#130(19日目・午後・セイン2)
「すみません、わざわざこんなところに呼び出してしまって。調子はどうですか?」
「ゴタクはいい。用件は何だ?」
午後。俺は旧都の隣接マップに来ていた。ここはEランクのザコが出現する初心者向けフィールドだが、当時の名残だろうか? ところどころに廃墟が点在している。その中の一画に俺を呼び出してきたのは悪徳ギルドEDメンバーのブラウス。EDメンバーだからと言ってPK専門とは限らないが…、紳士的な態度に好印象など覚えたりはしない。むしろ、警戒心が増すばかりだ。
「そうでしたね、用件は簡単です。セインさんもすでに察していると思いますが、私は"厄災"のメンバーです。それでですね、実力者であるセインさんをスカウトしようって話になったわけです」
「今日、呼び出したのは"昨日の作戦"に不確定要素になりえる新メンバーを参加させたくなかったからか?」
「ご想像にお任せします」
平日の昼間という事もあり、"出てきたのは"ブラウス1人。丸んこあたりが居れば色々と口を滑らせてくれただろうが…、どうやら回りくどいやり取りになるのも覚悟した方がよさそうだ。
「言っておくが、俺はソロじゃない。ギルドや馴染みのフレンドも何人かいる」
「それでしたらソチラの方も一緒で構いませんよ? ギルドもそのまま利用してください。厄災はギルドの加入を強制していません。結構みんな自由に行動していて、必要な時だけ声をかけあってって感じですね」
ギルドの使い方は多種多様だ。メインのギルドのランクを集中的に上げて1つの大きな組織として活動するギルドもあれば、いくつも低ランクのギルドを設立して同盟ギルドの形で連結していくギルド。あるいはギルドシステムに頼らずリアルのコミュニティーを使って連携する場合もある。どうやらEDは後者2つに近い活動形態のようだ。
「それで、肝心なことが聞けていないんだが、俺たちを引き込んで何をさせたいんだ?」
「おっと、これは失礼。ですが厄災は基本的に行動は自由です。普段は今まで通り自由にしてもらってかまいません。大きな作戦がある時は連絡するので、ソチラは極力参加して欲しいですね。作戦内容については…、機密もあるので。ですが…、たぶんセインさんの想像している内容でほぼ間違いないと思います」
EDの目標として考えられるのは、
①、自警団をゴブリン村から追い出す。1度は完全勝利したものの、それで自警団が諦めてくれる保証はない。
②、自警団が所持している対人装備を奪う。これは作戦というよりはサブの目標だが、自分勝手な悪徳ギルドの性格を考えると①よりも②を優先してくるPCは多そうだ。
③、自警団が運営している検問やイベントエリアの警備の妨害。これはむしろ模倣犯に任せるべき案件だと思うが…、EDメンバーは基本的に好きでPKをやっている。ゴブリン村の警備が厳重になったら、その警備を他に散らす意味も込めて検問を襲う作戦は考えているだろう。なにより、そう言った仕事は信用できない新人に任せるのに向いている。
現在のEDがどれだけのマンパワーを抱えているのかは計りかねるが…、切羽詰まった状況でないのは確かだろう。俺を勧誘したのは、戦力として期待していると言うより、自警団や他の敵対組織にスカウトされないようにするためだと思われる。
「そうか。それなら答えは"NO"だ。まずEDに加入する利点がまったくない」
「それはそうですが、自警団が所持している装備や我々の情報が…」
「俺たちはPK専門ではない。だから対人装備は重視していない。それなのにプレイヤーキラーだと周囲に認識されるのはマイナスだ。情報網だって独自のものをいくつか用意している。つまり、リスクに対してリターンが釣り合っていないと判断できる」
「そうですか、それは残念です」
「まぁ、自警団とは完全に縁が切れているので我関せずだ。別に古巣を荒らされたからと言って報復に手を貸す気はない。PKも知り合いを標的にしない限りは不干渉のつもりだから安心してくれ」
悪徳ギルドのEDにとって、報酬を払って人を雇う策は使えない。自警団と違って個人の利益を重視しており、収穫は基本的に手に入れた者が自由に着服できる。つまり、組織自体には運営や資産を貯蓄するシステムが無いのだ。あくまで同類が集まっただけ。作戦行動にかかる費用は基本自腹であり、人を雇う費用も誘った本人が自腹を切らなければならない。
いや、悪徳ギルドのみならず、Lも含めた殆どのギルドがそうなのだ。ギルド員に定期的に会費を徴収するギルドシステムは存在しない。よくて「イベントの前にカンパを募る」程度。ギルド倉庫もアクセス権の有無は設定できるが、「引き出しのみ禁止」や「入金した詳細を記録する」と言った細かい設定項目は無い。
「そうですか。残念ですけど敵ではないと分かっただけでも収穫です。また、気が変わったらメールしてください。セインさんならいつでも歓迎しますから」
「そうか」
「それでは…」
そういって背を向けるブラウス。用件は終了したようだが…、せっかくなので言うだけは言っておいた方がいいだろう。
「ところで、結局"歓迎パーティー"はやらないのか?」
「ハハッ、さすがにバレていたか」
瓦礫の陰から姿をあらわしたのは丸んこ。当然、まだ何人か隠れているだろう。
「はぁ~。丸さん、まだブラフという可能性も考えられたでしょうに…」
「硬いこと言うなって。そいつは間違いなく上位ランカーだ。俺たちの手の内なんて、はじめから全部お見通しさ」
「そうかもですけど…」
丸んこの戦闘能力はそれほど脅威とは思えないが…、少なくとも場慣れした雰囲気はある。こういう経験や直感に優れたヤツは意外に侮れない。
一見、知的なブラウスの方が厄介そうに思えるが、ただのインテリかぶれなら情報戦で上をいけばいいだけ。対して奇策や直感で動くヤツは最後の最後で予想外の動きを見せる場合がある。この2人、チグハグに見えるが、うまく互いの欠点を補い合っている非常に厄介なコンビだ。
「それで、やらないのか? 俺はかまわないぞ??」
「「 ………。」」
「いえ、やめておきましょう。我々の目的はあくまで勧誘です。セインさんを敵にまわすつもりはありません」
あえて挑発してみたが、俺も仕掛ける気はなかった。あくまで手の内を探るため。
相手からしてみれば、警戒するべきは体をはって手の内を探り、それを交渉材料に自警団に復帰するパターンだ。まぁ後は…、俺がEDメンバーの首を狙っているパターンもあるか? 俺が賞金稼ぎのマネ事をしているのは知っているはず。表向きは自警団と切れていると言っても確証はないだろうし、別の組織がPKKを依頼する可能性も充分にある。丸んこが控えていたのは
「そうか。まぁ賢明な判断だな」
「さすがに"2対2"では勝ち目はありませんからね」
皮肉をもらすブラウス。
俺も自警団に負けず劣らず強力な装備を所持している。EDに入る見込みがないなら、俺だってエモノと見られてもおかしくはない。今回はあえてニャン子"たち"を近くでうろつかせることにより、ソレを出来なくした。
「ふっ、まぁ今回はこんなもんか」
「へけけ、ダンナとは、またすぐにやり合う事になる気がするな~」
「そうか? それはご愁傷様」
「ヒュ~」
こうして、EDとの密会は腹の探り合いだけで、ひとまず終わった。
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