#156(4週目火曜日・夜・ナツキ)
「よし! それじゃあサポートお願いね」
『は~ぃ、まぁしばらくは地味なレベル上げになると思うけど、頑張ってね』
夜。今日はVRを譲ってもらって私のキャラを鍛えていく。
皐月、じゃなかった、コノハは音声のみ。もう一台VRを用意出来たらよかったんだけど…、流石にまだ貯金をおろす踏ん切りがつかなかった。いや、まぁ…、たぶん、散々悩んだあげく、最後は普通に買っちゃうんだろうけど。
「えっと、とりあえず王都のまわりの魔物を狩ればいいんだよね?」
『前使っていた装備があるから、もう少し無茶できると思うよ』
復帰することになるのなら削除なんてするんじゃなかったと思う気持ちはあるが…、まぁ色々と苦い思い出もあるので、心機一転! 頑張っていこうと思う。妹も見ているんだ。あまりカッコ悪いところは見せられない。
「あぁ、確かに!」
『でもHPは低くなっているから注意してね』
「了解。今度は迷うこともないだろうし、すぐにレベルアップするから!」
『お姉ちゃん、なんだか楽しそう』
「え? いや、まぁ…」
そう、私は今、楽しむためにゲームをやっている。ゲームなんだから当たり前なのかもしれないが…、少なくとも、私の中ではそうではなかった。
私たち姉妹は、よく「真逆の性格だね」っと言われるが…、実はそうではない。私も人見知りで他人と関わる事や外に出るのが苦手で…、実はアニメやゲームにハマって一日中部屋に籠もっていたいと思っている。
でも、妹がいる手前、昔から手本となるよう頑張ってきた。本当はやりたくなかったけど、クラス委員に立候補したり、アルバイトをはじめたり、率先して行動するようにしている。(まぁ友達はできなかったけど…)でも、私はそんな妹をプレッシャーだとは思ったことはない。正直なところ、妹のために頑張っていたのは半分ウソだ。残りの半分は自分のため。
そう、妹がいなかったら私は絶対にニートになっていた。食事1つをとってもそうだ。妹がいるから、ちゃんとしたものを用意しようとする気になれる。1人だと間違いなくお菓子かカップ麺で済ませてしまうだろう。本当はちゃんとしなきゃって思っているのに、自分1人だと頑張る気力がわかない。「妹がいるから」と思う事で、やっと私は動ける。だから頼っているのはむしろ私の方。皐月がいてくれたから、なんとか社会不適合者にならずに済んでいるのだ。
『まぁいいや。とりあえず"お兄さん"からオススメのレベリングポイントを聞いているから、じゅん…』
「まって、お兄さんって誰!?」
『もちろん、セインさんだよ?』
「なんでお兄さん!? ちょっと詳しく聞かせてちょうだい!!」
『そこは深く考えなくていいから。時間もアレだし、さっさと行こうよ』
「いや、そういうわけには…。…!?」
*
結局、話は有耶無耶にされて、とりあえずキャンプ地近くのフィールドに来ていた。
ここには程よく強いグリーンスネイクが出現する上に、キャンプ地で補給もできる穴場スポットだ。難易度はそれなりだが、最序盤の狩場としては高効率の部類…、らしい。
「はぁ~、できればマンティスがよかったな…」
『いや、流石にマンティスは即死だから。つか、いつからお姉ちゃん、そんなに戦闘狂に?』
「いや、まぁ…、なれた相手だからね…」
『ふぅ~ん。そうなんだ~、ふ~ん』
機械のむこうで嫌らしい笑みを浮かべる(推測)妹。こういう時、身内は本当に厄介だ。考えていることがすぐに筒抜けになってしまう。
しかし! 姉として、やられてばかりではいられない。私だって皐月、じゃなくってコノハの考えていることくらいわかる!
「そう言えば、コノハって…」
『いいから手を動かす。さっさとレベルを上げないとでしょ?』
「はい、がんばります…」
ダメだった。
どうにもここ最近、完全に立場が逆転してしまっている。まぁ、ゲームに関してはコノハの方が上手いし、レベルだって逆転してしまった。あと、まぁ…、セインさんのこともあるし。
*
そんなこんなで、しばらく黙々と狩りは続いた。
グリーンスネイクはオススメされただけはあり、最初こそ苦戦したが、慣れると無心で狩れる程よい相手だ。これを意識しないで倒せるようになるのが最初の関門。
人によっては「思考を停止して機械的に戦うのは危険だ」と言う人もいるが…、結局そんなのは場合によりけりなんだと思う。少なくとも、長時間の狩りで緊張状態を維持し続けるのは物理的に不可能だし、なにより続かない。慣れを逆手にとって意表をつかれることも、あるかもしれないが…、慣れているからこそ体が勝手に反応してくれることもある。
『お姉ちゃん。そろそろ休憩したら?』
「え? あぁ、もうこんな時間か…」
VRゲームに限った話ではないのだろうけど、集中していると時がたつのを忘れてしまう。しかし、疲労は着実に蓄積される。とくにVRは、体ではなく脳で直接キャラを動かす。だから疲れがたまるとミスが多くなり…、やがて事故死であっさり半日分の頑張りが消えてしまう。
『お菓子あるけど、いったんログアウトする?』
「コノハ! 何時だと思っているの!?」
『(もごもご、ごくん)ま、まだ食べていないから。それに、今日は徹夜でしょ? 補給は必要だよ??』
「え? いや、徹夜はしないから。節度は守ります!」
『えぇ~』
「え~、じゃありません!」
まぁ、私も徹夜は考えたが…、流石に妹の前でそんな自堕落はできない。それに、徹夜なんてしたら"計画"が失敗しかねない。ここは無理せず普段通りの時間に寝るのが正解だ。
*
狩りも一段落つき、休憩ついでにキャンプ地まで補給に来た。
『ねぇ、あれなに?』
「知らない」
つい、そっけなく返してしまった。
目に付いたのは自警団の検問。しばらく見ない間に、随分と簡略化されたが…、それは間違いなく自警団の検問であり、正義の名のもとにおこなわれている迷惑行為だ。
今になって思いかえせば、なんで私はあんな下らない事に必死になっていたのだろう。いや、理由は分かっている。上手く言葉にできないけれど…、実はただ単に「悪い人たちを攻撃したかった」だけなのだ。正義と言えば聞こえはいいが…、腹の中は短絡的な怒りに身を任せているだけにすぎない。だから、更生させようとか、話し合って解決しようなんて考えはない。
そう単純に…、悪いヤツを徹底的に攻撃したかった、それだけだったのだ。
『ねぇ、お姉ちゃん』
「なに?」
『私、真犯人、知ってるよ』
「真犯人?」
『動画を投稿して、お姉ちゃんを自警団から追い出した犯人』
「そう…」
『 ………。』
真犯人が誰なのか、気にならないと言えば嘘になる。しかし、今はそれほど怒りは感じていない。
コノハはPKをしようとしているが、それは違反行為ではないし、標的である自警団は恨みを買うだけの理由がある。なにより、コノハの行動は私を思う優しい気持ちからだ。まぁ怒りだってあるだろうが…、決して、昔の私のように直情的な怒りに身を任せているわけではない。
だから、今なら冷静に
例えば、戦争ゲームにハマったからと言って、その人が銃で人を撃ち殺したいと思っている精神異常者とは限らない。結局、ゲームとして楽しんでいるだけ。うまく説明できないけど、結局これがゲームであり、MMO…、なんだと思う。
そんなことを考えながら、その日は久しぶりに姉妹でゲームに没頭した。
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