#139(20日目・夜・コノハ)
「賊は森の中に潜んでいる! 手の空いている班で周辺を巡回しろ! 決して1人で行動するな!!」
「おっ、なんだかチャンスじゃね?」
「おっと、お前たちは逃がさないぜ!? こっちは数的有利がある。囮を使って部隊を分断する作戦のようだが…、残念だったな」
「チッ! よくわからねぇが、ここが踏ん張りどころのようだ! 皆、気合い入れろ!!」
「「おぉ!!」」
ボスの出現を間近にして、完璧だったはずの作戦に亀裂がはしっていく。致命的な状況では無いものの…、Gの人たちも予測していなかったように見えるのが非常に不気味だ。
「コノハちゃん、私たちも捜索班に加わるわよ!」
「え? あ、はい」
Gの人たちの戦闘も気になるが、ここにいても何ができるわけでも無い。仕方なく私も指示に従って捜索班に参加する。
幸いなことに、自警団は検問を中止して、集められる団員を全てゴブリン村に集めていた。この包囲網を抜けてきたのは驚きだが…、さすがにこの人数で捜索すれば何とかなるだろう。
「ミーファちゃん! 俺たちと行こう」
「マップにはゴブリンを隔離しているポイントが何ヶ所もある。たぶんそのあたりに潜んでいるはずだから、これからはゴブリンも普通に沸くようになる」
私とミーファさんに加えて、男性プレイヤーが2名くわわり、合計4名のPTが編成される。他の団員も実力や職業に応じて、2~4名のPTで行動するようだ。
このエリアは、あらかじめ詳しく調べていたはずだが…、魔物を隔離するにあたって立ち入りを禁止しているポイントがいくつも存在する。それらの場所は、団員の代わりに魔物の目があり…、そこで魔物と戦えば魔物が他のエリアにも出現するようになる。賊が侵入したかは、それで判断できる"はず"だった。
「いっそ、私が纏めてゴブリンを一掃しちゃいましょうか?」
「いや、ゴブリンロードの特性を考えると、それはマズい」
「とりあえず俺たちは、視界の開けたポイントに陣取って探索班のサポートにまわろう」
*
背の高い木々が生い茂るエリアを進んでいく。
ボスのゴブリンロードが出現すると、マップにいる全てのゴブリンが強化され、さらに通常出現するゴブリンも特殊個体が増えて厄介になる。しかし、特殊個体の出現はマップに存在している魔物の数が一定数に達していれば抑制できる。つまり、すでに出現済みのゴブリンを倒さなければ特殊個体は出現しないのだ。
「ストップ! ゴブリンがスポーンしはじめている。賊は、やはり隔離しているゴブリンを解き放って混乱させる作戦のようだ!」
目の前に2体のゴブリン。これだけなら対処は簡単だろうが…、これから先、強化された個体が次々に出現する。そうなれば賊の捜索は、より困難になるだろう。
「ここは2人にまかせて、私たちは近くを探しましょ」
「あ、はい」
マップは"森"であり、死角はいくらでもある。一応、樹上などは侵入不可エリアになっているので、上を警戒する必要はない。とりあえず私とミーファさんの2人で、近くを巡回して、木の陰に誰か潜んでいないか見てまわる。
「しかし、なんで賊は、最初に団員を攻撃したんだろ?」
「え? それは…」
「普通に考えて、犯行現場を見られちゃったらお終いじゃない? それなら先にゴブリンを攻撃するのが安全だよね?」
突然、推理を始めるミーファさん。言っていることはもっともだが…、失礼な話、この人が頭を使っていることに、若干驚いてしまった。
「それはまぁ、いろいろあると思いますよ? 犯人にとって、どうしても倒しておきたい人を倒せるチャンスだったとか…、人数が少ないから団員にもゴブリンを倒して回るよう誘導するためとか…」
「あぁそうか、いやまぁ、それくらいは私も予測していたけどね」
「 ………。」
あとは、団員の中に裏切り者がいるパターンだ。その場合、最初に警告した…、いわゆる第一発見者が怪しくなる。
「おまたせ! 先を急ごう!!」
「もう、ボスが出現する頃だ。このあとは、攻撃を回避したり、フェイントなんかも使ってくるから気を付けて!」
「はい! やっぱり皆さん、頼りになりますね~」
「「いや~、それほどでも~」」
「 ………。」
なんだろう、この言いようのない不安感。どうにもこの人たちからは"お遊び感"を感じてしまう。セインさんやスバルさんとは、あきらかに違う。気の持ちようからして根本的に違うと言うか…、たぶん、EDの人たちに遭遇しても勝ち目はないだろう。
「まずいな…、どんどんゴブリンが増えてくる」
「おい! ボスが出現した! いったん戻るぞ!!」
「「はい!」」
「(えぇ!?)」
団長から指示が出たらしく、作戦を変更してボスの出現エリアに舞い戻る。あの人、判断は早いのかもしれないけど…、考え方が「その場その場」であり、見通しが甘い。これでは大勢で悪戯にゴブリンを解き放っただけだ。
「そ、その! 捜索隊で、誰か倒された人はいるんですか!?」
意を決して叫んでみる。こんなに大きな声を出したのは、何ヶ月ぶりだろう…。
「え? あぁ、戦闘に夢中で、ログを見てなかった」
「まずい! このあたりで何人かキルされてるぞ!!」
「え、本当ですか!?」
2人はともかく、なんでミーファさんまでチェックしていないの!?
ダメだ、今なら少年探偵の気持ちがよくわかる。
「おい! 招集がかかっているぞ、早く集まれ!!」
「犯人はもう移動したみたいだ。さっさと行くぞ!」
あからさまに怪しい2人がやってきた。見たところ自警団の団員のようだが…、これが漫画なら犯人確定だろう。
「あぁ、すまない。さっきまでゴブリンと戦っていて反応が遅れた」
「まぁいい、むこうが心配だ。すぐに合流しよう!」
「「おう!」」
「はい!」
「 ………。」
走り出す5人の背中を無言で見送り、ログアウト処理をおこなう。
「戦闘エリアでのログアウトは…」と警告メッセージが出るが、当然それも無視する。そして一言。
「すみません! リアルでちょっと!!」
「え!?」
「ここでログアウトす…」
制止の声を無視してログアウトしてしまう。
*
…なんなんだろ?
自分でもよくわからない気持ちが渦巻いていて、突然どうでもよくなってしまった。
私はVRマシンをはずして…、そのまま眠る。眠れる気はしないけど、形だけでも眠る。
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