#129(19日目・午後・セイン)
「よし! やっとボクの番ですね!?」
「はぁ、さすがに連続は無理だったか…」
「うぅ、まぁしょうがないにゃ…」
今回当選したのはスバル。昨日も戦った気がするのだが…、やはりスバル的にはフェアな一騎うちがお好みなのだろう。
「それじゃあ、はじめるか。ハンデは無しでいいだろ?」
「あ! それなんですけど…」
「ん?」
「あのあの、ハンデとはちょっと違うんですけど…、ニャンコロさんのお願い、聞いてあげて欲しいんです」
「それは本人が勝ち取るべきものだ」
「そうじゃなくて! 聞くだけです。どんな内容か!!」
「ん~、まぁそれだけならいいか?」
「スバルにゃん…、こんどネコミミあげるにゃ」
「いりません」
「にゃん…、だと…」
「それで、スバルはそのハンデ?のかわりに、なにが出来るんだ? 内容次第では却下だからな」
「はい! それなんですけど、今日も午後、セインのいう事を何でも聞くというのはどうでしょう!? その、
正直に言って、スバルがニャン子にそこまで肩入れするのは意外だ。まだユンユンなら理解できるのだが…。
「ん~、つり合いがとれていない気もするが、まぁいいか。ちょっと用事もあったし」
「それじゃあ私もついて行っていい? 見てるだけでいいから」
ちゃっかり都合のいい主張をするユンユン。
「だめだ。今回は荒事になる可能性がある。足手まといは必要ない」
「え!? お兄ちゃん、なにかやらかすの??」
「やらかすって…、そう言うのじゃないから。あと、つれていかないからな」
「けち~」
「おまえ、一応アイドルだろ、露出は注意しろ」
「うぐっ、わかったわ。動画の編集もあるし…」
暇人に見えても、実は結構忙しいユンユン。よく知らないが、簡単な動画でも1本作るのに余裕で半日は潰れるらしい。
そんなユンユンをよそ目に…、スバルと普通に打ち合っていく。今回は、スバルの仕上がりを確認したいので小細工は無しだ。
「ん~、やっぱり兄ちゃんは強いにゃ~。これは対決でお願いするのは無理そうにゃ…」
「そうなんですか? 私には凄すぎて細かい部分は判別できないんですけど…」
お互いが手の内を探り合うような鍔迫り合いをよそ目に、ニャン子とユンユンが話し合う。
「ん~、対応力というのか…、刀を極めているスバルにゃんに対して、兄ちゃんは…、なんと言うか、もっと広い視野で戦っているにゃ」
「えっと…、心理戦とか、相手の癖や隙を探る感じですか?」
「うまく言えないけど、余裕が違うにゃ。相手の動きを見て、そこからどう戦うか考える感じ?」
「そう言えば、お兄ちゃんってスロースターターですよね。ある意味、プロレススタイルなのかな? でも、お兄ちゃんは奇策に頼っているフシがあるし、ネタ切れしたら終わりって感じはしますけど」
ごもっとも。
「ん~、そうにゃんだけど…、そもそも短剣と刀だったら、刀が圧倒的に有利にゃ。」
「まぁ、短くても軽いほうが有利なら、戦国の武将はこぞって脇差とか小太刀で戦ったはずですからね」
「そそ。短剣型は基本的に正面戦闘をさける中衛の装備にゃ。初見の相手なら奇策で意表をついて勝つのがセオリーで…、同じ相手と何度も打ち合う装備じゃないのにゃ。それをこんなに惜しげもなく…」
「あぁ、お兄ちゃん。なんだかんだ言って、スバル君を育てようとしていますよね!」
「にゃんにゃん」
外野が煩い。ただでさえ余裕がないって言うのに…。
しかし、スバルは少しずつだが、毎日着実に強くなっている。日本刀は一朝一夕で極められる武器ではないのだが…、才能か、あるいは師に恵まれているのか。とにかく、剣の扱いだけなら、もう教えられることはないだろう。
あとは移動スキルや、上位スキルへの対策。そしてなにより実戦経験。まだ打撃系武器の回避は苦手のようだが…、そろそろ連れ歩いて癖の強い我流戦術に対処する経験を積ませるべき段階だ。それと…。
「スバル」
「え? あ、はい!」
突然、打ち合いをやめて話しかけられたことに困惑するスバル。
「おまえ、普段の狩りもその[カタナ]で戦っているだろう?」
「はい!」
マンガじゃあるまいし…、いくら剣術を極めたところで金属の塊や刃渡りを遥かに超える大物を一刀両断することは不可能だ。刃渡りや重心が変わるのを嫌う気持ちは分かるが、いまだに低ランク装備の[カタナ]を卒業していないのは問題だ。
「装備の更新も確りやれ。道具よりも技量や心構えを重視するのは日本武道の美徳だが…、レベルアップや人外も相手にするL&Cの世界では、そうも言っていられない」
「はい!」
結局、L&Cで再現できる技は「物理的に再現できる技」に限られる。実際に使える者がいるかは知らないが…、斬撃を飛ばすとか、"気"とか謎の力を操ったりするのは構造上"絶対に"再現不可能だ。装備を縛ることで総合的に人知を超えた力が手に入るならかまわないが…、精神修行のために総合的に弱くなる選択は本末転倒でしかない。
「かかってこい。終わりにしてやる」
「え? あ、はい。 …いきます!!」
真っすぐ突っ込んでくるスバル。喉元の位置に放たれる鋭い突き。リアルでまともに受ければ即死級のダメージになるだろう。
しかし…。
「無駄だ」
「え?」
スバルの放った突きは、俺の手の中で完全に制止している。当然ダメージはあるが、ステータスの差と、武器自体の攻撃力の低さのせいで勝利条件の「1割の体力を削る」にはいたらない。
そのまま止まったスバルの手首を一閃。俺の攻撃はカスっただけでもスバルの体力を2割以上持っていく。
しばしの沈黙ののち…。
「え、あ! 勝者、セイン!!」
「うぅ、まいりました…」
「技量だけでは勝てない。そういうことだ」
「はい、勉強になりました…」
ユンユンの宣言により、あっさり試合が終わる。できればこういうゴリ押し戦法は使いたくなかったが…、技術だけを磨いて強くなろうとするスバルには、いい薬になっただろう。
装備やレベルだけで強くなるのが"甘え"なら、技量や精神力だけで強くなるのも"甘え"。俺にとっては等しく歪でしかない。
こうして、すこし気まずい雰囲気の中、今日の試合は終わった。
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