#122(18日目・午後・セイン2)
「おまたせ~、サーラム方面の転送サービスに検問はなかったにゃ~」
「ですが、仮面を装備したプレイヤーはうろついていました。どうやら自警団は、直接的な戦闘を極力避けているようです」
「おつかれ。そうか…、なるほどな…」
俺たちは、遅れてログインしたニャン子をくわえ、2人1組で、各地の転送サービスの警備状況や、C√PCの動向を探っていた。
「しかし、意外ですよね? ボクはあまり知りませんが…、団長さんって凄くプライドの高い人なんですよね?」
「まぁ、そうだな。本人は自分の行動を"正義"だと勘違いしているが、その正体は自己顕示欲や肯定欲の塊と言うか…、"自分は正しい事をしている。ゆえに自分は正しく、すべての行動は肯定される"って無茶苦茶な理論を振りかざすタイプの、ぶっちゃけて言えば…、ただの"自己中"だ」
「「ぷっ」」
同時にふき出すニャン子とユンユン。この2人、まだぎこちない部分はあるが性格的な相性は悪くない。面倒見や実行力はあるものの責任や期待に弱いニャン子と…、目的意識が確りあって、それ以外の部分では寛容で自由にやらせてくれるユンユン。動画のことさえなければ結構いいコンビになれたと思う。
「でもそれなら、もっと対決姿勢を強めると言うか…、こんな逃げ回るみたいな作戦はとらないかと思っていました」
「まぁ、アチシたちが調べてまわった限りじゃ、戦闘になっているところはなかったにゃ~」
自警団狩りに対して自警団がとった対策は…、"戦略的撤退"だった。負けるくらいなら逃げる。王都の周囲やイベントエリアに向かう各地の転送サービスに広く展開していた検問を、いっきに減らして、王都アルバと中立都市クルシュナを結ぶ転送サービス、1ヶ所に絞ってしまったのだ。当然、いくらでも迂回できる穴だらけの防衛網だ。
「まぁ、負けるのは分かっているからな。不戦敗を"ノーカン"と言い張る。そんな感じじゃないか?」
「あの人の場合だと…、犯罪者を見過ごすよりも、犯罪者に負ける方が嫌だと思うけどね…」
「「あぁ~」」
ユンユンの言う通り、団長は自分の行動を全て都合よく肯定してしまう。案外本人は、「負けたのは下っ端の責任で、自分は尻拭いをしてやっている」程度にしか思っていないのかもしれない。
「それで、なんでお兄ちゃんは、いまさら自警団の配置を気にしているの? いい加減、教えてよ」
「そうですね。考えてみれば、ギルド経由でクルシュナにワープできますし…、今さら自警団を助ける意味がありません」
まぁ理由を知りたがるのは当然か。わざわざ俺が2人に手をかりたんだ。なにか大ごとだと思い、気が気ではないのだろう。
「PKしている人たちに手を貸そうって話じゃないのよね?」
「それこそ興味のない話だ。√にかぎらず、俺は足の引っ張り合いで成り上がろうとする連中に興味はない」
「だったらなんで?」
「べつに、それはそれとして"必要なものは必要だ"って話だ」
「「?」」
事が動くのは夜。それまで動くわけにはいかないが…、その時の展開が読めているかどうかで、こちらのアドバンテージは大きく変化する。
「大事なのは、先手先手をとっていくことだ。当たり前だが、戦いは主導権を握っている方が常に有利。それなら相手が動いている時こそ、出し抜くチャンスだ」
「「はぁ…」」
「にしし、大体読めて来たにゃ。猫はそっちの方が得意だにゃ~」
「「??」」
俺の考えを察したニャン子に、察せないスバルとユンユン。経験の差が如実に出たが…、部外者の2人に情報を漏らすわけにもいかないので、話せるのはココまでだろう。
一時は、自警団とC√PCの完全対決。そしてPKたちが、先制攻撃判定や通行妨害を利用して自警団を一方的に狩っていく展開になることも予想されたが…、さすがに自警団も対策を考えてきた。
①、時間帯によって検問の数を絞る。
平日の昼間や早朝は、どうしても団員の頭数を確保できない。今までは人数の多さと一般プレイヤーの理解でなんとかやれていたが…、団員の減少と明確に敵対しているPCの登場により、重要なエリアであるアルバ・クルシュナ間に人員を絞る作戦に出た。
それならいっそ、人の少ない時間は検問なんてやめてしまえって話になるが…、あまりPKの対策ばかりに気をとられていると、肝心のNPC狩りの対策が疎かになり、一般プレイヤーの支持を失ってしまう。
②、仮面を破壊する団員を決めて、破壊したら即座に転送サービスを利用して離脱させる。
先制攻撃の判定が適応されるのは、あくまで攻撃をおこなったPCと、そのPTメンバーのみ。つまり、その判定をもっているPCがその場にいなければ、PKは自警団を襲うことはできない。結果として検問に必要な人員は増えてしまうが、それは検問の数を絞ることで対応したようだ。
③、戦闘部隊の配備。
検問を担当する団員のほかに…、対人装備を持っているかは不明だが…、4名以上のフル装備PCを必ず配置するようになった。
団員の平均的な戦闘能力は低く、とうていランカークラスには太刀打ちできないが…、中堅程度までなら充分抑止できる。それに、自警団はゴブリン村を占拠して団員を安全かつ高速にレベルアップさせる"養殖行為"をおこなっている。とりあえずレベルと装備だけ整えた"カカシ"を用意するのは容易かったようだ。
「話せるのはココまでだ。次いくぞ!」
「え? まだ何か調べるの??」
「当然だ! 今日の行動はハンデとして俺が買い取ったようなもの。それなら時間いっぱいまで使い倒す! オマエラ、奴隷になったつもりで、俺に奉仕しろ!!」
「はい! ご主人様!!」
「うぅ、スバル君がノリノリだよ…。まぁ私も付き合うけどさぁ…」
「にしし~、忙しくなるにゃ~」
情報なら勇者同盟から買う手もあるが、俺は連中に依存する気はない。スパイが必要な情報などは流石に頼らざるをえないが…、それ以外はレイや自分たちの足を使って確保する。
今回、まがりなりにも自警団が対策を講じたことから、長期戦になることも視野に入ってきた。それならコチラは、そのチャンスを利用させてもらうだけだ。
そこには、半日棒に振るだけの価値がある。そう俺は判断した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます