#131(19日目・午後・ミーファ)
あぁ~、ユウウツだ。なんで私がこんな事をしなくちゃならないんだろう?
心の中でボヤキつつも、あらかじめ指定しておいたIDを入力して酒場の個室に入る。
「やっと来たか。もう少し遅れていたら帰るところだったぞ?」
「いや、まだ待ち合わせの時間まで余裕があるんですけど?」
「1分前を余裕とは言わん」
そこに座っていたのは疫病神のセイン。こいつはモデルのツテや女性キャラクターに惑わされないインポ野郎だ。
「間に合っていればいいじゃない。こっちだって色々と忙しいのよ」
「どうせ、俺が呼び出しに応じるなんて思っていなくて油断したんだろ?」
「うっ…」
そう、ギルドの命令でインポ野郎を呼び出したのは私だ。現在、自警団ギルドには伝令役が私しかいない。本来なら堅物のラナハに丸投げするところなのだが…、あろうことかあのバカは自滅して勝手にクビになってしまった。
アイツは私がインポの悪い噂を流した張本人だと勘づいていたから、どの道追い出すつもりだったけど…、せめて後任を見つけるまでは待ってほしかった。もう、あの新人でもなんでもいいから、とりあえず雇って仕事を押しつけないとダルくてやっていられない。
「それで、用件は何だ? 大体予想しているが…、お互いの精神衛生のためにも手早く話を終わらせないか?」
なんで今さら呼び出しに応じたのか。コイツ、本当に思い通りに動いてくれない。私の人生でも1、2を争うほど苦手なタイプだ。
こんなヤツ、さっさとゲームから追い出してやりたいけど…、セクハラ疑惑をかける作戦は失敗。むしろ私が迷惑行為でアカウントブロックされてしまった。このゲーム、迂闊なことをするとすぐに叩きだされてしまう。
「えっと…、団長からの伝言って言うか、要望です。自警団がアナタを
「遺恨じゃないのか? 恨みつらみって意味だ」
「そのインコだかイコンは水に流して、自警団に戻ってきてくれないか…、だって。えっと、それなりの待遇、あとは装備なんかも出せる限りは出すってことらしいわよ」
「期待していなかったが…、あの団長に、組織のトップとして謝罪とか"自分が悪い"って意識はないのか?」
「ないわね。あっ、今の無しで。録音とか、してないでしょうね?」
ついうっかり本音が漏れてしまった。ハッキリ言って団長は、自分のことしか考えていない、ただの自己中だ。一応それなりに優秀で、生活には困っていないようだが…、なんでそんなクズがこのゲームをやっているのかは分からない。おおかた、部下に見捨てられてリストラされた中間管理職とかだろう。
「無駄な質問だな。もし録音していたとして、それを言うはずがない」
「あっそ! それで、どうなの? 一応、まだ資金や装備は結構あるんだけど」
昨日の襲撃で、かなりの損失が出たものの…、まだ組織の運営が傾くようなことはない。問題なのは自警団のイメージや、これからの運営だ。
ここは団長に頭を下げてもらって、元勇者やインポ野郎を何としてでも組織に引き込まないといけない状況なのだが…、あのバカは命令するだけで自分が頭を下げるとか、そもそも自分のやり方に問題があったという認識がない。失敗は全部、団員の不始末で、自分はその尻拭いをしてやっている程度にしか思っていない。
アイツは"団長"のポストをアドバイザーとか、顧問弁護士?程度にしか考えていない。完全に人選を間違えているのだが…、だからと言って他に適任もいない。しょせんはゲームであり、集まっているのはガキかニート、ぶっちゃけただのゴミ溜めだ。
「興味ないな」
「でしょうね!」
キレそう。なんでコイツ、いまさら来たの? もしかして私への嫌がらせ? もしかして…、ラナハから私の事、聞いてる?
あり得る。私のカモフラージュは完璧だった。アカウントロックはされたけど…、それは他のプレイヤーに分かるものではない。それなら殆ど接点のない私が容疑者にあがるのは不自然だ。
あれからラナハはまったくログインしていない。てっきり辞めたと思っていたが…。どうやら最後に嫌がらせを残していったようだ。
「それで、断られた場合はどうするつもりだったんだ? この結果は予想出来たものだろうし、まさか、これだけで終わりってことはないよな?」
面倒なことになった。本当に、クズはどこまでいってもクズだ。もう、こんなゲーム辞めてしまいたいけど…、ほかに行くあてもない。
聞いた話では、ネットゲームにハマっている童貞は簡単に騙せるって話だったのに、やってみるとなかなか難しい。結局いろいろ試したが、ほとんどお金のかからないところで軌道にのったのはココだけ。今更、水商売やAVの仕事はやりたくない。男を手玉にとるのは得意だが…、根本的にバカな男に媚を売る仕事はやっていられない。かと言ってモデルの仕事は年齢的に限界だ。なんとかアラサーになる前に「楽して稼げる収入源」を確保しなくてはならない。
そんな中で見つけた動画配信で稼ぐ話。年齢でモデルを辞めた先輩の多くは、結婚したりホステスになったりしたらしいが…、なかには動画配信で毎日遊んで暮らしている人もいるそうだ。話を聞いた時「これだ!」っと思ったが…、これはこれで下地作りが異常に面倒だった。なんとかここまで来たのに…、ここで自警団に潰れられては、またフリダシだ。
「えっと、表向きは敵対ギルドのままでもいいから、EDのメンバーを暗殺できないか? だって。アンタならアイツラに勝てるんでしょ? どうせいらないって言うんでしょうけど、個人的に出せるものなら協力するわ。それこそ…、現役モデルの個人情報とか、その…、体も、考えなくもないわ」
ユウウツだ。なんで私がこんなことまでしなくちゃいけないんだ。もちろん、現実でデートするとかヤラせてあげるってのは童貞を釣るためのウソだ。まぁ後輩の番号を教えるのは(どうせバレないだろうから)ぜんぜん構わないけど…。
「いいことを教えてやろう。すでに俺は、一緒に自警団を潰さないかとEDに誘われている」
「なっ!?」
「少なくとも、俺にとっては面倒なだけの自警団よりEDの方がつるむ相手として魅力を感じるな」
やられた! 呼び出しに応じたのは、これが目的だったのだ!!
インポは敵対ギルドになっただけでなく、本格的にコチラを攻撃すると"宣戦布告"するために来たのだ。
不味い。アカウントロックの事もあって距離をとっていたけど…、これはユーチョーなことは言っていられない。
結局インポ野郎は、さんざん思わせぶりなことを言うだけ言って、去っていった。
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