#150(4週目月曜日・午後・セイン)
「 …! それなら止めてくださいよ!!」
「いや、だから相手が自警団だったのは初耳だし、正式に申し出をうけたわけでも…」
「それでも、です!!」
どうにもナツキの圧が凄い。まず間違いなくナツキとコノハはリアルの知り合いなのだろう。
「すこし落ち着け。そもそも、PKは運営が許可している行為だ。俺にそれを止める権利はない」
「権利ではなく、アナタなら出来るんです!」
「いや、だからコノハとはそこまで親しい関係じゃないんだが…」
「それは…、あの子が…、アナタの事をその…」
どうにも歯切れの悪いナツキ。どうやらリアルの事情が絡んでいそうな雰囲気だが…、そういう厄介な話なら俺としても関わるつもりはない。悪いが俺にそういうお節介を求めるのは間違いだ。
「俺はお前たちのプライベートに首を突っ込むつもりはない。それと同時に、プライベートな事情を押し付けられるのは迷惑だ」
「それは…」
「悪いが他をあたってく…」
「待ってください! その、私を! セインさんのPTに…」
「キミでは実力不足だ」
「ぐっ」
「俺に物語の主人公的なお節介を期待するのは無駄だ」
「それでは! 今から独り言を言います」
「ん? まぁそれくらいは個人の自由だな」
苦し紛れの策にでるナツキ。ナツキの依頼を受けるつもりはないが…、俺がナツキの目的を知ることでソレを考慮した動きをする可能性は充分にある。
「私には…、妹がいます。妹は引っ込み思案な性格ですけど、お姉ちゃん子で私にすごく懐いてくれています。まぁ、私が過保護すぎるせいでそうなってしまったと…、思わなくもないですけど」
「(やべ、けっこう長そうだ)」
「それで、時々L&Cの事も話していたのですけど…、私が引退した時、勢いでVR機を妹に上げちゃったんです」
「(つまり、今は妹が学校に出かけているスキに、妹の部屋からログインしているってところか?)」
「それで、まぁサツキは家で漫画とかゲームをしていることが多かったから、VR機も喜んでくれたんですけど…」
「(今、妹の名前言っちゃったよ!? もしかして気づいていない??)」
「べつに、私としても普通にゲームをするくらいなら止めるつもりはないんですけど…、その、私がL&Cをやめた理由を、喋っちゃって…」
「(コノハが自警団に関心があったのもソレが関係しているのだろう)」
「その、これはセインさんにも関係ある事なんですけど…。私、セインさんと手合わせしたことがあったじゃないですか」
「あぁ、しかもソレが動画として流出したな」
「はい。それでその犯人は、てっきりミーファだと思ったんです」
「そのクチぶりだと、違ったみたいだな」
ミーファは俺を敵視していたので、俺の立場が悪くなるような情報をチラつかせれば食いついてくる事は予想していた。
実際に動画が上がって、俺と自警団の仲たがいは撤回できないほど深刻なものとなった。団長的には、まだ俺を戦力として引き込む事を考えていただろうが…、敵対ギルド認定をされた上に、団員をキルしている動画が上がってしまえば擁護は出来なくなる。
これで、本当は悪いことをしていないにもかかわらず、俺を立場上敵と見なさなくてはならない状況になり…、俺は「仕方なく√落ちした不幸なプレイヤー」となり、自警団は「汚い部分もある一概に信用できない組織」と、多くのものに印象付けた。
「はい。その…、例の決闘が問題になって、それで、その…、ついカッとなって"犯人は
「なるほどな」
俺のセクハラ疑惑を流したのはミーファであり、その現場をナツキは目撃していた。それなら動画の件でもミーファを疑うのは当然の流れだ。しかし、動画を"撮影した"のはミーファでは無かった。
ミーファとは関係のない者の仕業なのか、あるいはミーファの協力者の仕業なのかはわからないが…、証拠もないのにミーファを犯人だと断定してしまったため、団内でのナツキの立場は完全に失墜してしまったわけだ。
俺としては普段冷静なナツキが、そんな重要なところで感情的になってミスしたことに驚きだが…、まぁそういうこともあるのだろう。俺も事件が起きるように誘っていた手前、罪悪感を感じてしまう。
「まぁそれはもう、終わってしまった事なのでいいのですけど…。どうも妹は、そのあたりの詳しい事情を調べていたみたいで…」
「それでコノハは自警団に首を突っ込みたがっていたわけか」
コノハは欲が無いと言うか、何事も一歩引いて考えるタイプなのにもかかわらず、明らかに面倒であろう自警団には積極的に関わろうとしていた。
しかし、そもそもの目的が「姉を追いやった自警団の実体を見極める」事だったならば納得だ。最初にレイと一緒にいたのも、もしかしたら作為的な行動だったのかもしれない。
そして…、ミーファや団長が独善的で性格に問題を抱えた人物だと理解した。だからコノハは一転して自警団を敵視、つまりPKの標的に変更したわけだ。
「もう、私は自警団の事を恨んでいません。いや、そうとも言い切れないんですけど…、それ以上に、どうでもよくなってしまったというか…」
「失望感?」
「そうですね、そんな感じです。なので恨みを返してほしいという気持ちはありません。だからサっ、妹には無駄なことに時間を費やしてほしくないんです」
ナツキのように責任感が強く、意地でも自分の役割をやり遂げようとするタイプは、溜め込んだものをなかなか吐き出せない分、揺り戻しも大きくなる。こう言うタイプは、突然なげ出し、脈絡もなく旅に出たりする。話がそれたが…、ナツキは自警団の活動を意地になって頑張っていたようだが…、じつは結構ギリギリの状態で、動画の一件が最後の一押しになってしまったのだろう。
「なるほどな。あいかわらず…、頭が固いな」
「はい?」
「ここがだよ!」
強引にナツキの頭をグリグリとなでまわす。
「ちょ! なにするんですか!?」
顔を真っ赤にして怒るナツキ。アイなら「もっと別のところも愛撫してください!」とか言って喜んでくれるのだが…。
「妹に敵討ちみたいなマネをさせたくないのは分かる。 が! それは手段を間違えている」
「どこがですか!!」
「妹は、何も考えなしに自警団を標的にしたわけではない。ちゃんと相手を見て、話し合って、それで"粛清すべき"と理性的に判断したんだ」
「ですが!」
「そういうところが固いって言っているんだ!」
ぐりぐりと強引に頭を撫でまわす。本気で逃げようと思えばいくらでも逃げれる状況なのだが…、逃げないと言うことは満更でもないか、心のどこかで俺の言うことを既に自覚していたのだろう。
「ちょ、だから、や…、だめ…」
「妹も別に、ゲーム内で負けた程度でイチイチ腹を立てて粘着まがいのPKに訴えたりはしないだろう」
妹はVR機こそ持っていなかったようだが、ゲームをそれなりにやっていたなら、オンラインで返り討ちにあったり、上手くクリアできないゲームに出会った経験くらい、いくらでもあったはずだ。だから、負けたくらいで仇討ちしようなんて短絡的な発想にはならないはずだ。
「それは…、よくわかりません」
「妹は、オマエが"負けた"から復讐しようと思ったんじゃない。オマエが! "ふさぎ込んでいた"から復讐しようと思ったんだ」
「え、あぁ…」
「こんなのクソゲー」と言って買ったゲームを投げ出すのはゲーマーなら誰しもが経験する道。はじめは妹も、自分も通過した道だと生暖かい目で見ていたはずだ。それが思っていた以上に深刻で、引き篭もる勢いで落ち込んでいたら…、流石に心配するし、正義と言って迷惑行為を正当化している自警団に怒りを覚えるのも充分頷ける。
一見するとC√の妨害行為を食い止めようとしている自警団は「正義の組織」に見えるが…、実際は違反行為、つまりルールにそぐわない方法で相手を妨害している「ノーマナー集団」なのだ。自警団は迷惑をかける可能性があるという理由だけで仮面を装備しているPCを攻撃していたのに対して…、妹はちゃんと相手を見て攻撃すべきか確り判断している。そこには信念のようなものがあるのだろう。それなら俺や姉が頭ごなしに否定しても、意地になって反発するだけだ。
「まぁそういうことだ。あとは自分でなんとかできるな?」
「あ、はい!」
「よし、いい子だ」
今度は優しく頭を撫でてやる。飴と鞭じゃないが、こう言うのは強弱をつけるのが効果的だ。
「うぅ…」
多分、これでいいはずだ。俺は正義の味方でも物語の主人公でもない。何より攻略ガチ勢であり、赤の他人の事情に首を突っ込む気なんて毛頭ない。あとは
それは、俺の個人的な都合でもあるが…、やはり当人同士で解決するべき問題だと思ってしまう。もしかしたら、上手くいかないことだってあるかもしれない…、それでも、俺は薬で無理矢理地面を固めるより、雨が降るのを待って自然な形で落ち着くのを見守りたい。そう思ってしまう。
結局その後はナツキとわかれて、いつも通り普通に狩りに専念した。
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