#141(21日目・午後・セイン)

「ふふふ、今日はずっと2人で過ごせますね」

「べつに、露店をしている時でも一緒にいるようなものだろ?」


 昼過ぎ。露店を切り上げ、今日はアイと2人で旧都の表エリアを巡回していた。難易度もそうだが、あいかわらず人が多くて効率の悪い場所なのだが…、そこをあえて堂々と人目につく場所で狩りをする。


「そうですね。無防備な兄さんの体をしk…、見守るのもいいですし…、ともに共同作業に取り組むのもいいです。実に悩ましいですね…」

「どうでもいいが、難易度に余裕があるからって油断するなよ?」


 今回はあえて武器のランクを限界まで落としている。とうぜん手数が必要になるので、油断していると魔物の湧きに押し切られる可能性もある。


「はい、もちろん。2人で一緒に、叩き潰していきましょう」

「お、おう」


 嬉々とした表情で…、魔物の手足を潰していくアイ。我が妹ながら、ちょっとどうかと思うのだが…、これでも性別を問わずアイはモテる。ドSと言うのか? こういう好戦的な性格が好みって人は実はそれなりに多いらしい。一応、俺も昔は運動部に所属していたので、自分を追い込んでいく高揚感は理解できるのだが…、痛みや罵倒を直接、快楽に変換できる人の思考はまったく理解できない。


「そう言えば、新しい装備の調子はどうですか? 正直に言って、今さら新しい装備を極めるのは…、その…」

「言いたいことは理解できるがな。まぁ、"熟練度"の足並みを揃えつつ、気分転換に挑戦しているだけだ。ぶっちゃけ、俺もそこまで期待している訳じゃない」


 アイの装備は耐久値を上げたEランクの鈍器の[クラブ]。俺も同じく耐久を上げた[ローズウィップ]を装備している。


 理由は武器の熟練度を上げるため。熟練度は、イメージ通り特定のカテゴリーの武器を使い込んで攻撃力などの補正値を向上させるシステムだ。攻撃力以外にも、攻撃スキルの覚醒条件だったり、スキル攻撃後のクールタイムを減少する(連続技がつながりやすくなる)などの効果がある。


 熟練度は、ジョブ経験値と獲得方法が似ており、特定の行動をくり返す必要がある。戦っている相手のランクによる熟練値の増加は微々たるものであり、重要なのは数をこなすこと。したがって熟練度上げには…、「わざと攻撃力の低い武器を使って、体力の高い相手をひたすら攻撃し続ける」のが碇石となっている。


「そう言えば兄さん」

「ん?」

「最近、コノハと言う女性PCと…、仲がいいようですね」


 背筋に冷たいものが走る。アイは相変わらず、交流の輪を広げるのは反対のようだ。基本的には俺もその意見には賛成なのだが…、さすがに完全に切り捨ててしまうのは、それはそれでリスキーだ。


「アレで仲いいように見えるのか? 都合がよかったから利用したまで。言って見ればギブアンドテイクの関係だろ」

「そうですか。まぁ兄さんがそう思っているなら、それでいいです」

「?」


 正直に言って、コノハは渡りに船、棚から牡丹餅だった。はじめは、「たまには初心者の面倒でも見てやるか」程度の軽いノリだったが…、彼女はなぜだか自警団に気に入られて、あっという間にギルド員に近い立場まで登ってしまった。


 偽装検問の囮役と言う名目で、一応使ってはいるが…、今後はスパイとしていい情報源になってくれるかもしれない。


「おい、あれ、セインじゃね?」

「いや、鞭を使っているし、別人じゃね?」

「でも、熟練度上げっぽいから、サブウエポンだろ?」

「おまえ、ちょっと声かけてみろよ」


 すれ違ったPCが、聞こえるか聞こえないかの声で囁く。俺もニャン子ほどではないが、知名度が上がってきたようだ。目立つのはあまり好きではないのだが…、今回はあえて人目に触れる作戦を使う。


「兄さん。その…、目立つなら、腕組などはどどど、どうでしょう?」

「ダンジョンで腕組は自殺行為だと思うぞ?」

「そ、そうですか…」


 何がしたいのかよく分からないが…、1人気づけば連鎖的に周囲も気づいてくれる。あとは目撃情報が掲示板などに書き込まれれば目的達成だ。


「あの、セインさんですよね! "手合わせ"してくれませんか!?」

「まじか! チャレンジャーだな!?」

「おい、録画ソフトもってるか!?」


 釣れた!


 知名度が上がってくると、中には自ら勝負を挑んでくる者があらわれる。呼び方は…、手合わせとかデュエルなど様々だが…、ようは「合意の上の決闘」だ。とうぜんデスペナやアイテムロストのリスクはある。しかし、合意の上なら指名手配される心配はない。アイテムに関しては、了承が取れれば仲間に回収してもらうこともできるのでノリのいいPCは結構挑戦してきてくれる。


「ん~、まぁ1試合くらいならいいか。アイテムや所持金は、今のうちに誰かに預かってもらえよ」

「うそ! マジで本物かよ!? いえ、アイテムは全部持っていってください!!」


 C√PCは意外にマナーがいいと言うか…、独特のノリの良さがある。半日分の経験値をロストしても、ランカーと腕試しできるなら儲けもの。とくに上位ランカーともなれば対戦しただけでも自慢になる。


 これは挑戦される側にもメリットがあり、同意でも相手をキルすればC値は増えるし、対人経験も稼げる。負けるリスクはあるものの、基本的に同格のランカーが挑戦してくることはない。C√PCとして本気で上を目指すなら…、こうやってわざと目立つプレイングもアリなのだ。


 因みにビーストは…、このプレイスタイルでC値を荒稼ぎして、おまけに動画で生活費まで稼いでいたりする。


「そうか、それなら俺もフル装備でいかせてもらおう」


 割れんばかりの歓声とともに、周囲で狩りをしていたPCたちが、手を止め、魔物が入ってこないように輪を作る。こう言うノリの良さはL√にはない醍醐味だ。




 結局その日はジャックポットマシーン状態になり、半日で50万ほど稼いでしまった。

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