#149(4週目月曜日・午後・セイン)

「相手はすぐこれるそうだ。お前たちはどうする?」

「あぁ、私はパス。危ない橋は渡れないわ」

「あれ? 試合はどうなるんですか??」


 ラナハの返信はすぐに返ってきた。文面には『すぐに伺います』とだけ、シンプル過ぎて逆に偽者の犯行とは思えない雰囲気だ。


「今日は中止だ。つか、いつまで寝てるつもりだ?」

「いや、なんだか新しいものが見えた気がして」

「?」


 よくわからないが…、ユンユンは危うきには近寄らず、スバルは心ここにあらずと言うか、そもそも関心が無いように思える。


「スバル君、お兄ちゃんは難しいお話があるから、今日はあきらめましょうね~。そういえば、新しい装備が欲しいって言ってたわよね? なにか露店に掘り出し物があるかも!」

「うぅ、そうですね。セインの邪魔はできません」


 まるで母親のようにスバルをサトすユンユンに、さっき散々俺の邪魔をしたスバルが答える。そんなやり取りをしていると…。


「すみません。お待たせしました」


 初期状態の女性PCが入ってきた。まず間違いなくラナハだろう。顔や背格好は同じ。髪形だけ申し訳程度に変更している。


「えっと、それじゃあ私はこれで!」


 顔を隠しながら逃げるように出て行くユンユン。こういうところは流石ベテランアイドルだ。


「女性プレイヤーに囲まれて、モテる人は大変ですね」

「そこに転がっているのは男性PCだ。つか、まさかここまで早いとは思わなかったぞ」

「とくに時間の指定はなかったはずです。早めに来て非難されるのは心外です」

「わわわわ、喧嘩はよくないですよ~」


 開口一番イヤミを漏らすラナハに対して、俺もイヤミでかえす。喧嘩腰に見えるかもしれないが…、ラナハはもともとこういうタイプで、時間から逆算してギルドホームエリアの受付室でバカ正直に待機していたのだろう。態度からは読み取れないが、案外、ホームに来るのを楽しみにしていたのかもしれない。


「失礼しました。どなたか存じませんが、重要な話があるので席を外してもらえないでしょうか」

「え? あぁうん、失礼しました」


 急に押しかけてきて先客を追い出すのも問題があると思うが…、ラナハはこういうタイプだ。俺としては無駄に仲良しごっこを押し付けてくるミーファみたいなタイプより遥かに好感が持てる。




 スバルが出て行ったことを確認して、あらためて席につき話を再開…、いや、その前に…。


「この装備に着替えろ」

「ホドコシは受けません。装備くらい自力でなんとかします」


 初期状態のラナハが見ていられなくて倉庫にあった装備をわたすが…、当然のように拒否された。


「わからない感覚なのかもしれないが…、ゲーマーとして初期衣装を見ているのは非常に気持ち悪い。黙って見た目を変更しろ。これは話を聞く対価だ」

「 …わかりました」


 ウソは言っていない。初期状態の見た目は、どうにもむず痒く感じてしまう。養殖行為をするつもりはないが、最低限の装備は無理やりにでも着こませる。それに、一度言い返されただけで従うなら…、ラナハ的にはむしろ好印象だろう。


 何の変哲もないパンツルックから、ポニーテールの女戦士に一瞬で早変わりするラナハ。当たり前だが人前で装備を変更しても裸を見られることはない。


「意外に悪くないですね? 性能は大したことないですが、見た目は確りしています」

「作成スキルでカスタムした防具だからな。意味もなく安っぽいデザインにする必要はないだろう」


 装備のランクはD。本来なら初級のEランク装備をわたすべきなのだろうが…、流石にそんな役に立たない在庫は残っていない。


 あと…、見た目がいいのはニャン子の協力も地味に大きかったりする。初期デザイン推奨派の俺と違って、ニャン子はそういうところに拘る性格のようだ。あまり良くしすぎても目立って困るのだが…、売る分には見た目がいいに越したことはない。


「えっと、あらためて…、今のキャラネームは"ナツキ"です。別にフレンド登録しろというわけではないですが…、一応」


 目をそらしながら名乗るラナハ改めナツキ。なんとなく本名が連想できそうな気もするが…、まぁそれは置いておいて。まず間違いなくナツキはラナハ本人だろう。まだ証明になる発言はないが、態度や仕草は間違いなく本人だ。


「そうか、まぁ話の内容次第だが、お互い登録しておいて損はないだろう。知っていると思うけど俺の名前は"セイン"だ」


 これでお互いのフレンド登録が成立する。面倒なことだが、こうして本人が直接名乗らないと登録できない。そういうところは流石L&Cだ。セキュリティーへの意識が無駄に高い。


「それで本題なのですが、サ…、コノハを止めてほしいんです!」

「俺はコノハのギルドメンバーでもなければリア友でもない。やれることは知れているぞ?」

「それでも構いません。いえ、アナタしかできない事なんです!」


 みょうに力を入れるラナ…、ナツキ。なんとなく事情は読めてきたが、俺としては面倒ごとに首を突っ込むつもりはないし、プライベートに踏み入るつもりもない。しかし、まぁ…、ここまで来たら聞かない訳にもいかないだろう。


「それで、なにを止めてほしいんだ?」

「はい、コノハはPK、それも…、自警団をPKしようとしているんです!!」

「 ………。」

「?」

「え? あぁ、そうらしいな」

「え? あれ!?」


 本人は衝撃の告白のつもりだったようだが…、それはすでに聞いていたので話の続きを待ってしまった。ナツキも予想と違う反応が返ってきて目を白黒させている。


「コノハにはメッセージでPKの手ほどきを頼まれている。相手が自警団だったのは初耳だが…、それなら納得だ」


 自警団に入ってミーファの下で伝令役として働くことを辞めた理由は、何らかのトラブルで自警団やミーファと対立したから。対立した原因は知らないが、実にシンプルなオチだ。




 と言うか俺もミーファと組まされたら、キレてキルしているだろう。そんな事を考えつつも、ナツキの話は続く。

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