#162(4週目水曜日・午後・????)

「いた! しかし、ヤツで間違いないのか?」

「別に、違っていても構わないだろ?」

「それもそうか…」


 ひと気の少ないフィールドに、不自然に身を潜めるPCが2人。


「それで、どう攻める? 2対1とは言え、ウルフがいるので強襲は難しいぞ」

「ついでに言えば、レベルも多分アイツの方が上だろうな」

「こんな短期間で拡張職になっているとか、ホント、養殖ってクソだよな」

PK目クソ養殖鼻クソを笑うだな」

「誰がうまいこと言えと言った」


彼らが探していたのは狼の魔物であるウルフを使役した調教師テイマー。彼らはPKギルド・永劫の厄災(通称・ED)のメンバーであり…、PKを狩る行為"PKK"をしている自警団のテイマーを狙っていた。


 自警団がとった外部ツールとテイマーを組み合わせた新しい通報システムは、大手であるEDにも少なからず影響が出ていた。幸いなことに自警団に送り込んだスパイのおかげで指名手配されたPCはいないものの、個人レベルの対策を逸脱するシステムにより彼らの活動は大きく制限されていた。


「せめて、もう1人集めれたらよかったんだけどな…」

「しゃ~ないって。組織の人数でいえば自警団むこうが上。人数揃えられる時間まで待っていたら、むこうも数が増えちまう」


 スパイのおかげで対応こそ早かったが、それでもEDメンバーにも現実世界での生活があり、上下関係や役職がある。実のところ、EDメンバー内でもランカークラスと対等に戦える人材は一握りだ。当たり前の話だが、対人特化の装備にしても攻撃が当たらなければ意味はない。ランカーと渡り合うには、最低でも装備抜きで互角に打ち合えるだけのプレイヤースキルが必要になる。


 加えて、この手の雑用は下っ端の仕事だ。例え上位プレイヤーであってもゲームシステムは常に対等。未転生の状態で指名手配されれば、上位プレイヤーでも大きな減速を強いられる。よって、重要な襲撃作戦でもない限りは上位プレイヤーが表立って作戦に参加することはない。


「せめてム~チョさんあたりが居てくれたらな~」

「無いものをねだっても始まらないべ。まぁ相手は養殖。装備とレベルだけだ。ウルフを計算に入れても2対2で余裕だろ?」

「だな。それに、あんまり上に甘えていても評価されない。ここはポイント稼ぎと割り切るか」

「そう言うこったな」


 それでもトップギルドに入れた者が"並"であるはずもない。ランカーは無理でも、ベテランプレイヤーが相手なら勝てるだけの実力は充分に持っている。


「そうと決まれば悪は急げだ。俺が初心者のふりしてウルフに仕掛けるから、フォローしにきた保護者のフリで頼む」

「いつものヤツだな。了解」


 彼らが得意とする作戦はこうだ。

①、初心者のフリをして戦っている魔物に攻撃したり、遠距離攻撃を近くに放つ。(通称、"横殴り"と呼ばれる迷惑行為)


②、初心者の保護者のフリをして、謝罪の名目で相手に近づく。


③、うまく相手をおだてて注意をそらし、キルする。


 この作戦の利点は、戦闘待機状態のまま相手に近づきやすい点だ。本来なら武器を構えたPCが接近してくれば嫌でも警戒する。しかし、不手際を謝罪する過程で慌てて近づいてきたなら、そこまで警戒されはしない。もし警戒されても1度武器を仕舞い、あとから「プレイングを見てほしい」などと言って改めて武器をとることもできる。


 今回ならテイムしたウルフを「通常の魔物だと勘違いした」と言って攻撃することもできる。それで、うまくウルフを始末できれば戦力的にも優位に立てる。



「とぉ!!」

「おい! それはプレイヤーの従魔スレイブだ!! すみません、コイツ初心者で…」

「え? そうなの??」

「色とか首輪が違うだろ! すみません。どうお詫びしていいものか…」


 慣れた動きでテイマーに近づく2人。幸いなことに、非アクティブのスレイブは無抵抗のままアッサリ絶命。これで2対1に有利な状況に持ち込めた。


「いや、まぁよくある事だ。スレイブも"使い捨て"だから、それほどでもない。次から気をつけてくれ」

「それでも、蘇生アイテムくらいは弁償させてください!」


 吊り上がる口元を必死で抑えながら歩み寄る2人。


 テイマーには2つのタイプが存在しており、PTメンバーとして大切に育てる"育成型"と…、リスクの高い行動をさせるための"使い捨て型"にわかれる。トレインなどの無茶な育成をするPCが好むのは、もちろん後者だ。これにより、相手が自警団団員であると2人は確信した。


「 …。しかし凄いですね。もう拡張職に転職しているなんて。普段もこの辺で狩りをしているんですか?」

「いや、今回は気分転換にクエストを…。…。」


『よし、完全に騙せてるいるな! そろそろ仕掛けるぞ』

『OK』


「 …、それで、よかったらコレ、さっき拾った魔結晶なんですけど、貰ってくれませんか?」

「いや、そこまで気を使わなくてもいいのだが…」


 アイテムの受け渡しは手の届く距離でしかおこなえない。これを利用して自然に相手を誘導する。


 あとは、システム画面を操作している隙を、もう一人がつくだけ。


『貰った!!』

「ふっ、無駄だ」


 「ガキン!」と鳴り響く音とともに、首を狙った必殺の1撃破が呆気なく制止する。


「チッ! バレてたか…」

「初心者がスレイブを1撃で倒せるわけがないだろ? 使い捨てと言っても、それなりにレベルも高かったからな」

「ふん! まぁいい。それでも2対1なのは変わらない。悪いがココで死んでもらうぜ!!」


 予想外の展開に距離をとって仕切り直す2人。本来ならば初撃を止められても、そのまま2人がかりで押し切ればいい局面だったのだが…、相手の余裕の表情に言い知れぬ不安を感じ、次の一手が打ち出せなかった。


「気を付けろ、コイツ出来るぞ!」

「分かってる、そっちこそヘマするなよ!」


 彼らはギルド内で、ランカークラスの実力者と何度も手合わせをしている。視界外からの攻撃を完璧なタイミングで受け止めるのは、まさにランカークラスの妙技に他ならない。




 こうして、2人の顔から余裕の二文字が綺麗に消え去った。

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