからこそ俺のように先行して動いているPCには利点もある。
ゲームシステムなので仕方のないことだが…、身の丈もわきまえずにランキングを勝ち上がろうとする輩の行動は、とにかく陰湿で、「いかに上のPCを蹴落とすか」ばかりで本当にウザい。俺も、正面から挑んでくるなら相手になるが…、ビッチのように八つ当たりまがいの嫌がらせをしてくるPCは、相手をしても無駄でしかない。
そう言う部分では、ゲーム攻略よりも秩序を重んじる自警団の活動は「健全にゲームを楽しむ」ことにつながるだろう。だから、ほどほどに活動する分には俺も自警団を応援したいと思っている。
「とりあえずオマエは、今の伝達役の役職を自主返上しろ」
「ちょ!? だから私は…」
「動画投稿するなら、情報を扱う部署は絶対にNGだ。機密保持は何をするにも重要。オマエにその気はなくとも、頭の固い団長が
「え? あぁ、そうかも…」
「つか、なんで動画投稿するために準備していないんだよ」
「いや、だって…、そう言うの分からないし、言うの、恥ずかしかったんだもん…」
だからモジモジするな! 気持ち悪いんだよ!!
「あぁ、わかったわかった。そのことはもういいから。とりあえず団長に"自分から情報が漏れた可能性があるから"って事で、責任をとって辞任しろ。団長も遅かれ早かれクビにするつもりだろうし、止めはしないだろう」
「あぁ、うん、だよね…」
「それでオマエは、新しく"広報"の部署を作って"自警団の信用回復とイメージアップ"のために働くってことで、自警団のメインの活動から退け。それなら身の潔白は証明できるし、面倒な仕事からもオサラバだ」
「そうなの? そうか…、そうだよね…」
なんとなく、ビッチの扱い方が分かってきた。ようは詐欺の要領でメリットだけを押し付けていけばいいのだ。
「動画の内容は、あくまで自警団の広報って事で、騙した男に全部やらせればいい。編集が面倒な凝った動画を作る必要はない。1発撮りの短い動画を、とにかく毎日投稿しろ」
「え、ちょっとまって、メモするから!」
「それで、動画を投稿するアカウントだけは自警団の手を借りずに作れ。あくまで自分で作ったってことで。オマエはそこの管理者として広告収入を着服しろ。…。…。」
「 …。それで、話は戻るけど、真犯人はどうしたらいいの?」
「気にするな。好きにやらせておけ。自警団が傾いたら、その時は"お涙ちょうだい"みたいな内容にすれば好感度アップだ。ぶっちゃけ、オマエ個人の人気さえ確保できれば、自警団が潰れても問題ないだろ?」
真犯人がどう動くかは未知数だが…、流石の団長も、証拠もなしに容疑者を手当たり次第にクビには出来ないだろう。精々、見回りなどの部署に左遷するくらい。できればスパイにはもう少し活躍してもらいたいが、へんにコチラがフォローしても怪しまれるだけ。ここはスパイの頑張りに期待しよう。
「え? あぁ、そうか、そうだよね! ぶっちゃけ私、あんな面倒くさい組織、潰れちゃえってマジで思ってたのよね!!」
ぶっちゃけすぎだ。
それはさて置き、ビッチが
自警団が、いくら団長のワンマン組織だと言っても、団員の心理やL√PCの動向を全てコントロールできるわけではない。なんなら、自警団団員の意見を対立させて派閥抗争を引き起こす手もある。ようは、自警団が俺の都合のいい方向に流されてくれればいいのだ。
「まぁそう言うことだから。詳しい事は追い追い指示するが、基本的には直接会うのは無しだな。あとは…。…。」
Hのことは確かに気になるが、1手先を読むことばかりに全力を尽くしていては、途中ですぐに詰んでしまう。俺のとった選択が最善手だったとは思わないが…、すくなくとも嫌な布石は残せたはずだ。
こうして、クソビッチが俺の傀儡となり、情報操作が可能となった。
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