#151(4週目月曜日・番外編・サツキ)

「(コンコン)お姉ちゃん、いる?」

「あ、は~い。皐月、どうしたの?」


 夕方。帰宅して部屋の異変に気付き、私はお姉ちゃんの部屋を訪ねた。


「お姉ちゃん。私のVR、使ったでしょ?」

「え? あぁ…、その」

「べつに怒ってないし、隠してもそういうのログに残っちゃうから無駄だよ? それで、お茶持ってきたから、中で話してもいい?」


 ログと言うのは半分ウソだ。ログイン画面に入力されたIDが1文字違っていたので気づいただけ。流石に私も、そこまで機械の操作は詳しくない。


 お姉ちゃんは、私がPKをすることを強く反対していたので、こんなことが起こることは予測していたのだが…、思っていたよりも行動が早かった事に驚いた。確かに私は「自警団にPKを仕掛けようと思っている」と言ったが…、私のアバターはほぼ初期状態であり、すぐに本格的なPKができる状態ではない。だから、私が攻略に行き詰って断念する可能性や、単純に興味を失ってしまう可能性だってあった。だから、強行手段にでるのは私がゲームになれてからだと思っていた。


「あ、えっと、どうぞ。 …その」

「もともとVRはお姉ちゃんのだし、使うのは全然いいんだけどね」

「ごめん、勝手につかって」


 今日のお姉ちゃんは妙に弱腰だ。いつもは自分にも他人にも厳しい性格なのだが…、今日は後ろめたい事もあって、恐々としており…、すごく可愛い。


「それで、どうだった?」

「え? どうって何が??」

「お姉ちゃん、L&C、やったんだよね?」

「え? あぁ…、そのまぁ。そんなことまで分かっちゃうんだ」

「機械だからね」


 VRを買ってきたのはお姉ちゃんであり、使っていた期間もお姉ちゃんの方が長いはずなのだが…、あいかわらず機械の操作は苦手なようだ。なにを隠そう、VRの初期設定をしたのも私だったりする。そんなお姉ちゃんが、なぜ高価なVRを買ったのかと言えば…、話は3週間前に遡る。




 その日、お姉ちゃんはバイトをクビになった。


 理由は無断欠勤とかサボりとかではない。そもそもお姉ちゃん自身は真面目に勤務していた。そう、理由は怠慢ではなく"人間関係"だ。


 私も人のことは言えないが、お姉ちゃんは積極的に行動するクセに人付き合いが苦手だ。苦手と言うか、融通がきかなくて、おまけに壁を作ってプライベートな部分に触れられるのを嫌う。分かりやすく言えば…、「仕事はキッチリやるから、私には関わらないで!」などと言って空気を悪くする。


 そんなわけで、協調性を理由に"また"バイトをクビになった。一応、仕事は真面目なので毎回それなりに続くのだが…、やはり何処へ行っても協調性とハッキリ言ってしまうクチが原因で解雇されてしまう。


 そしてその日、お姉ちゃんは何を思ったのか…、帰りにバイト代をおろしてVRを買って帰ってきた。もしかしたらクビになった理由とも関係しているのかもしれないが…、とにかく、ムシャクシャして体を動かしてストレスを発散できるゲームをはじめたわけだ。




「それで、なにをしたの? それこそVRを捨てちゃう可能性も考えていたんだけど…、ログインしたって事は、ゲーム内の何かしたんでしょ?」

「え、あぁ、それは、その…」


 みょうにモジモジするお姉ちゃんに驚愕する。なぜそこで恥じらう必要がるのか!?


 お姉ちゃんのことだから、怒って強引な手段にでるものだと思っていたし…、実際、昨日はお説教されてしまった。まぁその程度で考えを曲げるほど、私もお姉ちゃんも柔らかくはないけど…。


「お姉ちゃんがそう言う、復讐とか迷惑をかけるようなことを嫌うのは分かるけど…、私はそうは思わない。それに、私のやっていることはゲームのルールで許可されている範疇でしかないの。だから…


 なんだかんだ言っても私たち姉妹は似た部分が多い。お互い頑固で言い出したら意地をはっちゃうところとか…、ハッキリ言っちゃうせいで友達がいないところとか…、下着の好みとか。


 …とする気持ちはわかるけど、そういう回りくどい方法はお姉ちゃんらしくないよ」

「えっと…、そのことなんだけど…。私もちょっと考えなしだったと言うか、その…、悪い部分があったかなって…」

「えぇ!?」


 ありえない!? あの頑固なお姉ちゃんがこんなにアッサリ折れるなんて!!


「いや、PKとか復讐みたいなことはよくないと思うんだけど…、ほら、ちゃんと話し合っていなかったと言うか、私も皐月のこと、ちゃんと理解してあげられていなかったなって…」

「はぁ…、お姉ちゃん、頭打った?」

「ちが! 頭は関係ないの! そんなチョロくないから!!?」

「??」

「えっと、だからね! 皐月も私のために怒ってくれたわけで、頭ごなしにダメダメいうのは違うって言うか、ほら!」

「レイ」

「はい?」

「セイン」

「ふぁひぃ!!」

「あぁ~、うん。そう…」


 恐ろしいほどわかりやすい反応だった。考えてみれば色々と合点がいく。


 私は、機械が苦手なお姉ちゃんのために、最初のうちはログインしている横でサポートをしていた。操作に慣れて自警団のメンバーになってからは…、正直に言って興味が持てなかったので、それっきりになり、その後の出来事は分からない。


 夜神零は、自警団のメンバーであり、暴言にもめげずに積極的に話しかけて、自警団にお姉ちゃんを引き込んだプレイヤーであり、チャラい部分もあってペラペラと事情を話してくれそうな相手でもあった。


 接触してみれば、予想通り彼は色々と教えてくれた。自警団と何があったのか。ミーファやセインさんのことを知ったのも、その時だ。お姉ちゃんが人を頼ること自体珍しいのだが…、ゲームにログインして何かしようと思えば、頼る相手は夜神零か、実力者であり、自警団と対立しているセインさんしかいなかった。


 と言うか、選択肢は実質1つだ。普通に考えてセインさん一択だろう。なんで廃ゲーマーをしているのかは分からないが…、人が出来ていて、硬派で、厳しいのにちゃんと優しさもある。ぶっちゃけ、普通にタイプだ。まず間違いなくニートなのは問題だが…、現実世界にあんな人がいたら、私だって初めてを捧げたくなってしまう。


 やはり、私たち姉妹は…、そっちの趣味も似ているようだ。


「えっと…、だからね、改めて話そうと思っていたんだけど…、私は、自警団の事はもう終わったことだと思っているの。確かにまだ納得いかない部分もあるけど…、それよりも前を向いて先にすすむような事をしたいと思っているの」

「お姉ちゃん」

「はい?」

「セインさんは硬派だから、実力のない人はPTに入れてもらえないよ?」

「ちょ!? セインさんの話は!!」


 お姉ちゃんがこんなにも柔らかくなったのには驚かされたが…、まぁ相手がセインさんなら上手くやってくれるだろう。これは、男の人と親しくなったことすらないお姉ちゃんに、異性を知ってもらう良い機会だ。場所がVRだから問題が起こる心配も少ないし、安心してお姉ちゃんを任せられる。


 でも…、お姉ちゃんとセインさんがくっ付いたら…、セインさんは私のお義兄さんって事になるのかな?




 そんな事を考えながら、私たちはグラスの雫が乾くまで今後の方針について、じっくり話し合った。

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