#148(4週目月曜日・午後・セイン)

「 …。こんどこそボクが勝って見せますからね!」

「スバル君、今日も絶好調だね~。それで、ニャンコロさんは来ないの?」


 俺の午後は、当然のように人のギルドでくつろぐ2人に出迎えられるところから始まる。


「たしか、少し遅くなるかもとか言っていたな。 …ん、なんかメッセージが来てるな」

「「?」」


 珍しくギルド掲示板にカキコミがあった。本来、このギルドは自警団の依頼を受けるために設立したのだが…、関係悪化にともない本来の存在意義を失っている。


 どうせレイだろうと思うが…、一応気づいてしまったので渋々内容を確認する。


『お忙しいところ失礼します。キャラクターをデリートしたのでIDが変わっていますがラナハです。"コノハ"というプレイヤーの事で相談したいことがあります。可能でしたらコチラのIDにメッセージをください』


「なんだこれ…」

「どうかしたんですか?」

「もしかして~、"掲示板詐欺"とかだったりして?」


 見えもしないメッセージを必死で覗き込もうとするスバルに、嫌らしい笑みを浮かべながらイタズラを期待するユンユン。


 ちなみに、掲示板詐欺とは今回のようにキャラをリセットしたと言って別のプレイヤーをフレンド登録させるなどの詐欺行為だ。スパイやギルドの倉庫荒らしに使われる場合が多い。


「スバル、邪魔」

「くっ!」

「それで、どんな内容だったの?」

「詐欺…、かもしれない」

「え、ちょっとマジなの? 注意しなさいよね」

「 ………。」

「引退したはずのPCからメッセージが来た。新キャラだからIDが変わっていて本人か区別がつかない」


 転生でのキャラクター変更は、見た目のIDが変わっていても同一人物だと表示される。しかし、自分からキャラをデリートした場合は、前のIDやフレンドリストなどのデータは初期化されてしまう。一応、倉庫内に退避させておいたアイテムや貯金は残るが…、


 連続してNPC兵士に捕縛されるなどして処刑、つまりゲームオーバーになると倉庫内までリセットされる。しかし、C値や転生条件などのデータは継続されるので、もともとNPCサービスが使えない人外に転生した場合は大したデメリットは無かったりする。


「あぁ、L&C以外の連絡手段を交換していない相手だと判断つかないわよね。なにか本人を証明するような一文はないの?」

「(ぐいぐい)」

「邪魔!」

「くっ!!」


 とりあえず鬱陶しいのでスバルを踏みつけておく。


「文章自体は本人っぽいけど、端的で確信できるほどのものは無いな」

「じゃあ、返信してみるしかないわね。でも、それだと相手から返信が…」


 メッセージはあくまでギルド宛であり、相手はまだ俺のIDを知らない。


 ギルド掲示板は、正確なギルド名を知っている相手なら自由に書き込める設定にしてある。しかし、プレイヤーへのメッセージは名前だけでなく直接会ってIDを登録する必要がある。もちろん、メッセージの受け取りをオープンにもできるが…、俺は「フレンド登録をしている相手からしか受け取らない」に設定してあるので不可能だ。


 しかし、俺から相手にメッセージを送ると相手はフレンドでなくても例外として返信できてしまう。一昔前のB級映画に、メールにウイルスを仕込んでアバターをジャックする話があったが…、ゲーム内のメッセージなら添付機能はないので妙な小細工はできない。せいぜい、セーフティー限界まで罵詈雑言を浴びせられる程度だ。


「まぁいい、思うところもあるし、返信してみるか」

「まぁお兄ちゃんなら大丈夫だと思うけど…」


 考えてみればユンユンが横で無駄に警戒するものだから、俺も過剰に警戒してしまった。ユンユンはこれでも"アイドル"らしいので、コンタクトに対して警戒心が強いのも頷ける。


「セインお兄ちゃん、今、失礼なこと、考えていなかった?」

「なんでそうなる? 失礼だな」

「え、あぁゴメン」

「(もぞもぞ)」


 まぁ考えていたのだが…、それはさて置き、虎穴にいらずんば何とやら。もしかすると、責任感が強そうなラナハが自警団を辞めた理由や、コノハの行動の謎がわかるかもしれない。もし…、俺を狙う新たな敵の犯行なら、それはそれで表舞台に引きずり出すチャンスだ。俺からすれば、いくら強敵でもEDのように名前や行動パターンが分かっている相手の方が対処しやすい。面倒なのは予測もヘッタクレもないポっと出の第三者にかき回されるパターンだ。


 メッセージの送信日を確認すると、送信されてからさほど時間がたっていない。ギルド掲示板に書き込みをするにはギルドエリアに出向く必要があるので、まだ近くにいる可能性は高いだろう。それなら…。


『ちょうどギルドにいるので時間が許すなら直接会って話しましょう。ゲストIDを添付しておくので、それでホームに入ってください』


「よし、これでいいだろう」

「どう返したの?」

「今ギルドにいるから直接会って話そうって」

「ちょっと、危なくない!?」

「(はぁはぁはぁ)」

「むしろ文章でやり取りする方が危険だろ? 百聞は一見にしかずだ」

「あぁ~、まぁ、それもそうか」


 ギルドホーム内においてギルドマスターは絶対的な存在だ。設定次第で無敵になれるし、基本ルールの改変や相手を強制排除することもできる。


 それになにより、本物かは直接会って話しをすれば1発で判断できる。ユンユンはアイドルとして、そういう例外的なアポは無視するスタンスのようだが…、俺としては敵なら敵で戦うまで。むしろり甲斐のある相手なら大歓迎だ。




 こうして、俺は足の下でモゾモゾしているスバルのことを忘れて、ラナハを名乗るPCに会うことにした。

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