#155(4週目火曜日・午後・セイン2)

「あれです。あれが自警団の新しい検問です」


 午後。俺は狩りに出かける前にレイに会っていた。


 目的は、自警団が新しく用意した"検問システム"の話を聞くためだ。


「なんというか…、"ここまでするか?"って感じだな。もしかして、コレを全てのポイントに配置するつもりか?」

「いえ、今回の作戦は職業適性もあるので主要な転送サービスのみです」


 まえまえからゲームだか仕事だか区別がつかなくなるお堅いノリの組織であったが…、また一段と物々しさを増した自警団。


 検問の新システムは4人1組で構成されており…、

①②、列の整理要員2名。特に条件は設けていないようだが、女性PCを採用しているあたり相変わらずの小賢しさを感じてしまう。


③、判定要員1名。手配書を使って犯罪履歴を確認する役だが、作業が非常に簡略化された。


④、猟師の上位職である斥候の拡張職の調教師テイマー1名。基本的には列の整理を補助しているが、テイムしたウルフを連れており状況によってもう一つの仕事をこなす。


 基本的にはこの4人でまわしていくことになる。女性PCは努力目標だろうが、上位職のテイマーの都合があえば、1ヶ所に2班配置したり、検問場所を増やしたりするつもりのようだ。


「しかし、上位職まで使うか…。まぁやろうとしていることは読めるが、一気に本格的になったな」

「そうですね。テイマーを選ぶあたり、自警団だなって感じですけど…」


 テイマーは、ぶっちゃけていうと嫌われることの多い職業だ。運用スタイルは使役した魔物スレイブを育てていく"育成型"と、状況に応じて最適なスレイブを使い分ける"切り替え型"にわかれるが、大きなポイントは3つ。


①、AI制御で動くスレイブに様々な命令を与えて戦う。スレイブはPT枠を消費するし、経験値もPCと同様に分配処理される。感覚としてはNPCの傭兵を雇うのに近い。


②、スレイブは種族ごとに様々なスキルが使える。例えば、周囲の魔物を自動スポットしてくれたり、ドロップしたアイテムを自動収集してくれたりと言った感じだ。なかにはPCが使えないスキルもあるし、なによりスレイブを入れ替えることにより専門スキルをもったNPCを追加のPTメンバーとして自由に入れ替えられる。しかも、スキルレベルが上がると同時につれていける数も増える。ボッチプレイヤーや纏まったプレイ時間が確保できないせいでPTで行動できないPCに向いている。


③、スレイブにもレベルアップがあり、育てることで能力を強化できる。PCと同じでステータスやスキルを一部カスタムできるし、転生ではないが"進化"という形で同系統の別の魔物に一部能力を引き継いだ状態で転生可能。基本的には特定の魔物を集中的に強化していく形になるが、なかには使い捨てと割り切って無節操に使い分けるPCもいる。


「流石は大規模養殖軍団だな。あの"ウルフ"は使い捨て型か?」

「そうらしいですね…」


 流石のレイも渋い顔を見せる。


 自警団は団員に協力の対価として、PTメンバーのマッチングやレベル上げの手伝いをしている。つまり、パワーレベリングとか養殖と呼ばれる、実力のともなわないPCを量産するノーマナー行為だ。


 違反行為やマナーを取り締まっているはずの自警団が、堂々とマナー違反をしているのには批判の声も上がっているが…、本人たちは、あくまでPT狩りの延長と主張しているようだ。実際、団員は無条件でレベルを上げてもらえるわけではなく、そこには序列や優先順位がある。つまり、本気でレベルを上げてもらえるのは自警団ギルドに所属する幹部などの中核を担っているPCのみ。非ギルド団員は、あくまで"ちょっと"手伝ってもらえる程度なのだ。


 そして、テイマーが嫌われやすいポイントの1つに「使い捨てスレイブによるトレイン行為」が上げられる。死んでも代えのきくスレイブに無茶なタゲのコントロールをさせて、そこを一気に周囲魔法で一掃する。違反ではないものの、これをやられると本当に狩場が荒れるので、よほどのバカでもなければ自重するのだが…、自警団は我が物顔で狩場を占拠する形でコレをおこなっている。例の事件で、ゴブリン村の完全占拠状態は解除されたが、それでも定期的に村を占拠して集団レベリングと対人アイテムの収拾は続けているようだ。


「それで、具体的には何をやっているんだ? 仮面を装備したPCはスルーしているようだが」

「俺も詳しくは聞かされていないんですけど、どうやら"専用のプログラム"を走らせて、通行者をリストアップしているそうです」

「なるほどな。相変わらずやることが本格的というか、なんというか…」


 大体ネタは読めた。検問では昔のような不審者の足止めや仮面の破壊はおこなっていない。あれは完全に違反行為であり、通報されれば言い訳のできないものだった。しかし、今回は違う。


 自警団の用意した作戦は、独自開発したプログラムによるPCの「移動情報の収集」だ。例えば、Aのポイントで事件が起きて、その時間帯にその場所へ行ったのがBだけなら、状況証拠によりBが犯人となる。


 もちろん、別の移動経路をつかったCがいる可能性もあるが、それも情報量と試行回数で信頼性を向上させられる。新しい検問では仮面の破壊や通行止めはおこなわず、代わりに通行したPCをひたすら記録して、事件が起きた時間帯に現場へ行ったであろうPC、つまり"容疑者"を自動的に割り出すプログラムを作ったのだ。


「7世代VRの問題点ですよね? 便利になったのはいいけど…、違反まがいの補助ソフトを使うPCが増えました」

「昔から結構あったけどな。当時は運営が制限していたし、それほど性能もよくなかった。そもそも、戦闘中に別のソフトを操作する余裕がないって問題があったからな」

「でも、今は公式も禁止できなくなっちゃいましたからね…」


 ゲーム本体とは別に、補助ソフトでプレイングをサポートする問題は昔からあった。例えばターゲティングした魔物の情報を検索して、画面端に攻略法を自動表示してくれるとか。便利なのは間違いなく便利なのだが、やりすぎればチートに発展しかねない問題であり、本来のゲームバランスを損なうものだ。


 6時代までは補助ソフトの使用は禁止されていたが、第7世代VRはソフトの連携こそが売りであり、個別のソフトが独自に妨害対策をこうじることは難しくなった。L&Cも対策が難しくなって規約から補助ソフトに関する文言を削除したほどだ。もちろん、チート行為は見つかりしだい即アカウント凍結だが…、チートでないなら補助ソフトグレーゾーンはOKと公式が許可した状態になっている。


「そうなると、あのウルフは怪しいPCを追尾する役か?」

「そうでしょうね。あれなら仮面のID参照に影響をうけませんから」


 テイムしたウルフには"臭い"を登録する特殊スキルが備わっている。これは臭いによる判別なので、視覚に依存する仮面での認証妨害の影響は受けない。


 例えば、容疑者が通りがかったとして…、相手が仮面を装備していたり、指名手配される前の段階なら手配書による判別は意味をなさない。しかし、臭いの記録で容疑者を<マーク>しておき…、臭いを頼りに時間差で容疑者を追跡する。そして、犯行現場を目撃して目撃判定を得る。そこからさらに、相手が街に戻った頃を見計らって時間差で相手を指名手配してしまえば、ほぼ確実に相手をゲームオーバーに追い込める。


 今までの単なる嫌がらせにすぎなかった検問と違い、今回の検問は、シンプルで、信頼性が大幅に向上した。抱えていた欠点をほぼクリアしたと言える完成度だろう。


「画像を解析して、独自IDを割り当て、あとはリストアップするだけ。プログラム自体は単純そうだが…、流石にここまでやるとEDの連中が黙っていないぞ?」

「それは前からでは?」

「ん? あぁ、そう言えばそうだったな…」

「?」


 EDは、あくまで片手間で嫌がらせをしてきたにすぎない。実際、表舞台に出てきたのはゴブリンキングの事件、1回のみ。


 俺からすれば、アレは「これくらいにしておけよ?」と言う忠告だと思っていた。しかし、やはり大衆は「本気で潰そうとしていた」ととらえているようだ。


「まぁいい。せいぜい、後ろに気をつけることだな」

「え? えぇ??」


 そう言って手をかかげて、その場を後にする。レイは状況を飲み込めずに目を白黒させているが気にしない。




 こうして新しい検問がスタートした。

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