#132(19日目・午後・セイン3)

「 …よし、こんなもんか」

「ん? 何してたにゃ?」

「あぁ、"知り合いがPKに襲われたから、やり返したけど、悪く思わないでね"って、EDにメールしておいた」

「完全に当たり屋にゃんですけど…」


 夕方。ミーファとの面会も終わり、俺たちは余った半端な時間を利用して"自警団狩り"が出没しているエリアに来ていた。


「セインさん! こっちは何とか対処できました!!」

「ん? あぁ、おつかれ」

「はぁ~、しかし、まさかセインさんが協力してくれるとは…、その、意外でした」

「まぁな」

「はぁ…」


 報告に来たのは"一応"自警団の団員であるレイ。


 俺たちはレイの口利きのもと、勝手にダミーの検問を設置して、"自警団狩り狩り"をしていた。


「あの…、こんな感じで良かったのでしょうか?」

「あぁ、悪かったな、いきなり無茶な事につき合わせて。動きはよかったぞ」

「ふぅ、コノハさん、引き際の見きわめが上手いですね」

「いえ、私なんてコレしか…」


 遅れてやってきたのはスバルとコノハ。スバルはともかく、コノハはレイをつかまえに行ったら、ちょうどログインしてきたので囮役として採用した。


 作戦はこうだ。

①、C√PCの活動圏で、自警団の格好をして偽の検問を設置する。EDかどうかは判断できないが、自警団の狩り方は動画で周知されているのでC√PCはカモとばかりに仮面を装備して襲ってくる。


②、レイかコノハに仮面のPCを攻撃させる。当然、C√PCは反撃してくるが、その攻撃はスバルが割って入って受ける。スバルはPTを分けているので攻撃を受けることにより、スバルに正当防衛の判定が付く。


③、あとはスバルが1人で対処する。もしスバルが苦戦するような相手なら、少し離れた場所に控えている俺やニャン子が加勢する。さすがに俺やニャン子は顔がわれているが、スバルなら知名度が低いのでC√PCも油断して襲ってくれる。


「さて、ここは撤収するか。次は…、もう無理か? じゃあ解散で」


 はじめたのが遅かったこともあり、結局2回しかできなかったが…、まぁ充分だろう。


「「「 ………。」」」

「ん? あぁ、おつかれ。あとは自由行動で」

「えっと、俺はまだ時間があるから、ちょっと話を聞きたいなって…」

「その…、できれば私も…」


 半端な時間に区切りがつくと、解散しづらい雰囲気になるのはネトゲあるあるだ。


 それはともかく、レイとコノハは俺が自警団に協力した理由を知りたいようだ。対してニャン子やスバルは、とくに理由は気にしていないようだが…、なんとなく帰りづらい雰囲気で残っている。


「結局、ミーファちゃんの申し出は断ったんですよね? それなのに自警団に協力して。素直に協力してもらえれば自警団から報酬だって出たはずです」

「別に、コッチは人外転生を目指しているからな。C値を稼ぐのに丁度いいから利用したまでだ」

「またまた~。セインさんたちの腕なら、こんな手間をかけなくても転生条件は満たせるでしょうに」

「嘘はついていないさ。しかし、今の自警団を助ける価値は感じないのも事実。それは報酬の問題ではない」

「その…、自警団の、何が問題なのでしょう? 私、昨日はその…」

「コノハちゃん、昨日は見学でゴブリン村にいて。EDの襲撃にあってるんですよ」

「なるほどな…。俺はもともと有償で自警団に協力していたが……


 動画にそれらしい人影が写っていたので、もしやと思ったが、やはりコノハだったようだ。


 俺は、もともと偽装でL√PCの立場からC√PCを狩る予定だった。うまく襲撃を利用して"仕方なく"√落ちしたと思わせ、N√に転向…、ここまでは予定通りだった。しかし、そこから自警団に嫌気がさして"仲たがい"と言う形で自然な流れでC√に転向した。


 これによって表向きは"被害者"となり、過剰にヘイトが集まるのを回避した。もちろんセクハラやチートの疑いは完全に晴れていないが…、そこまでやるとヘイトが下がりすぎる。今の立場は、そのヘイト調整に適しており…、自警団と和解できない理由の1つにもなっている。


 当然ソレは言えないが、都合のいい事に俺はミーファに目の敵にされ、団長とも活動方針で対立している。周囲には2人に迷惑している被害者に見えているだろうが…、情報戦において、俺自身は結構2人の存在に助けられていたりする。こっちは積極的に出していける理由だ。


 )……そんなわけで、団長とミーファ。この2人がいるかぎり、俺は今の自警団をそのまま助けるつもりはない」

「その、ミーファちゃんがセインさんの悪い噂を流していた真犯人って…」

「まず間違いない。そして…、その現場を目撃していたのがラナハだったんだが…」

「え!?」

「「?」」

「いえ、なんでもありません…」

「ラナハのアバターはデリートされてしまった。さすがにアカウント凍結されたわけじゃないだろうから、何らかの理由で自らデリートしたんだろう」


 フレンドリストにあるラナハの名前は黒色で表示されている。これは、現在そのキャラクターが完全に使用不能になっていることを意味する。この表示が出るのは2パターンしか存在しない。


 1つは重度の不正行為をおこない、アカウントそのものが完全凍結されてしまったパターン。一応データはメーカー側に保管されているらしいが…、凍結された時点で証拠は完全にそろっており、ユーザーの再審請求で凍結が解除された事例は存在しない。


 もう1つが、本人の意思でアカウントやアバターをデリートしたパターン。転生して名前が変わった場合は灰色表示になり、フレンドリストやギルドの所属情報は引き継がれる。しかし、指名手配や育てたキャラが気に入らなかったなどの理由でデリートしてしまうと、フレンドなどの情報は引き継がれず、連絡をとる手段もなくなる。


「それじゃ…、そのラナハさんは、ミーファさんの秘密を知ってしまったために、キャラを削除されたと?」

「アバターを削除できるのは本人か運営だけだ。つまりラナハが自分の意志でアバターを削除したことになる。詳しい理由は分からないが、そうせざるをえない状況に追い込まれたか…、あるいは何もかもどうでもよくなるような事がおこったか…」


 そのあたりの事情を知っていそうな人物に心当たりはあるが…、俺は正義感を無駄に振りかざすアニメの主人公ではない。気にはなるが…、「真実を明るみにして全ての問題が解決する」シナリオは俺にとって都合が悪い。




 結局その場は、時間になるまでグダグダと話し込んで終わった。

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