#137(20日目・夜・コノハ)

「 …! 手の空いているものは、もう1度エリアを巡回して潜んでいるプレイヤーが居ないか確認しろ!!」

「「はい!」」


 夜、ゴブリン村はEDの人たちの襲撃に備え、物々しい雰囲気につつまれていた。


「それじゃあ、説明した通り、アナタは緊急連絡を下位メンバーに伝えてちょうだい」

「え、私がですか…」

「なに、難しく考えることはない。ただコピペして送信するだけだ」

「は、はぁ…」


 そして、物々しい雰囲気をよそ目に、なぜか私は、ミーファさんとコロッケさんから、伝令役の仕事について説明を受けていた。正確には伝令役補佐らしいのだが…、ようはミーファさん直属の雑用係だ。


 なぜ、レイさんなどの既存の伝令役の人を差し置いて、新人どころか…、"見学に来ただけ"の私が、こんな重要そうな役職を与えられているのかは…、よくわからない。もしかすると、面倒な仕事を押し付ける相手が欲しいだけなのかも…。


「私はモデルの仕事でインできない時も多いから、その時は…、というかインしていても忙しいから、細かい仕事はできるだけ自己判断で処理してちょうだい。分からない事があったらすぐに誰かに聞くこと! …。…。」


 ことあるごとに"モデルの仕事"を引き合いに出すミーファさん。ここまで強調されると逆に怪しく思えてしまう。


「おっと、ゴブリンだ。2人とも下がって!」


 目の前にあらわれたのは3体のゴブリン。一応、この時間は魔物を倒さずマップ端に隔離しておく事になっているのだが…、当然、完全に出現を管理する事はできない。


「時間稼ぎならできるので、コロッケさんは確実に1体ずつ処理していってください」

「え? 大丈夫なのかい!?」

「アナタ初心者なのよね? 戦えるの??」


 [レイピア]を抜刀して、私も戦線に加わる。いくらコロッケさんがランカーでも、相手が私とミーファさん、両方を狙ったら、体1つではどうしようもない。


「はい、時間稼ぎだけなら…、なんとか」


 セインさんやスバルさんほどではないが、私も指導のおかげで、それなりに戦えるようになった。


「わかった! そっちはまかせたぞ!!」

「は、はい」


 大剣使いのコロッケさんにとって、的が小さくて素早いゴブリンは苦手な相手だ。攻撃が当たりさえすれば1撃なのだが…、横なぎが相手の頭上を空ぶってしまうような相手は、どうしても処理に戸惑ってしまう。


 それでも、うまく攻撃のスキをついて確実に1体ずつ処理していくコロッケさん。セインさんやスバルさんなら、とっくに倒しているだろうが…、1撃の重さはコロッケさんの方が上。たぶん本来は、もっと大型の魔物を相手にするための装備なのだろう。やはり同じランカーでも仮想敵が違うと相性も変わってくるようだ。


 ほどなくして無事にゴブリンを倒し終える。私は結局、逃げ回りながらスキを見てチクチク攻撃していただけで終わった。


「アナタ、強いのね」

「え? いや、そんなことはないと思いますけど…」

「いや、才能あるよ。レベルもあるから攻撃力は仕方ないけど、相手の動きを見切って完全に場を支配していた。こういう能力は操作するプレイヤーの問題だから、いくらレベルを上げても補えない。そう言う意味で、キミは大切なものを最初から持っていると言えよう」

「はぁ…」


 言われてみれば、ドッチボールでボールを避けるのは得意だった。しかし、肝心のボールをとったり、相手にぶつけたりする能力はなく、何の役にも立たないと思っていたが…、どうやらこれも1つの才能らしい。


 そんなやり取りをしていると、2人が急に険しい顔をしながら宙に視界をやる。


「コノハちゃん、C√PCの襲撃だ。まだ相手がEDかどうか分からないけど、急いで皆と合流しよう!」

「え、は、はい!」





 ボスの出現エリアに到着すると、すでに大勢の団員が集まっていた。EDの襲撃があった日から、自警団は検問を一時的に中止してまでボス討伐に注視している。


「 …! 多少被害が出てもかまわん! キルしたPCを確実に指名手配するのだ!!」


 広場では団長が作戦の最終確認をかねて、団員に喝を入れている。


 EDの人たちの襲撃に対して、自警団がとった作戦はこうだ。

①、エリア外にも広く団員を配置して、指名手配することを第1優先にする。森3だけでなく、2や1、さらにその周囲のマップにも団員を配置して、なんとか目撃者をNPCがいるところまで逃がす。


②、実行部隊の選出。最悪の場合、相手が攻撃してくるのを待たずしてコチラ側から仕掛ける部隊を編成した。もちろんキルを狙いに行くつもりは無いが、充分に体力を削っておけばボスがトドメをさしてくれる。最悪、キルする可能性もあるが、そこはN√の協力者をつのって解決した。


③、PT編成の見直し。魔法班を解散して、回復班と"ボス班"と"対人班"に部隊を分けた。ボス班にはボスが出現したら全力でボスを攻略してもらう。しかし、その班はPTで連結させていない。各班の誰かが攻撃を受けた場合、その人とPTを組んでいる対人班が襲撃犯を対処する。ボス班や回復班は、そのままボス戦に専念してもらう。


 構成は、

ボス班:4名×1

回復班:4名×1

対人班:4名×8


 となり、さらに周辺に目撃判定をもって走る、伝達班が無数に待機している。




 自警団はこの構成で襲撃に挑む。

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