#117(17日目・午後・セイン2)
「ひぇ~!? むりむりむり!!」
「うわわ、こういうのは全然嬉しくないで~す!」
「骨は拾ってやる、安心して…、死ね」
「「鬼ぃ~~!!」」
あれから俺は、妙な空気を解消するためにスバルとユンユンを連れて狩りにでかけた。来たのは旧都の夜エリア。当然、2人はレベル不足で狩りなど成立しない。
「兄ちゃんのそう言うとこ…、マジで凄いって思うにゃ~」
「よそ見していると、オマエも死ぬぞ?」
「うぃ~」
「「ひぃ~~」」
いい感じに2人を囮にして安全に狩りをつづける。そう、2人は囮だ。逃げ回る事で周辺の魔物のタゲをまとめて…、俺とニャン子でタゲを切り分け、1体ずつ安全に処理していく。
「おい! もっとジグザグに走れ! そんなんじゃ足の遅い魔物のタゲが切れるぞ!!」
「そんなこと言ったって、マウス操作じゃあるまいし、3人称視点だってないのよ!? ミニマップのマーカーだって、ぜんぜんアテにならないし!!」
「ミニマップに頼るな! 相手の気配に意識を向けていないと、すぐにマークは外れるぞ!!」
「いえっさ~」
タゲを持って逃げ回る…、いわゆる"トレイン"も、なかなか簡単にはいかない。特に移動速度の違う魔物を纏めてトレインするのは難しい。足の遅い後続のタゲが切れないよう、常に距離の微調整が必要になるし…、ミニマップのマーカーも視界や意識を外していると、すぐにロストしてしまう。定期的に周囲を確認するクセをつけたり、何かに集中していても周辺の気配に気を配るリソースは残す。そういう能力も必要になってくる。
「スバル! こっそりやり合おうとするな!!」
「うっす!」
隙あらば挑戦しようとするスバル。プレイヤースキル的には、やってやれない事もないと思うが…、「好奇心はネコを殺す」という言葉もある。出来るかどうかも気になるだろうが、しっかり言いつけを守らせる事も立派な特訓だ。
「今回はそう言う"特訓"じゃない! 余計なものに気を散らすな! とにかく一定の距離を保ち続けろ!!」
「はい! 師匠!!」
しかし…、最近スバルが、ますます犬っぽい。好奇心旺盛だけど、従順。無茶な命令をされても喜んで挑戦しようとする。むしろ何もないと寂しそうな表情を見せる。本人が体育会系で、シゴいたりシゴかれたりするのに慣れているせいが大きいのだろうが…、首輪とかつけたら似合いそうだ。
いや、まぁ流石に怒るか。
「兄ちゃん」
「ん? どうかしたか??」
「いや、兄ちゃんって、兄ちゃんだなって」
「わるい、猫語はわからないんだ」
「ぷっ! いや、まぁ…、ありがとってことにゃ」
「俺は2人をシゴくついでに経験値を稼いでいるだけだ。感謝される覚えはないな」
「うん、そうかもね」
ちなみにPTは分割しているので、2人に経験値は一切入らない。これはあくまで特訓であり、養殖行為ではない。
「ひぃ~~」
「おとと、やっぱり難しいなぁ…」
半泣きで逃げ回るユンユンに対して、スバルはまだ余裕がある。レベル的なものもそうだが、スバルには向上心があり、トレーニングで自分を追い込んでいく感覚が最初から身についている。
対するユンユンも、あれで他の雑多なPCと比べれば充分に動ける部類だ。生活のためにVRゲームを相当やり込んできただろうし、才能が全くないわけではない。しかし、あれではまだ壁を超えるには至らないだろう。
「ね~!」
「どうしたユンユン? ムダ話をして、死んでも知らないぞ?」
「これって! 挑戦費用! 払った事になるわよね!!」
「あぁ…、どうだニャン子?」
「ん~、まぁ、それなりに役に立っている…、かにゃ?」
「だってさ」
「よし! 私だって、役に立つんだからね!!」
「ん~、たしかに役に立っているにゃ~」
「よっし!!」
「プッ」
「ちょ! なんで笑うのよー!!」
「いや、なんでもない、その調子で頑張ってくれ」
ユンユンの表情を見たら、不覚にも少し笑ってしまった。
俺も何だかんだ言って、不器用な部類の人間だ。親身になって相談にのったり、気のきいたセリフをかけてやることはできない。できるのは…、強引に自分のペースに持ち込んでウヤムヤにするだけ。それだけだ。
「兄ちゃん」
「ん? なんだ?」
「ニヤニヤして、キモい」
「ほっとけ!!」
結局そのあと、2人は何回か死んでしまったが…、最後はハイになり、笑いながら死に戻りをくり返していた。
思い起こせば、こんなバカな狩りをしたのはL&Cをはじめた頃以来だ。そんなことを考えつつも、狩りは無事?に終了した。
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