#123(18日目・夜・コノハ)

「その…、それでレイさんは…、自警団と自由連合、どちらの味方なんですか?」

「いや、だからね? 自警団は治安組織で、自由連合は情報を共有しましょうって集まりで…。…。」


 結局今日も、L&Cにログインしてしまった。なぜ今日もログインしてしまったのかは…、私もよくわからない。あの人の言った通り、私はこのゲームに大した執着を持っていない。"あんなこと"がなければ、私はこのゲームをプレイすることはなかった。それでもこうしてプレイしているのは…


 惰性? 成り行き?


 違うな。私は単に見極めたいと思っただけだ。この世界が何なのかを。


「それじゃあ…、自由連合の活動は、ただのメール友達、それこそSNSのフォロー関係に近いって事ですか?」

「まぁそんなとこ。結構みんなフリーダムって言うか、ソロや身内PTだけで攻略したいって人向けかな? とくに所属してもデメリットはないから、コノハちゃんも登録しておくことをオススメするよ」


 自由連合には明確な活動方針や指揮系統は存在しない。目的はあくまで情報共有にすぎない。登録すると専用のIDが発行され、それで専用掲示板に情報を書き込んだり、確認したりできる。それだけだ。


 普通の掲示板と何が違うかと言えば、匿名での書き込みができない点だろう。IDを参照すればゲーム内のどのプレイヤーが書き込みをしたか判別できる。これによって偽の情報を書き込んだり、情報操作…、つまりは悪用しようとするプレイヤーを排除できる。


 もちろん、普段からマメに書き込みをチェックしたり、少しでも間違った情報を書き込むとペナルティーをかすと言った厳しいものではない。あくまで悪用されないための予防線として「その気になれば出来ます」と言う形だけの機能のようだ。


「その、考えておきます」

「え、あ、うん。気が向いたらいつでも声をかけてね」

「それで、自警団はどうなのですか? 昨日は出来なかったので、できれば今日こそ見学しておきたいのですが…」

「あぁ、あっちは、昨日以上に揉めているからね…、ちょっと難しいかも…」


 目をそらし答えるレイさん。彼は自警団の団員でありながら、団員らしい活動はほとんどしていない。一応、伝令役として勧誘や、時間の問題などで本格的に活動できない準団員の面倒をみる役のようだが…、やはり組織内での立場は総じて低いようだ。


「その、そこをなんとか…、なりませんか?」

「え? いや、うん。それじゃあメールで見学できるか聞いてみるけど…、ダメだったらあきらめてね?」

「はい、おねがいします」


 いや、メールすら送っていなかったの!?


 この人、ハッキリ言って組織でキッチリやっていくのには向いていない。扱いやすい人だとは思うけど…、これは早めに鞍替えしたほうがいいかもしれない。




「うっ! えっと…、今からなら見学OKだって。アルバの森、通称ゴブリン村なんだけど…、行く?」

「は、はい…、おねがいします」


 どうにも気乗りしない様子の彼。それほどまでに、今の自警団はオススメできないという事だろうか?





「えっと、おつかれさまです」

「あ、見学希望のコノハちゃんだよね? こんにちは。私の名前はミーファ。一応、自警団本体の伝令役としてソコソコのポストなんだけど…、今日は私が案内するわ。それでね、自警団のこともそうだけど、同じ女性プレイヤー同士、仲良くやりましょう!」

「あ、はい。コノハです。よろしく、おねがいします」


 レイさんもそうだが、やはりこういったグイグイ来る感じの人は苦手だ。それに彼女は、一見友好的に見えるが…、レイさんには一切あいさつをしなかった。基本的には八方美人だが、裏では相手を値踏みして利己的に付き合う相手を選別する。そういったタイプのようだ。


「それじゃ、さっきの人にある程度聞いていると思うけど…、改めて簡単に説明するね。自警団の活動はおもに3つ。1つは…。…。」




 アルバの森1? をのんびり散策しながら自警団の活動について説明をうける。


 現在自警団は、敵対組織から攻撃を受けている。本来ならば幹部である自警団ギルドの団員が、わざわざ新人を案内することはないのだが…、ちょうど手が空いていたのか、あるいは人手不足で追加の人員が欲しくて仕方ないのか…、とにかく私は特別待遇で迎えられているようだ。


 と言うか、さり気なく自分の自慢を入れたり、忙しいだの特別だのとアピールしてくるのが非常にウザい。


「あの、この場所にいるプレイヤーは…、みんな自警団の団員なのですか?」

「今の時間帯はね。さすがに人がいない時間帯もあるけど…、いる時間帯は団員のランクにおうじて1から3まで団員を配置して、効率よくレベルを上げたり、その指南をしているわ」

「それって…」

「?」

「いえ、なんでもないです」

「そう、それじゃあ次に行くわね」


 「違反行為なんじゃないんですか?」と言う言葉を出さずに飲み込む。


 自警団は、王都の平和を守るためにユーザーの権限を逸脱した行為…、言ってしまえば違反行為をしている。しかし、それはあくまで平和のためであり、活動を支持するプレイヤーは多い。


 しかし、人数を武器に狩場を占拠したり、強力な装備を落とすボスを独占したりもしている。他のプレイヤーが、このエリアに入るとすぐに団員に囲まれモンスターの交戦権を奪われてしまう。


「おつかれ、その子が例の見学希望者?」

「あ、コロッケさん、お疲れさまです! 入団希望の子を連れてきました!!」

「え…、あ、いや、はじめまして。コノハです」

「やぁコノハちゃん。俺の名前は殺気コロッケ。殺気とかいてコロッケと読むんだ」


 急に聞きなれない声がして、一瞬どこから出しているのか疑ってしまった。それは彼のことではなく、ミーファさんの方だ。分かってはいたが、相手に応じてあからさまに態度をかえる。本当に利己的な人のようだ。


「あ、はい…」

「「 ………。」」

「えっと、今日は特別に! コロッケさんの御厚意で、2層も見学できます! はい、はくしゅ~(パチパチパチ)」

「え? あぁ、ありがとうございます」


 よくわからないが、ギルド員エリアである森2も案内してもらえるようだ。もちろん頼んでもいない。


 レイさんの話では、自警団ギルドは現在、団員の質を高めるために意欲やログイン状況に厳しい制限を設けている。その基準だと私はギルド員にはなれないはずだ。


「それじゃあ案内するけど、危ないから私たちから決して離れないでね」

「大丈夫。自警団に入れば、誰でもすぐにここのヤツは倒せるようになるから!」

「は、はぁ…」




 結局私は流されるまま…、森の奥へと進んでいく。

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