#124(18日目・夜・コノハ2)

「止まれ! この先のエリアは、われわれ自警団が占拠している! すぐにたちさ…」

「どけ! ザコに用はない!!」

「な!?」

「ヘケケ、悪いが通らせてもらうぜ! 悪徳ギルド"エターナルディザスター"のお通りだ!!」

「エターナルって、まさかED!? まずい、C√の襲撃だ!!」


 その日、アルバの森に仮面を装備した一団があらわれた。彼らの組織名は、永劫の厄災・エターナルディザスター。6時代にPKでその名を轟かせたランカー集団だ。





「こんな感じで、レベルの低い人がゴブリンのタゲを集めて、殲滅役の人のところに誘導する。あとは周囲魔法や周囲攻撃で一網打尽さ。これで簡単確実にレベルを上げられる」

「なるほど…」


 私もあまり詳しくないが…、自警団のレベル上げは養殖とかパワーレベリングと呼ばれる問題行為だ。それ自体は違反行為ではないが、周囲のプレイヤーに迷惑をかけたり、実力のともなわない高レベルプレイヤーを無責任に量産することで様々な2次的被害を引き起こす。間違っても、規範となるべき組織がしていい行為ではない。


「まぁ中には私たちの活動を悪く言う人もいるけど…、でもね! L&Cはデスペナルティ―が凄く重いし、他の人への配慮やサーバーへの負担回避のルール作りは確りやっているの」

「え! あ、はい…」


 私の考えを見透かしたような補則をいれる彼女。もしかして、私って顔に出やすい? 一応、自警団は自警団なりに配慮しているようだが…、結局それは独りよがりな"自分ルール"でしかない。


「(ピピッ!)あれ、緊急連絡だ。なんだろ…、EDの襲撃?」

「ED?」


 どこかで聞いた単語だが、思い出せない。さすがにアニメとかのエンディングのことではないと思うのだが…。


「EDって、まずい! 2人とも、すぐに団長たちと合流するぞ! ミーファちゃんは、すぐに団員を集めてくれ!!」

「え? えぇ??」


 彼女もEDについて知らない様子だが、コロッケさんの慌てようは尋常ではない。森2から団長の居る森3へ移動しながら、事態を掻い摘んで説明してもらう。


①、どうやらEDは、有名な犯罪者集団で、それが攻め込んできたようだ。


②、彼女は伝令役なので、すぐさま襲撃にあった事を非ギルド加入団員へ向けて連絡をとばす。


③、EDはすでに森に侵入しているが、犯罪判定の関係でお互い攻撃できない状況にあるらしい。多少は道をふさいで時間を稼いでいるが、団長たちがいるエリアまでくるのは時間の問題のようだ。


④、エリアボスの"ゴブリンロード"の出現時間が迫っている。





 アルバの森3。ここは森…、といえば森だが、起伏が激しく、山奥の森といった装いだ。ところどころで露出した岩肌には横穴があいており、設定ではソコがゴブリンの巣穴になっているそうだ。


「ここのゴブリンは変異種が多い。遠距離攻撃をしてくるやつも多いから、不用意にタゲをとらないようにしてくれ!」

「は、はい…」


 彼の案内で、奥へと進んでいく。そこにはひと際大きなドクロ形の大岩があり、そこにボスが出現するらしい。


 なんでも、L&Cのゴブリンは大きくわけて2種類いて…、ここに出現するゴブリンは知能の低い野生動物のような種族らしい。中には質素な武器を持った亜種も存在しているが、基本的には猪突猛進で慣れれば対処しやすい。しかしロードが出現すると、周囲のゴブリンが一斉に強化されて、亜種のバラエティーが増えたり、ステータスや戦闘AIが強化されるそうだ。


 森3はボスの出現が近い事もあり、レベリングを一時中断して、普通のゴブリンを遠い場所に誘導してボスとの戦闘中に乱入されないようにする"場づくり"の最中だったようだ。


「お疲れさまです、団長」

「団長、なにか動きはありましたか?」

「あの、はじめまして、コノハです」

「ん? あぁ。大きな動きはないが、やはり連中がココに来るのは時間の問題のようだ。まったく、目障りな連中だ…」


 無視された。


 非常事態なので仕方ないのは理解できるが…、本当にこの人が治安維持組織のトップなのかと疑いたくなる態度だ。


 イメージとしてはファンタジー小説にでてくる悪徳教会の強欲司祭だろうか? ゲームなので見た目こそ渋めの紳士だが…、装備は無駄に煌びやかで、素人の私から見ても他の団員とは一線をかくしている。


「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ、コノハちゃん。連中は直接、俺たちを攻撃できない。狙いはあくまでボスを横取りすることだから」


 いや、警戒していたのはEDの人たちではなく、団長の方なのだが…、それはともかく、どうやらEDの目的は、ボス戦に割り込んでボスドロップを手に入れる事と、自警団の名前に泥をぬる事のようだ。


「EDの連中がすぐ近くまで迫っています! みなさん、配置に!!」

「は~ぃ、コノハちゃんはコッチね」

「あ、はい…」


 ほぼ初期状態の私に何ができるわけもなく、邪魔にならないように後衛の回復役の一団に加えられた。つまり、見ているだけだ。


 コロッケさんは最前線の集団にくわわり…、おそらく魔法系であろう団長たちは、中衛の一団に加わる。こうして、3重の扇陣形が形成されたところで…。


「やぁ~、お出迎えご苦労! お日柄は…、年中変化しないんだったな」

「丸、無駄な口上はやめろ」

「はいはい。それじゃあ改めまして、俺たちはPKギルドのEDです。もう自警団の時代は終わったんで、大人しくボスをゆずってくださ~ぃ」


 恐ろしく軽い口調で現れたのがEDと呼ばれる組織のようだ。人数は、たったの6名。対する自警団は約3倍の人数。普通に考えれば自警団が圧倒的に有利な状況だ。


「チッ! 忌々しい犯罪者どもめ。コチラが手だしできないのをいいことに、少数精鋭で瞬間ダメージ勝負というわけか!」


 有利なはずの自警団の顔色は非常に悪い。理由は分からないが…、どうやら上手く裏をかかれたようだ。




 お互い睨み合ったまま動けず、やがてドクロ岩の口から、眩い光がはなたれる。

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