#136(20日目・午後・ユンユン)
「みんな、伏せて!!」
「「はい!!」」
頭上を、紅に輝く光の矢が一直線に駆け抜けていき…、
顔面に火属性魔法を受けた"マンティス"が、のけ反りながら光になって消えていく。
「 …やったね」
「ははは、たおせたね~」
「はい、完全勝利です!」
「「「いえ~ぃ!!」」」
「みんな、おめでとう。まさか本当に倒せちゃうとわ」
ノリノリで勝利を祝福しあう3人のテンションに乗り切れないながらも、内心では私もかなり感動していた。
「それじゃあキリもいいし、今日の撮影はココまでにしようか」
「そうですね」
「はい、 …「「「お疲れさまでした~!」」」」
気分よく、撮影が終了する。一時は一般ウケを意識するあまり…、ハッキリ言ってしまえば「わざと手を抜いた」攻略をしていた。たしかに女の子がドタバタ騒ぎながら戦い、キャーキャー言いながら失敗する姿は面白い。結局のところ、L&Cプレイヤーしかわからないマニアックな内容にするよりも既存プレイヤーをある程度捨てて、大勢の人に分かりやすい内容にした方がトータルの再生数は稼げてしまう。
しかし、そんなプレイはやっていてあまり面白くない。ゲームとは言え、やるからには勝ちたいし、ミスしているところを見られるのも気分が悪い。それでも生活のため、道化であることを受け入れていたが…。
「うん、やっぱり魔法が使えると違うね」
「はい、無理してでも装備を揃えて正解でした」
「役割分担はRPGの基本だからね~」
しかし、今は違う。手始めに「店売りアイテムと自分たちで入手したアイテムしか使わない」縛りをやめた。そして露店で安価な魔法装備を購入して、私とミコトを後衛に配置転換した。
これによって一番の事故原因だったスペック不足によるミコトの事故死がなくなり、私も本来のポジションであるヒーラーとなり、PTの安定感は格段に向上した。その分、前衛の技術的な負担は増加したが、小麦の上達や、人数が減って逆にノビノビ動けるようになったアルミの活躍により、うまくPTとしてバランスを保っている。
「それで、全員転職可能レベルを超えましたけど、どうしますか?」
聞いてきたのは小麦。撮れ高こそ減ってしまったが、それとは比べ物にならないほど経験値効率が増加して(最低レベルのミコトも含めて)あとは転職試験を受けるだけの状態だ。
「そのことなんだけど…。転職はしないで"認定"でいこうかなって思うの」
認定とは、特定のギルドに加入しないでセカンドジョブを獲得する方法だ。L&Cはゲームでは定番の「ギルドに加入してスキルツリーを順番に解放していく」パターン以外にも…、ファンタジー小説のように、対応した行動をとることでスキルを自力習得する方法も用意されている。この場合、必須スキルを覚えた状態で試験をクリアすれば、ギルドに加入することなくセカンドジョブの称号をえることができる。
当然、普通にギルドに加入した方が早く必要なスキルを覚えられる。しかし、ギルドに加入すると、そのギルドの制約を守る必要がある。普通にプレイする分には困る制約は滅多にないが…、教会なら相手が犯罪者であっても殺人はNGとか、商人なら何かとお金をとられたりする。
自力習得は、一応、スキルツリーを無視して必要なスキルを直接覚えることもできるなどの利点はあるものの…、基本的にはC√攻略のためにあると言って差し支えない。特にヒーラーはギルドに加入してしまうと殺人が全面禁止になってしまう。これでは人外転生に必要なC値を稼ぐ足かせになってしまう。
「やはりCルートでいくのですね。私たちは、それならそれで、かまわないと思っています」
「L√のクエストは動画映えしないって言われてるみたいですしね。すこし視聴者さんの反応が気になりますが…、まぁ私も正直なところお使い系クエストはあまり好きでないので賛成です」
「まぁ、自分はもともとC√なんで、ぜんぜんOKっス!」
3人はやはり賛成してくれるようだ。
実際のところ、視聴者から見て1番退屈なのは…、「かわり映えのしない戦闘シーン」よりも、「だらだらと長い話がつづくイベントシーン」の方だったりする。編集する側としては、何度も戦っている相手との戦闘シーンは真っ先にカットしたくなるのだが…、実際に話を聞いてみると戦闘シーンは繰り返し見ても退屈感はあまりないらしく…、それよりもゲームのシナリオ自体に興味のない人が意外に多く、そんな人にとっては(初見であっても)イベントシーンは退屈極まりないらしい。そう言う感覚は、投稿者として忘れてはならないと思う。
「そう言えば、ミコ、お姉さんにコーチしてもらう話、どうなった?」
「そうでした、是非! リンお姉様とご一緒したいです!!」
あぁ、前に話していた、アルミのお姉さんか…。
アルミのお姉さんはL√のランカー"らしい"。姉なのになんで知らないんだって話だが…、どうにもそのへん、お互い距離をおいているようだ。まぁどこの兄妹もセインのところみたいに仲がよかったら気持ち悪い。よくわからないが、そう言うものなのだろう。
それはともかく、どうやらそのランカーに戦闘の指導を頼めないかと言う話になっているようだ。
「ん~、それがさ~、なんかスネちゃって、口きいてくれないんだよね~。ごめん、すぐには無理かも」
「え! いったい何が!? これは直接会って、お話を聞かなくては!!」
みょうにノリ気な小麦。この子の場合、単に年上の女性と仲良くなりたいだけのような気がする。
「いや、どうなんだろ…、なにがあったか知らないけど、そっとしておいてあげたほうがいいんじゃない?」
「私、リンお姉様と、もっと親しい関係になりたいのです! もしリンお姉様に悩みがあるのなら、一緒に悩んで、少しでもリンお姉様の悩みを晴らしてさしあげたい!!」
眩しい! 若さが眩しい!!
くそ、青い春と書いて青春なのか? 随分、百合百合しい青春だけど。私的にはプライベートな部分もあるし、そっとしておくのが1番だと思ってしまうが…、こうやってブツかっていけるのは"若さ"なんだろう。
とは言え、非常に気はすすまないが…、保護者?として、これだけは言っておかないといけない。
「あんまりこういう事言いたくないんだけど…、あまりリアルのツテで人を呼ばないでほしいんだけど…」
「え? ダメですか??」
「えっと…、忘れてると思うから言っておくけど…、何のためにVRアバターでプレイしたり、本名を隠しているか、考えてほしいの。そうやってリアル経由でどんどん輪を広げていくと、個人情報が漏れて、ストーカーの問題とか出てくるし…」
「そんな、リンお姉様はそんなことをする人ではありません!」
ん~、どう説明したらいいものか。一応、動画に出演していることは秘密にするよう言っておいたのだが…、どうにも、ネットでの活動が浅い人は認識が甘いようだ。
「そうかもしれないけど…、皆は、お姉さんに協力してもらった事を口にしない自信ある? さっきからオープンで話しているけど、アルミのお姉さんがランカーで、家族構成とか…、ここに集まっているお兄ちゃんたちがバッチリ聞いちゃっているんだけど?」
撮影は終了したとはいえ、戦闘エリアで迂闊にログアウト処理をするわけにもいかず、今は全員で安全エリアまで移動している。その中には、とうぜん撮影班の親衛隊も含まれるわけで…、すでに個人情報はしっかり漏れている。
だから本名や学校行事の話はしないように言ってあるのだが…、それでもこういうタイミングでは気が緩んでしまう。
「え、あぁ…、それはその」
「もちろん、友達とかを誘ってプレイするのがダメってわけじゃないんだけど…、動画のこととか、情報管理の重要性について、もうすこし考えてほしいかな…」
なんとかオブラートに包んで言ったつもりだけど…、どうだろう? ハッキリ言って、家族とは言え勝手にアポをとったのは契約違反だ。もし、この子たちの個人情報が漏れたとして、私には助けてあげることはできない。
ボランティアで出演を頼んでいる手前、あまり偉そうなことは言えないが…、やはりその辺のことは、最初にしっかり言い聞かせておくべきだった。
その後は見事に気まずい雰囲気になり…、結局、うやむやのまま解散となった。
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