#163(4週目水曜日・午後・????)

「折角だから1つ、忠告をしてやる」

「なんだ、いきなり…」

EDおまえたちは自警団をナメすぎだ。確かに初心者が多く、青臭い部分もあるが…、獲得経験値や保有アイテム、そして何より…」

「「 ………。」」

「横の繋がりがある。閉鎖的なお前たちと違って、足りないものは、その都度補える」

「はぁ? わけのわからない御託を…」

「チッ! そう言う事か」


 本来はありえない事だが…、ベテランPKコンビが無名のPC1人に追い込まれている。もちろん、まだ本格的な戦闘には至っていないが…、少なくともその場に居合わせた3人には、すでに戦いの結末は見えていた。


「ちょ、どういうことだ!?」

「雇ったってことだよ。ランカーだか、PK同業者だかを!」

「な!?」


 勇者同盟は自警団の活動に非協力的だが、コロッケ以外の実力者が全て自警団への協力を拒絶するとは限らない。L√の元ランカーは100人+勇者の7人、そこに下位で入れ替わりを続ける準ランカーが50人ほど追加される。そして、C√も含めれば総数は更に2倍になる。対人装備やパワーレベリングなどの有効な交渉材料を持っている自警団の誘いを、300人が揃って断るなど有り得ない話なのだ。


「落ち着け! こうなったらやるしかない。なに、ここでコイツを返り討ちにすれば済む話だ」

「あ、あぁ、そうだな。それに…、おっとイケない、危うく喋っちまうところだった」

「ん? なんだか美味しい情報だったみたいだな。まぁいい。やるなら来い。相手になってやる」


 1人は既に先制攻撃(正当防衛成立)を仕掛けてしまったが…、実はこの2人、PTは組んでいない。


 2人が狙っているのは、正当防衛が成立していないPCをわざとキルさせて、もう片方が逃げる作戦だ。これなら1人分のデスペナで有力者をゲームオーバーまで追い込める。これもPKのテクニックの1つ。正当防衛が成立したと思いこませて、逆に相手を指名手配してしまう。


「おっと! その手は食わないぜ! <サーチ>」

「チッ! これだから猟師系は面倒なんだ!!」


 しかし、対処法は当然存在する。特に調教師は索敵が得意な斥候の派生職。なので、索敵スキルでアクティブ化したプレイヤーを判別できる。対人戦では、華々しい攻撃スキルより、こう言った搦め手や基本を確りおさえることが重要となる。


「仕方ない! プラン"B"だ!!」

「な! マジかよ、こんなところでアレをやるのか!?」

「何かあるようだな…。まぁいい、相手してやる、かかってこい!」


 張り詰める空気。いくらテイマーの実力が一級品だったとしても、PKコンビも最低限の実力は有している。一瞬の油断で、勝敗がひっくり返ることは充分にあり得る局面だ。


「俺の必殺コンボを喰らえ! はぁ~、まずは基本の[煙玉]! からの~」


 芝居がかった動作で1人が最初に視界を奪う。本来ならば、数でまさる側が視界を奪うのは、同士討ちの危険があるので悪手だ。


「来い!」

「「 ………。」」

「 ………。」


 [煙玉]の効果が切れ視界が回復すると、そこに2人の姿は無かった。


 彼らも伊達にトップのPKギルドに入れたわけではない。驕らず、勝てないと判断したら脱兎のごとく逃走。L&CでPKをするにあたり重要なのは「負けない事」。これが出来ていないと、指名手配やデスペナルティーですぐに首が回らなくなる。


 そう言う意味では…、調子にのって女性PC2人を挑発して返り討ちにあった誰かより、2人は才能があると言えるだろう。





「くっそ! なんなんだよアイツ!!」

「マズいな。おい、アイツ、結局誰だったんだ?」

「そんなの知るかよ! つか、スパイはどうなっているんだよ!?」

「せっかく自警団に人数を割いているってのに、まさか情報戦で出し抜かれるとは…」


 EDは、自警団の伝令役であるミーファを上手くおだてる事で組織の情報を引き出している。彼女は、男性をおだてるのが得意(だと思っている)で自意識過剰。チヤホヤされて喜ぶバカな男を演じれば、簡単に付け入れる相手であり…、ポスト的にも自警団の事は何でも知っている重要人物、の、はずだった。


 しかし、そこに現れた未知の実力者。


 実のところ、EDはすでにミーファに見切りをつけていた。彼女は不真面目であり、他の有能な人物に立場を奪われる事は目に見えていた。


 そこでEDは、自警団の内部関係を無茶苦茶にした真犯人として彼女を吊るし上げる作戦を用意した。全ての罪を彼女に押し付け、問題は解決したものと思わせる。そして、自分たちの息のかかった人物を直接中枢に送り込む。そこには、セインと言うPCの名前も候補にあがっていた。


 しかし、切り捨てる前に切るカードの価値が暴落しては話にならない。ミーファは、すでに団長から見切りをつけられ情報が下りていなかった事実。これでは、スパイがミーファの代わりに新しい伝達役になっても意味はない。そして、セインの懐柔も思い通りに進まない事実。


「しかし、マジで誰だと思う?」

「いや、わかるわけ…」

「そうじゃなくてさ、出所っていうか、何をやっていたヤツなんだろ? ぶっちゃけ…、PKなれし過ぎじゃね?」

「あぁ…、たしかに」


 2人がPKだと気づいてなお、乗せられたフリをして攻撃を誘い、それを受けて正当防衛を成立させる。トップの悪徳ギルド員2人を相手にしても、あの余裕。間違いなくランカークラスなのだが、そんな実力者が突然ふってわいてくるはずもない。


「L√ランカー…、は無いな」

「だな、Lだったら序盤はクエストで忙しいはずだ」

「そうなると実力はあるけど面倒なストーリー攻略に興味のないNのロールプレイヤーか…」

「あるいは報酬につられたPK同業者か…」


 残念ながら、2人は例のテイマーと剣を交えていない。せめて使用する武器や戦法を録画できていれば予想も立てれただろうが…、EDと言う組織は、ギルドの為に献身的は行動をしいる尊い組織でもなければ、代表者のためなら命もいとわない絶対的忠誠によってまわっている組織でもない。


 EDは、あくまで個人の利益・快楽を優先する自由な組織だ。己の快楽のためにPKをし、他のプレイヤーを陥れて悦に浸る。ギルドには鉄の掟や、お綺麗な仲間意識があるわけではない。自警団の一件も、情報屋から自警団の有力者の情報を買い、利用しやすそうだったからミーファを利用し、その情報をもとに自警団を襲ったり、危険を回避しただけ。


 そう、しょせん彼らは、友達も作らずネットゲームに人生を費やす廃ゲーマー。崇高な理念も無ければ、全てを見通す慧眼を持ったトップがいるわけでもない。あくまで個人主義の組織であり、PKが好きだからつるんでいるだけにすぎないのだ。そうでなければ…、ここまで膨大な時間と労力をPK嫌がらせに費やすことは出来ない。




 こうして、完璧だったEDの計画が徐々に綻んでいった。

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