#146(21日目・夜・セイン)

「できれば、この技は最後まで使いたくなかったんだけど…、仕方ないよね? セインってば強すぎるんだもん」

「ふっ…、まぁいい。最後まで足掻いてみろ」


 目のまえに立っているのはニャン子…、ではなく、彼女のリアルの人格と言ったところか? どうやら本気で決めに来るようだ。


 別に心が決まったからと言って、キャラの身体能力が跳ね上がるなんて漫画みたいなことは起き…、いや、1つだけ身体能力を向上させる方法があったな。


 ニャン子の体が淡い光に包まれる。


 間違いない、<闘気功>だ。<闘気拳>が魔法エネルギーを攻撃にのせる技なら、<闘気功>は運動能力にのせる技。やっていることはほぼ同じだが<闘気功>は癖が強すぎて殆ど使い手がいないレアスキルだ。


 メリットは身体能力の向上。攻撃だけでなく回避や防御にも使える万能スキルだが…、デメリットが酷すぎる。

①、魔力の大量消費。発動中は常時魔力を消費し続けるのでMPが瞬く間に枯渇する。魔法関係のステータスを伸ばしていたり回復アイテムを惜しみなく使ったとしても常時使用するのは不可能な数値に設定されている。


②、スタミナ消費。いくらステータスをブーストしても、行動には常にスタミナを消費する。魔力消費にあせってスタミナを使い切ればスキル発動中でも容赦なく強制クールタイムが発動するし、スタミナ量や回復にボーナスがつくこともない。


③、バフ・デバフの無効化。今回は関係ないが…、全身に魔力を纏うので味方からの強化魔法を無効化してしまう。相手からの弱体化魔法も無効化できるが、それでも発動するたびにバフをかけ直すのは効率が悪すぎる。


 ネタや奇形の魔法拳闘士なら使えなくもないが、MP消費が激しすぎるので、そのMPを攻撃スキルにまわした方が総合的には強くなる。まぁ、ソロでパッシブ主体のニャン子ならMPは余りがちになるので、奥の手として選択肢に入ったのだろう。




 ニャン子の体が光を放ち、軌跡を描きながら天井すれすれまで大きく跳躍する。


 限界までステータスを引き上げた光の戦士が、俺の目の前に急降下してくる。普通なら、対処しにくい直上からの打ち下ろし攻撃を狙う所だろうが…、狙いは着地からの奇襲。たぶん、上空からだとタイミング勝負になる。俺なら確実に合わせてくるとふんだニャン子は、着地からの突進攻撃を上段に放つか、下段に放つかの2拓を迫る作戦なのだろう。この手のかけ引きは格闘ゲーマーが好む戦法だ。


「(ベターーン!!)ごめんなさーーぃ!!」

「はぁ?」

「いや、だから…、迷惑かけて、ごめんなさいって」

「その、光っているのは?」

「これ? スーパーフライング土下座」

「アイ」

「はい、兄さん」

「やれ」

「はい、おまかせを(ニッコリ)」

「え? なんで!? ここからお涙展開が…、ちょま、今、MPもSPも使い切ってるんですけど!!?」


 相手が土下座していても容赦なく頭を叩き潰してくれる…、我が妹は今日も実に頼もしい。




「それでせっかくリードしていたのに、なんで諦めた?」


 あらためてニャン子の話を聞く。正直なところ、指導の話を強く責めるつもりはないので、自覚さえしてくれればそれでいいのだが…、それよりも戦闘をいいところで中断されて軽くイライラしている。


「いや、もう完全にネタ切れにゃし。戦略的降参ってやつ?」

「おまえ、勝って何かするんじゃなかったのか?」

「いや、勝敗よりも…、本気で戦ってアチシを認めてもらうのが目的だったと言うか…」

「それで、ネタを全部見せたところで降参か」

「ぶっちゃけ、手加減されていてもアレだけしか削れなかった時点で負けだにゃ」

「べつに、手加減をした…」

「スイッチ型の兄ちゃんが短剣1本しか使わないのは充分、縛りプレイだにゃ」

「ん、まぁ…」


 基本的に俺は有利な戦法で完封する戦い方は使わない。俺の目的は、あくまで強くなる事であり、勝つことではない。もちろん相手に何もさせない戦い方も重要だが…、それ以上に重要なのが多彩な戦闘経験だ。それは不意打ちへの対応力だったり、スキルの新たな使い方だったり。一見ネタとしか思えない技にも未知の可能性が潜んでいる。


 ランキングを勝ち抜くのに必要な事は、探求心と向上心を失わない事。勝てる戦法、奥の手やオリジナルスタイルを身につけ、下手にそれで勝ち上がってしまうと…、どうしてもソレに固執したり新たらしいものを吸収できなくなる。鞭を練習するのだって、一見遠回りでも、ソコに向上の可能性があるからだ。どうせ無駄を徹底的に省いた効率プレイをしても、カンストしたらソコで頭打ち。終盤はカンストしているのが当たり前になって、なんの価値も無くなってしまう。それなら攻略速度よりも、最終到達地点をいかに引き上げるかに勝負をかける。それが俺のスタイルだ。


「そんで、あらためて謝るにゃ。アチシ、兄ちゃんたちに依存し過ぎていたにゃ。指導の話も、本当は受ける気はなくて…、兄ちゃんに断ってもらうか、全部任せられたらって、勝手なことを思っていたにゃ」

「だろうな」

「保健所ですね」

「ぐにゃ。 アチシだって、そんな面倒なこと押し付けられたらキレてるにゃ。だから"ごめんなさい"にゃ。あと、指導の件は、ちゃんと断ってきたにゃ」


 なぜか目をそらしながら答えるニャン子。断ったのは嘘ではないだろうが…、相手と何かあったのだろうか?


「そうか…、まぁいい。それよりも中途半端な時間になってしまったな…」


 そういえば何をするか考えていたところだった。まぁ適当に近場でレベル上げってところか?


「兄さん、それならハウンド狩りはどうでしょう?」

「あぁ、そろそろCランク装備を市場に流してもいいころか。<防具作成>も開放しておきたいし…、よし! 来週の目玉商品はCランク装備でいくぞ!」

「はい」

「うぃ~」


 いぜんは倒すのに苦労したハウンドだが、今ならレベルも装備も適性域に入っている。手に入るアイテムも今なら高価で売れるが、最終的には安価な汎用装備になりさがる。それならライバルに先をこされる前に荒稼ぎして、勝ち逃げを決めこむのも一興。




 こうして今日は、3人でハウンドを狩って狩って、狩りまくった。

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