#164(4週目水曜日・夜・コノハ)
「なんで知らないの? お兄さんなら今頃、ハウンドとか言う魔物を狩っているはずだよ」
『うぅ、コノハこそ、なんでいつの間にセインさんと仲良く…』
「学校が休みなのを黙って、お兄さんと密会していた姉が言うと、重みが違いますねぇ~」
『ぐっ、だからゴメンって…』
あぁ、お姉ちゃんをイジメるのは楽しい。いや、そんな趣味は無いのだが…、普段頑張って確りやろうとしているお姉ちゃんが失敗している姿は、なんと言うか…、たまらなく可愛い。
夜。こっそり昼間にゲームをしていたお姉ちゃんにかわり、私が機械を使う事になった。
他のネットゲームに比べれば、L&Cの武器入手難易度は驚くほど低い。しかし、デイリーイベントなどの経験値を大きく稼ぐ方法がない事もあり、レベル上げ自体は非常に地味で長丁場だ。お姉ちゃんのキャラを育てておきたい気持ちはあるが…、今日は私の番と言うことで、ひと気のないフィールドで黙々とザコを狩って過ごす。
「別に怒っていないけど、まぁ内緒で会っていたって事は…、そう言う事、なんだよね?」
『え? そう言う事って??』
「いや、だから…、2人っきりでデート的な?」
『そそ、そなの無いから! それに…、私、"まだ"セインさんに相手にされていないし』
「あぁ…、まぁ、お兄さんはガチなプレイヤーだからね」
直接見られないのが残念だが、モニターの前でお姉ちゃんがモジモジしていると思うと…、たまらなく胸が熱くなる。なんだか変な性癖に目覚めてしまいそうだ。
『それで、VRの機械の事を聞こうとしたんだけど…、断られちゃった。一応、条件は出してくれたけど、あんなの絶対に無理だよ~』
ザックリと事の経緯を聞いて、納得してしまう。実のところ、私もお兄さんの事はそこまで知らない。知るチャンスはいくらでもあっただろうが…、当時の私は、そこまでお兄さんに興味を持っていなかった。
まぁ、持っていなかったからこそ、信用されたって気はするけど。
「お姉ちゃん!」
『はい?』
「貴女に偉大なる先人が残した言葉を贈ります!」
『はぁ…』
「〇グレカス!」
『え? えぇ??』
いまいち言葉の意味が分からず狼狽えるお姉ちゃん。あぁ、楽しい。
「調べれば直ぐに分かることをイチイチ聞くなって事。それに…」
『ん?』
「たぶん、お姉ちゃんが機械の事を口実に会う時間を作ろうとしているの、バレていたと思うよ?」
お兄さんは、ガチ勢でありトコトン硬派なプレイヤーだ。L&Cでチャット…、間違っても異性をナンパするためにプレイしているわけではない。当然、下心丸出しのお姉ちゃんが迫ってきたら警戒する。
と言うか、ほんと~に! 相手がお兄さんでよかった。最悪、オフ会とか言って実際に会って…、お酒に酔わせて、あんなことやこんなことを…。(ジュルリ)
『うぅ~、たかがゲームじゃない。ちょっとくらい…』
「お姉ちゃん、それ、ゲーマーに言っちゃいけない禁句」
『うっ』
「ゲーマーって言うのはね、遊びでゲームをやっているんじゃないの。勝ちたいとか、何かを成し遂げるために人生をかけているの。確かに傍から見たら価値のない…、時間の無駄なんだけど、本人はソレに人生をかけるだけの価値を感じているの。それでなくても、ユルいノリでクレクレ言われたら、怒って当然だよ」
『ぐっ、たしかに…』
「まぁそんなわけだから、かまってほしければ、"自分の価値"を示すしかないね。お姉ちゃん、運動神経は悪くないんだから、あとは立ち回りとか、ゲームの基本的なところを確り覚えていけば…、それだけで結構よくなると思うよ?」
『そうかな…』
いまいち自信のない声色のお姉ちゃん。上を見ればキリが無いだろうが、お姉ちゃん自身は充分に平均を超えている。もちろん、私だってそれなりに自信はあるが…、私のは、ただ時間をかけて安全に戦っている"チキンプレイ"であって、時間効率は絶望的に悪い。初期のころからソコソコ強い相手を倒した私を評価してくれる人もいたが…、少なくともお兄さんは、私の戦闘スタイルの無駄を見抜いていた。
「まぁいいや。悔しいから、ちょっと頑張りますか!」
『??』
とりあえず、[レイピア]で遠巻きからチクチクやる戦法は効率が悪い。攻撃力だけ見るなら上位の刺突剣を買えば手っ取り早い話だが、問題はそこじゃない。悠長すぎる私の戦術をどう改善するか。そして、持ち味を何処に残すかだ。
前にお兄さんに言われたアドバイスを必死で思い返す。
槍に替えれば遠距離戦法をいかしながら攻撃力を上げられる。しかし、武器重量と取り回しの問題で回避しにくくなる。逆に回避をいかして短剣に持ちかえる手もあるが、それだとアグレッシブになるかわりに1回の攻撃力が落る。相手の懐に飛び込み、紙一重で攻撃をかわし続ける技術や度胸は、私にはない。
それならいっそ、弓や魔法などの遠距離攻撃に逃げるか? 幸いなことに私にはタンカー型のお姉ちゃんがいる。機械さえ買ってしまえば、お互いの苦手な部分をカバーしあえる。
「ん~、やっぱりL&Cのシステムは奥が深いな…。お姉ちゃん!」
『え、なに?』
「魔法や弓の"型"について調べておいて!」
『え? えぇ??』
「戦闘スタイルについてってこと。L&Cの遠距離装備は癖が強いらしいから、お願い!」
『え? あ、うん、わかった』
こう言うのを考えるのは、なんと言うか…、ワクワクする。最近、何となく冷めた気持ちでゲームをしていたけど、このワクワク感は久しぶりだ。
そう、ゲームってこう言うものなんだよね!
こうして、私は戦闘スタイルの矯正を開始した。おかげで1度、死んでしまったが…、不思議と悪い気はしなかった。
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