#116(17日目・午後・?)
「おい、そこの仮面を装備したPC、止まれ!」
「犯罪履歴がないか確認する。仮面を外して素顔を見せろ」
「はぁ? なんでそんなことしなくちゃいけないんだよ? お前ら、一般PCだろ? 運営でもないのに調子のってんじゃねぇぞ!!」
「またか…。いいからサッサと外せ。さもないと強制排除する!」
商人のキャンプ地・転送サービスエリア。本来なら別の勢力地に向かうPCが足早に通り過ぎていくだけの場所だが…、最近は自警団の取り締まりもあって渋滞になりやすくなっている。
「おい、後がつまってるんだからサッサとしろよ!」
「たく、イキってないでサッサと外せよな。マジで」
「仕方ない、悪いのはお前なんだからな!」
とうとう強硬手段にでる自警団。はじめは抵抗こそあったが、最近、トラブルはほとんど起きていなかった。それが今日はこれで4件目。
いやがおうにも彼らの脳裏には例の動画がフラッシュバックする。その動画とは自警団が身内であるはずのPCにキルされる動画だ。自警団は当初、自身のメンツのことばかりが気にかかり、この動画の本当の危険性を理解していなかった。その本当の意味に気づいたのは、現場で活動している非ギルド員メンバーが先だった。
「やりやがったな! クソザコのくせに!!」
「頭きた、やっちまおうぜ?」
「だな。"指名手配される心配はないし"やっちまうぞ!」
「「おう!!」」
1人が攻撃を受けたことにより、PTメンバーとおぼしきPCが2人ほど加わり、自警団を取り囲む。
本来ならばPKは犯罪行為になるのだが…、今回、攻撃を先にしかけたのは自警団であり、正当防衛が適用される。そう、仮面を壊す行為もPCへの攻撃であり、システム的に悪いのは"先にしかけた"自警団となる。
「おい、あいつらマジでやり合ってるぞ!?」
「指名手配されるのが怖くないのか?」
平日の昼間という事もあり、検問に参加していた団員は2人。対して仕掛けてきたC√PCは3人。数的にも不利な状況だが、それ以上に、実力の差は大きかった。
自警団も合同演習で団員のレベルアップや装備の充実をはかっているが…、それ以上に自警団の活動はゲーム攻略の観点では時間的マイナス要素が大きい。自力で攻略する実力のない初心者に利点はあるものの…、やはり中堅以上の実力者を相手にするのは不可能。
当然、戦いはワンサイドゲームになり、余裕を持て余したC√PCはもてあそぶように団員をジワジワ追い込んでいく。
「バカだな、先に攻撃したのは自警団だぜ? それなら正当防衛でキルしても、つくのは殺人判定だけ。指名手配まではできないよ」
「おい、それじゃあ、仮面の取り締まりができなくなるじゃねぇか!?」
「そうだよ。はじめから一般PCである自警団に、そんな権限は無かったんだ。攻撃してきたら、やり返せばいい。そういうことだ!」
C√PCが芝居がかった素振りでタネ明かしをする。
「だめだ、俺たちの力じゃ…」
「やめろ! 例え指名手配されなくても、自警団やL√PCがお前たちをマークする。タダですむと思うなよ!」
「はっ!? かまうものか。それに、今の自警団に俺たちをどうにかできる戦力、残っているのかよ!?」
すべては彼らC√PCの筋書き通り。彼らの目的は"犯罪判定を回避して、どうどうとPCをキルできる事実"を知らしめることだった。わざと仮面を破壊させることで、正当防衛を理由に殺人判定と殺人数を稼ぐことができる。
ほどなくして、その場にいた自警団は光になって消滅する。その場にはクリスタルの形で、彼らが所持していたアイテムが残される。
「お、装備もあるじゃん。ラッキー」
「まじかよ!? 対人装備はあるか? エンチャントはどうだ??」
実際に装備がドロップしたかは分からないが…、すくなくとも、それを聞いた他のC√PCの物欲が刺激されたのは間違いない。相手がフル装備だった場合、装備がドロップする期待値は1つから2つ。本来ならなかなか手に入らないレア装備を、転生条件を稼ぎながら簡単に入手できるのだ。
自警団本部も、こうなることはある程度予測していた。しかし、現場と本部では認識や感覚がズレるのは、よくあること。
本部の認識としては、攻撃で仮面を強制解除する行為は"最終手段"であり、基本的には話し合いで解決する事になっている。そうしないと横暴だと批判される事や、今回のように犯罪判定をすり抜けて攻撃されることは理解していた。
しかし、目まぐるしい数のPCが絶え間なく行きかう現場で、そんな悠長なことはイチイチやっていられない。結果的に、仮面を装備したPCを即攻撃するのは当たり前になり…、その事に誰も疑問を覚えなくなる。
「まずい事になったな…。これはまた荒れるぞ…」
事件を遠巻きに見ていたPCが、ポツリと呟く。
この後ほどなくして、事の一部始終を撮影した動画が投稿され、"自警団狩り"が始まった。
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