#166(4週目木曜日・午後・セイン)
「やっと来た! いったいどれだけ待たせるのよ!?」
「いや、人違いです」
「チッ! いいからサッサと来なさい! どうせゲーム以外やる事のない
昼。いつものようにギルドに顔を出そうとすると…、なぜかミーファが"入り待ち"をしていた。一応、ここはクルシュナ側の入り口なのだが…、どうやら俺の行動パターンは
「同じゲームをやっているヤツに言われてもな…。とりあえず、"暴言"で通報していいか?」
「いいわけないでしょ! "また"私をアカウントロックさせるつもり!?」
「また?」
「ぐっ…」
まえに通報した時は、あくまで警告であり、ソレだけでロックはされない。ロックされたのは、まず間違いなくセクハラ疑惑を流布した一件だろう。つまり、自業自得だ。
「そう言えば、新しい実行部隊が見つかったんだってな。おめでとう。これで俺に頼る必要は無くなったわけだ。じゃあ、そう言うことで…」
自警団がEDを返り討ちにしたのは自由連合の掲示板で真っ先に広まっていた。正直に言って、対人の得意なランカーを雇えたのは驚きだが…、まぁ、ランカーも人それぞれ。報酬しだいでは協力するヤツがいても何ら不思議はない。
「まって! そうじゃないの! とにかく話を聞いて!!」
声を荒げて行くてを阻むミーファ。どう見ても、ただ事ではない様子だ。
これは…、もしかしたら面白いことになっているのかもしれない。予定では、このまま俺を敵視してもらって、自警団を「善でもあり悪でもある傲慢な組織」に仕立て上げる予定だったが…、EDの介入もあるし臨機応変に柔軟な対応を考えるべきなのかもしれない。
「 …まぁいいだろう。ツレには用事が入ったとメールしておく」
「あ!? あぁ…、その、ありがと…」
勘違いされないように、充分にためてから了承する。ミーファも、応じてくれるとは思っていなかったらしく、実に面白い顔をしている。
とりあえず、変にメッセージを送って追及される流れになっても面倒なので…、「用事が入って顔を出せなくなった」と簡潔なメールを送っておく。これなら嘘はついていないし、仕事でインできなくなったともとれるだろう。
*
「 …だから、そのHのことを知らなかったのよ!!」
酒場に来るなり、捲し立てるように一方的に喋るミーファ。こいつの話は…、主語が無さすぎて致命的に理解しにくい。
「まてまて、俺は自警団の内部事情なんて知らないんだ。(まぁ大体知っているけど)ゆっくり、起きたことを順番に話せ」
「だ~か~ら~」
「帰ってもいいか?」
「わ、分かったわよ…。えっと、…。…。」
話をザックリ纏めるとこうだ。
①、新しい検問の要であるテイマーがEDを退けたことにより、実はランカークラスの実力者だった事が"後から"判明した。
②、その日の夜、集会で新たな実行部隊として紹介されるも…、詳しい素性やログインなどのスケジュールは非公開。それどころかフルメンバーが何人構成なのかなど、ほぼ全ての情報が秘密のままだった。しかし、少なくとも複数人であることは確かなようだ。
③、結局、具体的なことは何も知らされないまま集会は解散。団員内では新たな実行部隊は"H"とコードネームで呼ばれるようになった。
④、Hを知っているのは団長とその側近の2人(前に1度会った団長を様付けで呼んでいた男女)のみ。自警団ギルド員にして(一応)幹部であるミーファも、その存在を知らなかった。
⑤、前々から自警団内にスパイがいる事は示唆されており、今回の過剰な秘密主義はソレの対策。その結果、EDを見事に出し抜けたわけだが…、それは同時に、組織内にスパイがいた事を意味する。ミーファはその「スパイの容疑者として疑われている」と疑心暗鬼になっている。
「大体、理解できたが…、おまえ、スパイってわけでも無いんだろ?」
「当たり前じゃない!!」
「それじゃあ、何で自警団に拘る?」
ミーファの性格を考えると、自警団にいるのは「チヤホヤされたい」とか「人を顎でつかいたい」と思っているのは分かるが…、肝心の自警団に拘る理由が分からない。(まぁ、自分は大して働かずに男性PCをおだてて、今の地位についたことは容易に想像できるが)しかし、自警団自体に思い入れを持っているとは思えない。ましてや、L&Cを改善しようとする熱い正義感を持っているわけでもないだろう。
俺の予想では、疑われて、周りの信者が減った時点で興味を失い、仕事や地位を投げ出すと思っていた。
「なんでアンタに、そんなこと、話さなくちゃいけないのよ…」
「気が変わる可能性がある。もちろん、現状では協力する気は全くない」
「ぐっ…」
「言いたくなければ言う必要はない。話はそれまで。それだけの話だ」
正直なところ、そこまで興味は無いのだが…、折角なので追い詰めておく。まぁ、憂さばらしの気持ちがあることは否定しない。
「その…、笑ったりしない?」
「むしろ、俺を笑わせられるほどのネタを用意できるのか?」
「いや、絶対に笑う! ほんと、マジで最悪!!」
恥じらったり、頭を抱えて悶絶したりと忙しく表情をかえるミーファ。
どうでもいいが、秘密を知られることに対して恥じらう仕草が…、純粋に気持ち悪かった。
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