#161(4週目水曜日・午後・セイン2)

 あぁは言ったが…、なにを上げるべきか…。


 考え事をしながら黙々とザコを狩っていく。マップは旧都の夜エリアなので、本来ならば危険な行為なのだが…、L&Cには無駄に嫌らしいイレギュラー要素は殆ど存在しない。なので、対処するルーチンを確立させれば事故死する心配はない。


 L&Cが"鬼畜ゲー"に分類されているのは、あくまで戦闘システムの奥深さや、ガチャやデイリーなどのチート要素が無い点であり、装備の入手難易度やキャラメイクに関してはトップクラスにユルい仕様になっている。これはやはり、料金システムの違いと言えるだろう。


 アウゥ~~~


 あいかわらず安っぽい断末魔とともに、倒したゾンビウルフが光になって消える。


「あ…」


 ドロップを確認して思わず声がもれる。ドロップしたのは[首輪]。一応、レアアイテムなのだが…、性能が微妙なので金銭的には期待できない。ぶっちゃけ「運を無駄遣いしてしまった」って感じだ。こいつの厄介な点は、装備ゆえの"重量"と売却の"手間"だ。効率プレイの観点から見ると、この2つは本当にバカにできない。


首輪:"アクセサリー枠"の首防具。効果は首に対する攻撃の防御。首の防御は防御重視の"体枠"装備なら殆どデフォルトでついているので、それがない軽量装備などの補助として使われる。見た目がパンクなのでケモミミと並んで初期装備としては好まれるが…、終盤重要になるアクセサリー枠を圧迫するとの、重量、そして効果が消極的なことから…、"繋ぎ装備"以上にはなりえない。


「ん~、流石にこんなゴミ装備、貰っても迷惑か…」


 せっかくのレアだが捨てる事にする。[首輪]は装備していることが外見で確認できる。師匠と仰ぐ人物に貰ったからには装備しない訳にもいかないが…、こんな微妙な装備、しかも、アクセサリーとしては重い部類なので普段から持ち歩くのにも向かないときている。これでは迷惑にしかならないだろう。


 俺がさっきから悩んでいるのは、スバルへのご褒美についてだ。一応、ご褒美の種類は確定している。スバルは"武"に対して愚直で、RPGでは基本となる装備による補強に消極的だ。もちろん長い目で見ればプレイヤースキルを育てる観点からはプラスなのだが…、常時縛りプレイ状態では上は目指せない。せっかく実力はあるのに「装備縛りをしているので勝てません」では問題外だ。




 そんな事を考えていると、見覚えのある2人に声をかけられた。


「お久しぶりですセインさん。ご無沙汰しています、ブラウスです」

「へけけっ。もう、このあたりは余裕っすね~」


 声をかけてきたのはC√PCのブラウスと丸んこだ。この2人はEDのメンバーであり、PKをはじめとするLへの妨害行為に積極的な人物だ。


「人違いだ」

「ははっ! あいかわらずツレないっすね~」


 残念ながら決まり文句は流されてしまった。別にC√PCが嫌いと言うことは無いのだが…、狩場の雰囲気を悪くするPKは、√を問わず嫌われる。


「それで、用件は何だ?」

「それはもちろん、勧誘の話…、は置いておいて、今回はセインさんに耳寄りな情報をお持ちしました」

「 ………。」

「最近、自警団の検問で…。…。」


 ブラウスが持ち寄った情報は、やはりと言うか、自警団の新しい検問システムとテイマーを使った通報システムに関することだった。つまり、何が言いたいかと言うと…、「自警団の新しい検問は厄介なので協力しませんか?」って事だ。


 転送サービスを利用していない俺には、新しい検問なんて無関係に思えるが…、実はそうではない。外部ツールで独自のIDを設定して犯人を特定するシステムは、あくまで犯人である確率の高い人物を洗い出すためのもの。だから、敵対している俺は容疑とは関係なく要注意人物としてマークされている可能性が高い。しかも、臭いを利用した追跡は、目視と違って描画範囲外からでも追跡可能。テイマー自体も索敵が得意なハンターの拡張職と言う事もあり油断できない相手だ。


「なるほどな。しかし…、そこまで分かっているなら、俺に頼らなくても何とかなるんじゃないか?」

「もちろん、こちらも充分な対策は用意しています。しかし、何事も過信は禁物です。セインさんが我々の仲間に加わってもらえるなら、態勢は、より盤石なものになるでしょう」

「仲間ではなく、"敵にしたくない"じゃないのか?」

「ははっ! 流石はセインのダンナ。まぁそう言うこった」

「丸さん…」

「ダンナに回りくどいことを言っても不快にさせるだけだぜ? もっと腹をわって、本音で語らなくっちゃ!」


 丸んこも、たまには良いことを言う。どちらも不快指数が高いのは変わりないが…、ブラウスは、口調こそ丁寧だが腹の中がドス黒い。対して丸んこは、分かりやすくゲスい典型的な悪人タイプ。戦闘力は知らないが、戦略的に面倒そうなのは間違いなくブラウスだ。


「そうだな。じゃあ、こう言うのはどうだ?」

「「??」」

「俺に勝てたら協力してやる」

「「!!?」」


 面白いように驚く2人。


 別に、EDに協力しないのは実力の問題では無いのだが…、ブラウスのようにクチが達者なやつに会話の主導権を握られるのは危険だ。俺は「自分なら絶対に大丈夫」などと自惚れるつもりはない。出会ったのは偶然にも思えるが、話しかけてきたのは向こうから。当然、有利な交渉材料カードは持っているはず。それなら、そのカードを使われる前に前提をひっくり返してやるのみだ。


 この世界はあくまで仮想空間。もしかしたら相手のリアルは詐欺師かもしれないし、心理学を専攻している学生かもしれない。「そんな確率は…」なんて考えは落とし穴だ。L&Cは数十万規模のオンラインゲーム。つまり、100人に1人の人材が1000人も居る計算になる。もちろん、プレイしている世代などに片寄りがあるので机上計算通りにはいかないが…、EDはPK界わいではトップのギルド。1万人に1人くらいの人材なら在籍していても何ら不思議はない。


「いや~、まいりましたね。セインさんって意外と戦闘狂バトルジャンキーなんですね」

「ははっ! 流石はセインのダンナだぜ!!」

「それで、どうするんだ? 別に、2人同時でもかまわないぞ??」

「いえ、すみません。折角のお誘いですけど…、辞退させてもらいます」

「まぁ、しゃ~ねぇわな」


 そう言ってあっさり引き下がる2人。正直なところ2人を同時に相手にして勝てる自信は無かった。つまり、ブラフなのだが、そこには上位PCの高度なかけ引きがあった。


 2人は腐ってもPK専門。いくら俺が強敵だとしても2対1なら充分に勝機があり、俺の発言はハッタリの可能性が非常に高いことは理解しているはずだ。それでも提案にのれなかったのは「ブラウスの手の内をまだ見せられない理由があった」か「俺がEDの内部を探ろうとしている」と判断したかだろう。まぁ他の可能性も無くは無いだろうが…、ようは「俺がデスペナを払ってでもEDメンバーの戦闘スタイルを知りたがっている」と思わせるのがポイントだ。


 俺自身よく忘れている設定だが、俺は表向きは"元L√ランカー"であり、自警団の一件さえなければL√PCとして華々しく活躍していたことになっている。そんなやつがPKギルドの内部に興味を示せば警戒するのは当然。流石にそんなやつを仲間に加えるのは迂闊すぎるだろう。


「あぁそうだ…」

「「?」」

「俺がミーファに恨みをいだいているのは事実だ。しかし、EDおまえたちの力を借りて、どうこうしようとは考えていない」

「へけけ、こいつは一本取られたな!」

「はぁ~、今回は我々の負けです。お時間をとらせてすみませんでした」


 もしブラウスがカードを持っているとすれば、まず間違いなくミーファ絡みだ。まぁ「ミーファを失墜させる証拠がある」とか「PKするチャンスをやる」とか、そう言った類だろう。しかし、自警団には今後も俺を敵視してもらいたい。それには、ミーファは欠かせない存在なのだ。




 こうして、俺はEDの提案を再度断った。

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