#138(20日目・夜・コノハ)

「おいおい、いくらなんでも多すぎだろ?」

「もう、自警団改めゴキブリ軍団にしたら?」

「G警団ってか? ウケるわ」


 軽口をたたきながら現れたのは全身黒ずくめの装備で統一した12人のプレイヤー。雰囲気がかなり違うので、どうやらEDの人たちではないようだ。


「ふっ、鏡を見てから言うんだな。どちらがゴキブリじみているか。皆の諸君、この者達はどうやらEDのメンバーではないようだ。今からこの者達を"G"と呼称する!」

「あぁ? んだてめー!?」

「すっぞこらー!!」


 自警団は、襲撃してきた…、G?を制止せずにボスのところまで素通りさせた。配置した自警団のメンバーの殆どは初心者であり、戦闘になった場合、勝ち目はない。無駄な抵抗をしない意味もあるが、本命はGを最奥まで引き込むことにある。


 団長がGの言葉を聞き流しながら、手をかかげて合図をおくる。それにあわせて対人班がGから一定の距離をとりつつ包囲する。


「はぁ? なんだてめーら、進路妨害でもするつもりか?」

「お前たち、指名手配の条件は知っているか?」

「はぁ? なにを今更、そんなもん…、チッ! そういうことか」


 すぐに察したのかGの人たちの表情が険しくなる。√落ちや指名手配は、あくまで相手をキルするのが条件。だからボス戦が困難になるくらい体力を削っても問題は無いのだ。これによって、Gの人たちは「むこうからは攻撃してこない」と言う保険を失った。


 前回は、前衛部隊にわざとボスの攻撃を受けさせたせいで、前衛部隊と回復部隊が機能しなくなってしまった。しかし、今回は最悪の事態を回避する事に注視した。Gが自警団を無視してボスをとりに行くなら、ボスの手助けをする形でGを襲う。逆に自警団を先に狙うなら数の暴力で押しつぶす。


 戦闘がもつれて乱戦になった場合。正当防衛判定をいちいち気にしながら戦わないといけないGに対して…、自警団は、適当に体力を削りながら、間違って判定を持っていない団員を攻撃してくれるのをじっくり待つだけ。有利なのは火を見るより明らかだ。


「さあ選べ! 我々を相手にして死ぬか、ボスと我々を相手にして死ぬか!!」

「ザコの分際で、ちょーしこきやがって!」

「けっ、正義の組織とか言っておきながら、やることは大勢で取り囲んで袋叩きかよ。これじゃあどっちが悪者か、わかんねーな!」

「ふっ、せいぜい吠えるがいい。貴様らのような悪党には…、はじめから勝ち目は無かったのだ!」


 いや、犯罪者かどうかは勝敗とは関係ないと思うんだけど?


「チッ! しかたない、ボスが出現する前にコイツラを片すぞ。なに、いくら数を揃えても、しょせんは初心者のあつまりだ」

「むしろ面倒がなくていいや。やるってんなら相手になろうじゃないか!」

「だな、むしろボーナスゲームだぜ!」


 Gはどうやら誘いにのってくるようだ。√落ちを覚悟しているとは言え…、できることなら√落ちは最小限にとどめたいので、相手から仕掛けてくるパターンが理想だ。


 一応、Bプランとして、包囲の外から弓で挑発する作戦もあったが…、出番は無さそうだ。


「どうやら俺の出番のようだな。俺も面倒な腹の探り合いは好きじゃない。正々堂々、正面対決でいこうぜ!」

「なにが正々堂々だ。こんな汚い罠を使いやがって!」


 相手が直接戦闘に切り替えたことにより、ボス班のコロッケさんも対人班に合流する。こうなればボス戦はオマケだ。単純な「自警団対G」の構図が出来上がった。


「フッ、攻めて来たのはそっちだろう?」

「んだこらー!」


 睨み合う両者。Gの人たちは、腹をくくったわりには、なかなか攻めてこない。


 犯罪判定の事もあるが…、どうにもGの人たちは自警団の数に物怖じしているように見える。


 その均衡を破る一押しが団長の合図とともに放たれる。


 射程ギリギリから放たれた矢が、大きく弧をえがいて…、Gの足元に突き刺さる。


「な! クソ、やるぞ!!」

「「「おぉ!!」」」


 やっと戦いが始まる。


 とは言っても私に仕事はない。一応、負けそうになったら逃げる事になっているが…、さすがにこの人数差なら負けることはないだろう。





 あれから10分ほどたっただろうか…。


 まだ戦いは続いている。最初こそ人数差に戸惑っていたGだが、戦闘がはじまるとすぐに調子を取り戻してきた。この人たちも何だかんだ言って腕には自信があるようで…、すでに団員を8人も倒している。対して倒せたGはたったの2人。


 しかし、自警団の補充要員は、まだいくらでもいる。団員が何人倒されても、補充が間に合うペースなら、何も問題ないのだ。


「チッ! 多すぎだろチクショー」

「そろそろバテてきたか? それなら、これはどう…、だ!」

「ぐっはっ!!」


 ついに3人目。そして、最初に団員が倒された時点で数名が通報に向かったので…、そろそろ指名手配も完了するころだ。


「くそ、誰だよ、弱いって言ったやつは…」

「ふっ、俺だって伊達にランカーをやっていたわけじゃないってことだ!」


 特に活躍が目立つのはコロッケさんだった。彼は大勢での戦いが本当に上手い。うまく負担を仲間で分散しあって、油断したところで大剣の攻撃で1人ずつ確実に仕留めていく。


 今回の戦いは終始、自警団が自分たちの強みを生かして優位に運んでいる。ボスが出現するまで若干の猶予があるし、勝負は決まっただろう…。


 そう、思った瞬間…。


「おい! 後ろだ! 誰かいるぞ!?」


 それまで、目の前の戦闘に意識を集中しすぎて、完全に背後が疎かになっていた。


「マズい! 奇襲だ、Gと交戦中の班は戦闘を維持しろ! ほかの班は賊をあぶり出せ!!」


 完全にエリアを占拠していたはずなのに、気づかないうちに背後の森から矢が飛来した。一応、特殊個体のゴブリンに弓を使うものもいるが、ボスはまだ出現していないし、なによりゴブリンなら姿を晒したまま攻めてくるはず。


 一瞬、周辺に待機している団員が全員倒されたのかとも思ったが…、考えてみれば倒されてもリスポーンするだけなので通信は普通にできる。それがないという事は、本当に誰も気づかないうちに侵入されたという事だ。




 こうして、自警団有利の局面は、突如揺らぎはじめた。

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