#142(21日目・午後・コノハ)

「それで、なんで呼び出されたか、理解している?」

「いえ…、なぜでしょう?」


 昼過ぎ。なぜか私はミーファさんに、酒場の個室ではなく…、人気のないフィールドに呼び出されていた。


 しかも、昨日見かけた怪しい2人を加えた合計4人の男性プレイヤーを引き連れている。とうぜん、今から伝令の仕事を説明すると言った雰囲気ではない。


「ふっ。まぁいいわ。とりあえず最初に言っておきますけど…、貴女、クビね」

「あぁ、そうですか…」


 正直なところ、すでに自警団への興味は残っていない。もともと無理やり手伝わされていたのも大きいが…、やはり1番の理由は、当初の目的だった、自警団やミーファと言う人物を知ることが叶ったからだろう。


「やはり、こうなることは予測済みだったようね。シラを切ると思っていたけど、話が早くて助かるわ」

「?」


 何の話だろう?


 てっきり昨日、適当な理由をつけてログアウトしたことが問題視されていると思ったのだが…、どうにも雰囲気が物々しすぎる。「急用が入った」と苦しいながらも理由をつけたので無断と言うわけでも無いのに…、一触即発? 今にも攻撃されそうな雰囲気は流石に行き過ぎている。


「お察しのとおり、すでに貴女が賊を手引きした犯人だと言うことは分かっているわ」

「はぁ…」


 なんでそうなるんだろう?


 もちろん私は、そんなことはやっていない。とうぜん証拠なんて出てくるはずもないのだが…、まぁ、まず間違いなく。そこの4人真犯人の入れ知恵だろう。


「口の軽いレイ下っ端に上手く取り入って私に近づいたところまではよかったけど…、ざんねん。貴女がセインとツルんでいたことは、もうバレているの」


 自信満々に力説しているが…、だから何?


 レイさんやセインさんからも説明されていたが…、やはり彼らはミーファ派閥から煙たがられているようだ。理由はすでに理解している。いくつか不可解な部分はあるが…、とりあえずの目的は達してしまったので、もう自警団に残る意味はない。いや、無い事も無いのかな?


「だから何だと言うのでしょうか? セインさんは団長さんと袂をわかったそうですが…、今でも陰ながら自警団に協力しています。そんな彼と、多少交流があったからと言っ…」

「黙りなさい! 白々しいウソに付き合うつもりはないわ。私は知っているの。あの男がEDに通じていることを! アイツは、せっかく築き上げた私の場所を、ぶっ壊そうとしているの! 見過ごせるわけないでしょ!?」


 後ろの4人のうち、何人かがEDのメンバーであることは間違いない。この女は、悪魔のささやきに惑わされただけの被害者。そういう見方も…、できなくはない。


「なにか証拠でもあるのでしょうか? 私が賊を手引きしたことや…、セインさんがEDに協力している証拠が」

「はぁ? バカじゃないの? ここはゲームよ? こんな場所で指紋とか探したって見つかるわけないじゃない」

「つまり、証拠はないのですね?」

「わかってないわね~。証拠なんて、ど~でもいいのよ。重要なのは"状況証拠"と相手が"使えるかどうか"。思い通りに動いてくれない問題児なんて必要ないと思わない? それなら疑わしくなった時点で用済み。この事は団長も了承済みよ」


 まぁあの人なら、疑わしくなった時点でクビにするのは理解できる。特に私は伝令役の補佐、ハッキリ言ってしまえば…、あの女がサボるための存在だ。それなら私にこだわる必要はない。


 この女、EDに利用されるだけあって、中身は相当に腐っている。EDに利用されているのは哀れだと思うが…、この女が腐っているのは元からであり、EDがいてもいなくても、やることは変わらなかっただろう。


「そうやって、自分の思い通りに動いてくれないセインさんも追い出したのですか? あんな嘘までついて」

「な!? はぁ!?? ぜんぜん意味がわからないんですけど~」


 ウソ下手すぎ!!


 結局この女は、事実や、相手の内面を見てはいない。「自分にとって都合がいいか」、それだけしか見ていないのだ。そうやって、邪魔なものを徹底的に排除して、自分のまわりを自分の快適な空間に作り変える。


「そうですね。私としては…、セインさんが"もし"EDに通じていたとしても、特にお付き合いを拒むつもりはありません。もし"協力してくれ"と言われれば"はい、よろこんで"と答えるでしょう」

「ふっ、とうとう化けの皮がはがれたわね。今の会話は録音させてもらったわ。これで貴女は名実ともに反逆者。もう、このゲームに居場所はないと思いなさい」


 ん?


 どうにも、この女の論理展開は私の理解力を軽々と超越してくる。自警団内に居場所がなくなるとかなら分かるが…、なんで全体規模で居場所がなくなるのだろうか? いちいち言っていることが矛盾していて話に集中できない。


 たぶんアレだ、この女は見ている世界が異常に狭のだろう。短絡的で短気。楽観主義で、他人まかせ。そもそも理由なんて何でいい。自分にとって都合のいい結論に繋がるものをその都度、脊髄反射で拾っているだけなのだ。


 見れば、後ろの4人は、口元をおさえて必死で笑いをこらえている。もう、犯人確定でいいよね? できる事なら…、立ち位置をかわってほしい。


「もう、それならそれでいいです。それで、この後はどうするつもりだったのですか? わざわざ人気のない場所に、護衛まで付けて呼び出したわけですけど…」

「ん~、色々考えていたんだけど~、貴女が素直に認めちゃったせいで、作戦が台無し。それこそ"あの男"に助けをもとめると思ったんだけどな~」


 あの男とは、セインさんのことだろう。別に倒されても現実の私は痛くも痒くもないので、助けを呼ぶ意味が分からないが…、一応、なにか嫌らしい手をいくつか考えていたのだろう。無い頭と、他人の知恵"に"使われて。


「そうですか、それでは失礼します。背後を襲いたければ…、どうぞご自由に」

「チッ! ムカつく女。さっさとアカウントを削除して、この世界から消えてちょうだい!!」


 さて、これからどうしたものか…。


 意外なことに…、今は不思議と脱力感を感じていない。とりあえず、こんどセインさんにあったら「PKのやり方」を教えてもらおう。




 そんな事を考えながら、私はその場をあとにした。

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