#115(17日目・午後・セイン)

「はい、私が"親"ね! これで勝つる!!」

「そんな、ボクのご褒…、挑戦権が…」

「挑戦権だけで勝てたら世話ないって。とりあえず誰と戦うんだ?」


 抽選の結果、挑戦権を獲得したのはユンユン。さり気なくニャン子も参加していたので、3分の1の確率だ。


「それじゃあもちろん、対戦相手はニャンコロさんで!」

「まぁ、そうなるのにゃ…」


 正直なところ、動画を考えるなら頼るべきは俺ではなくニャン子が適任だ。もちろん戦闘能力で負けるつもりはないが…、大切なのはソコではない。ユンユンの動画は男性向けであり、出演者は皆、女性PC。裏方には男性PCも混じっているが、あくまで出てくるのは女性PCのみで、見に来る視聴者も女性PCがカシマしくプレイしているところを見に来ている。いくら実力があっても、男の俺がハーレム状態になる画を見て喜ぶ者はいない。


 そしてそれは…、動画の内容、実用性よりも優先される。


「それで、要求は何だ? 言っておくが、無茶な要求をしても、自分の首を絞めるだけだぞ?」

「わかってるって。そうね、それじゃあ…、"応援メッセージ"でどう!?」

「え? いや、まぁ、アチシが勝ったら、協力しなくてもいいにゃ? それなら…」

「よし!!」


 意外というか、無難なところから攻めてくるユンユン。ニャン子の性格を理解して、段階的に抵抗を無くしていく作戦のようだ。ニャン子も、もっと無茶なことを言われると思っていたらしく、拍子抜けした表情で、あっさり了承してしまう。


「いや、でも、ハンデはアチシが決めてもいいのにゃ?」

「そうだな。別に"ハンデ無し"でもいいが、ハンデをダシに何か要求を追加してもいいぞ?」


 この対決は、挑まれる側にメリットがなさすぎる。だから挑戦者にも何か挑戦費用的なものを用意してもらい、それを対価にハンデを設定する。ソレが用意できないなら、ハンデは無しだ。


「ん~、今はとくに欲しいものはないのにゃ。"アレ"は…、さすがに今のレベルでは入手不可能にゃし」

「うぅ…、こういう時、ガチャでレア装備が入手できないのは痛いわね。私たちが用意できるもので、ニャンコロさんが入手できないものなんて無いし…」

「まぁ急な話だし、今日はルール確認ってことでハンデ無しでいいんじゃないか? ユンユンも、長期戦は覚悟しているんだろ?」

「え? まぁ、そうなんだけど…」

「よし、決まりだ。ニャン子!」

「うにゃ?」

「ハンデとして、"瞬殺禁止"な」

「ぎにゃ!? まぁ、それくらいなら…」


 主催者権限で最低限のバランス調整はしておく。ユンユンの実力を考えると、これくらいは言っておかないと勝負として成立しないだろう。




 今回は思い付きで始まったこともあり、お互い何の仕込みもできないまま戦いが始まる。いつもは見られて戦う側だが…、こうして観戦する側にまわるのは何だか新鮮だ。


「それじゃあいくぞ…。お互い位置について」

「はい!」

「うぃ~」

「 …はじめ!!」


 瞬殺禁止という事もあって、お互い間合いの取り合いから始まる、緩やかな立ち上がり。


 ニャン子は当然、速攻型の拳闘士スタイル。拳闘士には様々な型があるが…、ニャン子は寝技などのホールド系は使わない。速度と手数で相手をホンロウするスタイルのようだが…、どうにもスキル構成やステータスから判断するに、もう1つ奥の手を仕込んでいく型のようだ。まぁ大体予想できるが…、まだ必須スキルは未収得だろう。


 対するユンユンは、ヒーラー経由という事もあり装備は中型物理攻撃系杖の[ステッキ]を装備している。L&Cでは、RPGによくある謎の武器縛りがないので、もっとお手軽に打点を確保できる装備、例えば[レイピア]などを装備してもいいのだが…、それはしないようだ。


 プレイヤースキルは圧倒的にニャン子の方が上。しかし武器のリーチはユンユンが上なので、先手をとれるのはユンユンになる。まぁ勝敗は見えているが…、ユンユンがどこまで善戦するか、そこがポイントだろう。


 ジリジリと距離をつめる2人。


 やがて、[ステッキ]の間合いに入り、ユンユンが仕掛ける!


「はっ!!」

「あまいにゃ」

「フッ!」


 素早い突きだったが、当然のように払いのけるニャン子。しかし、ユンユンはバックステップで即座に優位な間合いを外してしまう。


 ユンユンの作戦は「ニャン子の追撃を後ろに飛んで回避して、そこにもう1撃入れる」とかだろう。ニャン子はこれに付き合わず。結果的にユンユンが臆して距離をとったように見える展開になった。


 結局のところユンユンには、相手の動きを見て反射で対処するスベはない。こうして山をはり、それに相手がハマってくれるのを祈る。それが唯一の勝ちスジなのだ。


「それじゃあ、そろそろ終わらせるのにゃ~」

「はい、望むところです!」


 ニャン子はそう言って、悠々とした歩みで距離をつめていく。


 当然ユンユンはそれに合わせて、距離を保ちながら絶えず突きを放ちつづけるが…。


 そのすべてが、ニャン子の拳に吸い寄せられ、明後日な方向に受け流されてしまう。素人目から見れば「もっと足を狙うなり、フェイントを混ぜるなりしないと!」と思う展開だが…、2人の間にはソレを許さないほどの実力差がある。


 せめて、ユンユンに思い切って懐に飛び込むだけの度胸があれば、こんな一方的な展開にはならなかっただろうが「接近したら確実に負ける」事が分かっているユンユンには、浅い距離から永遠と牽制攻撃を撃ちつづけるしか選択肢がないのだ。


「まだつづけるにゃ?」

「 …ま、まいりました」


 最後はユンユンの心が折れて終わり。せめて最後に悪あがきでもと思ってしまうが、それをするにも精神力は必要になる。ニャン子がそこまで見切っていたかは分からないが…、今のユンユンの精神はソレすらもかなわないほど消耗していた。


「ニャン子、大人げなさすぎ。ちょっと反省しとけ」

「 …はぁ~」

「え、あぁ…、その、ごめんなさい」


 降参するなり地べたにへたり込むユンユン。それを見てニャン子も素直に謝る。


 ユンユンも生活がかかっているので、これくらいで諦めたりはしないだろうが…、さすがにこれはお互いキツい展開だ。




 こうして気まずい雰囲気の中、ニャン子とユンユンの初試合は終わった。

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